一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業とは
1-1.事業の概要
1-2.応募要件 - 公募対象枠
2-1.地域共創・セクター横断型テーマ枠
2-2.ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠 - 公募から採択までの流れ
3-1.公募
3-2.書面による事前審査
3-3.ヒアリング審査
3-4.採択課題の決定 - 実際の採択事例
4-1.令和6年度一次公募
4-2.令和5年度二次公募 - まとめ
2024年5月24日、環境省は「令和6年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業の新規課題」について、二次公募をスタートすることを明らかにしました。
今回の公募は、民間企業や大学、団体などを対象として、令和6年5月24日から同年6月28日まで行われるということで、日本全体でカーボンニュートラルへ向けた動きが進められている今、大きな反響を呼んでいます。
そこで今回は、令和6年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業の公募について、その概要や詳しい内容、また採択までの流れなどを解説していきます。
①地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業とは
1-1.事業の概要
日本政府は、2030年度に温室効果ガス46%削減、さらに2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を達成することを宣言しており、長期目標としては、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において、脱炭素社会を早期に実現することを掲げています。
そして、実際にこれらの目標を実現するためには、さまざま分野でさらなる二酸化炭素削減が可能なイノベーションを創出し、一刻も早く社会実装することが必要不可欠となっています。
具体的には、二酸化炭素の排出削減に関するテクノロジーの高効率化や低コスト化などのための課題を解決し、優れた排出削減テクノロジーを生み出して実社会に普及させていくことによって、将来的な地球温暖化対策の強化につなげることが重要であり、国内でもすでにさまざまな取り組みがスタートされています。
しかしその一方で、二酸化炭素排出削減に寄与するテクノロジーの開発は、リスクが比較的大きく、収益性が不確実であるほか、産業界が自発的に対策を強化するに至るまでのインセンティブが少ないことから、民間に任せるだけでは必ずしも十分に進展しない状況にあります。
そのため、国の政策上必要な、二酸化炭素排出量を大幅に削減するテクノロジーの開発および実証を国がリードして推進していくことが必要不可欠となっています。
環境省では、中でも特に、「第六次環境基本計画」における「地域循環共生圏」という観点のもと、急速に拡大を見せている「ゼロカーボンシティ宣言自治体」などにおける先導的なテクノロジー開発の取り組みをサポートし、それぞれの地域の特性を活かして、脱炭素かつサスティナブルで強靱な活力ある地域社会を構築することが極めて重要であると説明しています。
こうした動きの中、今回の事業では、将来的な地球温暖化対策の強化につながる高い二酸化炭素排出削減効果を有するテクノロジーの開発および実証を強力に推進していくことを明らかにしており、これによって、二酸化炭素排出量の大幅な削減を実現し、地域の活性化と脱炭素社会の同時達成をサポートするということです。
また、脱炭素に向けた取り組みを地域が主体となって行い、その取り組みが全国の各地域に広がることを指す「脱炭素ドミノ」を誘発することによって、「第六次環境基本計画」が掲げる「地域循環共生圏」の構築と、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が目指す早期の脱炭素社会の実現に貢献するとしています。
1-2.応募要件
応募要件としては、事業に参画する者(技術開発・実証事業を実施する者)は、国内の技術開発機関などに所属している技術開発者等と定められています。
なお、ここで言う「技術開発機関等」とは、下記に挙げるいずれかに該当する者とされています。
- 国立または独立行政法人と認められる研究開発機関
- 大学、高等専門学校
- 地方公共団体の研究開発機関
- 民間企業
- 独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人のうち事業に必要な設備・技術開発者を有するもの
- 特例民法法人ならびに一般社団法人・一般財団法人および公益社団法人・公益財団法人のうち事業に必要な設備・技術開発者を有するもの
- その他支出負担行為担当官(環境省地球環境局長)が適当と認める者
また、脱炭素社会の実現に向けたイノベーションに挑戦する企業など(例:