中国WeBankのブロックチェーン活用:ESGインフラストラクチャ構築の最新動向

※ このページには広告・PRが含まれています

今回は、中国WeBankのブロックチェーン活用について、一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. WeBankとは
    1-1. WeBankの概要
    1-2. WeBankが提供しているサービス
  2. WeBankとブロックチェーン
    2-1. 2年連続「Forbes Blockchain 50」に選出
    2-2. ブロックチェーンプラットフォーム「FISCO BCOS」
    2-3. クレジットスコアの管理
  3. ブロックチェーンを用いたESGインフラストラクチャの構築とは
    3-1. プロジェクトの概要
    3-2. WeBankのESGへの取り組み
  4. プロジェクトの今後の展開
    4-1. データ管理とプライバシー保護の確立
    4-2. 信頼性の信頼性の高いガバナンスの構築
    4-3. ESG関連ビジネスの実装促進
  5. まとめ

「ESG」という視点が世界的に重要視される中、中国の「WeBank(微衆銀行)」がブロックチェーン技術を活用して新たなESGインフラストラクチャの構築に挑戦しています。同社の分散型ビジネス技術開発部副部長、ファン・ルイビン氏によると、このプロジェクトはESGの発展を支える堅牢な技術基盤を築くことを目指しており、多くの関心を呼んでいます。

本記事では、WeBankが推進するこの革新的なブロックチェーンを用いたESGインフラストラクチャについて、その概要やプロジェクト内容を分かりやすくご紹介します。

1. WeBankとは

1-1. WeBankの概要

Webank
「WeBank(微衆銀行)」は、2014年12月に設立された中国初のデジタル銀行です。中国のインターネット企業「テンセント」が主要株主で、アリババ系列の「網商銀行(MYBank)」などと共に、深圳を拠点に設立されました。

WeBankは、インターネットで蓄積された膨大なデータとテクノロジーを活用し、従来は金融サービスの対象になりにくかった中小企業や個人消費者をクライアントとし、金融機関と顧客をシームレスにつなぐことを目指しています。デジタル銀行であるWeBankは、実店舗や支店の営業拠点は持っておらず、すべての銀行業務をオンラインで行っています。そのため、ユーザーはスマートフォンやパソコンからアカウントを作成し、いつでもどこでもオンラインで銀行業務を利用できます。

また、後述しますが、WeBankはシステムにブロックチェーン技術を導入し、データの安全性とプライバシーを守っています。WeBankは最新技術を活用し、信頼性と利便性の高いサービスを提供。設立から5年で1億7,000万人ものクライアントを獲得し、中国国内で急成長している企業です。

1-2. WeBankが提供しているサービス

WeBankが提供する主なサービスは以下の通りです。

マイクロローン

WeBankは、簡単な審査プロセスと低金利で個人向けマイクロローンを提供。緊急で資金が必要な人に便益をもたらし、最大50,000元まで借りられます。

オンライン預金

WeBankはデジタル銀行なので、口座開設から預金、引き出し、送金まで全てオンラインで完結。日常取引口座と高利回り口座の2つのオプションがあり、高利回り口座では一定期間預金することで高い金利が得られます。

クレジットカード

WeBankはVISAブランドのクレジットカードを発行。キャッシュバックやポイント還元などの特典があり、オンラインで申請できるため審査がスピーディです。

投資商品

WeBankは株式、債券、ファンドなどの投資商品を提供。取引プラットフォームには市場情報や分析、取引システムが揃っており、投資に興味のある人にとって利便性が高いです。

保険

WeBankは健康保険、自動車保険、旅行保険などの保険商品を提供。保険の申請もオンラインで完結し、保険金の請求もスムーズに行えます。

WeBankは、クライアントのニーズに合った多様な商品を展開し、利便性の高さからユーザー数を増やしています。
商品展開を行っており、その利便性の高さから日々ユーザー数を拡大しています。

2. WeBankとブロックチェーン

WeBankは、機械学習、クラウド、ブロックチェーンといった先端技術を活用し、非常に高いクライアント体験を提供しています。WeBankは2020年時点でブロックチェーン領域の特許取得数で世界第3位を誇り、積極的なプロジェクト開発を進めています。

以下では、WeBankがこれまで行ってきたブロックチェーン技術を用いたプロジェクトについて詳しく紹介していきます。

2-1. 2年連続「Forbes Blockchain 50」に選出

WeBankは2022年と2023年の2年連続で「Forbes Blockchain 50」に選出されています。

「Forbes Blockchain 50」は、アメリカの経済誌「Forbes」が発表する、ブロックチェーン技術を活用している企業50社のリストです。このリストでは分散型台帳技術を主導し、世界のブロックチェーン市場の影響力拡大を推進している企業が選出されます。リストには金融、製造、物流、テクノロジーなど多岐にわたる業界の企業が含まれており、それぞれ独自のブロックチェーン技術を開発し、ビジネスに導入して成長を遂げています。

WeBankは、権威あるリストに2年連続で掲載される実績を持ち、中国だけでなく世界でもブロックチェーン業界をリードする存在となっています。

2-2. ブロックチェーンプラットフォーム「FISCO BCOS」

FISCO BCOS
WeBankでは、ブロックチェーンプラットフォーム「FISCO BCOS」の開発を行っています。

FISCO BCOSは、多くの分散ノードで構成されるプライベートブロックチェーンを提供し、高い拡張性と利便性を実現しています。また、スマートコントラクトを実行できる仕組みがあり、企業や組織は自分たちのビジネスに合ったアプリケーションを開発できます。FISCO BCOSは、WeBankだけでなく、JD Finance、Huawei、ZTE、テンセントなど、合計100以上の企業が開発に関与しています。金融業界を中心に、IoTやサプライチェーン管理などの分野でもFISCO BCOSが採用されています。例えば、商品の流通履歴をブロックチェーン上に記録し、偽物や不正な商品の流通を防止することができます。

このように、FISCO BCOSは分散型アプリケーションを構築する企業や組織にとって利便性が高く、今後さらなる発展が期待されています。

2-3. クレジットスコアの管理

WeBankは、ブロックチェーン技術を活用し、クライアントのクレジットスコア管理を支援しています。

このプロジェクトでは、WeBankがクライアントの信用情報を収集し、ブロックチェーン上に記録することで、大量のデータを安全に保管しています。さらに、保管された情報を信用情報機関や金融機関に提供することで、ローンなどの利用時に迅速な対応が可能となっています。

3. ブロックチェーンを用いたESGインフラストラクチャの構築とは

3-1. プロジェクトの概要

2022年4月、WeBankの副社長兼最高情報責任者であるヘンリー・マー氏は、ブロックチェーン技術がESG分野で活用できる可能性について言及しました。

ESGは、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、および「企業統治(Governance)」の頭文字をとった言葉で、企業の持続可能性を示す指標です。気候変動や社会課題が世界的に懸念される中、ESGは企業の長期的成長に重要な要素となっています。

WeBankは、ブロックチェーン技術を活用し、信頼性のあるガバナンスや分散型デジタルIDなどを導入したESGアプリケーションのフレームワークを開発しています。これにより、企業がESG関連の課題を迅速かつ効率的に解決できることを目指しています。ヘンリー・マー氏は、今後のブロックチェーンの使命として、公正で持続可能な発展を促すESGに特化した信頼できるインフラストラクチャの構築を挙げています。WeBankはこれまでの知見を活かし、この目標を実現していく予定です。

3-2. WeBankのESGへの取り組み

WeBankは元々ESG分野への取り組みが積極的で、社内に「ESG委員会」を設置し、銀行全体の戦略レベルでESGガバナンス機能を強化するなど、ESGの管理システムを確立しています。また、グリーンファイナンスローンの提供など、クライアントがESGを促進するよう働きかけを行っています。その他にも、太陽光発電や再生可能エネルギーを活用した「グリーン産業」向けの特別プロジェクトを実施し、グリーン産業の発展を支援しています。

WeBankの本社ビルは「開放性」、「健康」、「環境保護」、「知性」の4つの設計コンセプトを採用しており、人と環境に配慮した建築物を評価する国際認証制度「LEED認証」の「プラチナ」レベルと、中国国内で環境負荷を削減した建築物に対する「グリーンビルデザインラベル」の3つ星を獲得するなど、ESGへの取り組みを積極的に進めています。

4. プロジェクトの今後の展開

4-1. データ管理とプライバシー保護の確立

WeBank副社長兼最高情報責任者のヘンリー・マー氏は、ESGインフラストラクチャの構築にあたり、信頼性のあるデータとプライバシー保護の確立が重要であると述べています。ESG関連アプリケーションには多くの要素が関与するため、関連データの信頼性は一層重要になります。また、データの機密性が高まる可能性があるため、コンプライアンスの観点からもデータ収集が難しくなっています。そこで、WeBankはブロックチェーンを活用し、ESGアプリケーションをより利便性の高い形で実現することを目指しています。

4-2. 信頼性の高いガバナンスの構築

ヘンリー・マー氏は、ESGインフラストラクチャの構築において、信頼性の高いガバナンス確立の重要性にも言及しています。前述の通り、ESGには様々な要素が関わるため、これらのメカニズムが明確化されることで、より多くの人々の参加が促され、認識が広がり、高い信頼が築かれます。WeBankはブロックチェーンが持つマルチパーティ・コンセンサス、プライバシー保護、インセンティブの互換性などの特徴を活かし、十分な透明性が確保されたESGガバナンス体制の確立に努めています。

4-3. ESG関連ビジネスの実装促進

WeBankの分散型ビジネス技術開発部副部長、ファン・ルイビン氏は、産業デジタル化に焦点を当てた業界展開が行われてきたものの、ESGの観点が無視された現状を指摘しています。今後はブロックチェーンを活用し、業界発展と環境や社会問題への配慮を両立させることを目指していると述べています。具体的には、カーボン・ニュートラル分野で、ブロックチェーンと他のガバナンスフレームワークを組み合わせることで、個人や企業の参加を促進できるとしています。また、ファン・ルイビン氏は地方活性化にも言及し、ブロックチェーンとIoTを組み合わせることで、消費者が信頼できるトレーサビリティ・プラットフォームを構築できると語っています。

WeBankは、ブロックチェーンを活用してESGをさらに促進し、高い信頼性と利便性を兼ね備えたESGインフラストラクチャを構築することで、ESG関連ビジネスの実装を促進し、環境問題や社会問題の解決に寄与することを目指しています。

5. まとめ

WeBankは中国初のデジタル銀行として業界をリードし、ブロックチェーン分野での豊富な経験とノウハウを活かし、高い信頼性と透明性を兼ね備えたESGインフラストラクチャを構築しています。

近年、世界中でESGが重要視される中、WeBankはブロックチェーン・テクノロジーを活用して徹底的なデータ管理とプライバシー保護を実現し、企業がESG取り組みをアピールしやすい環境を構築することで、その動向が今後も注目されるでしょう。

The following two tabs change content below.

中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12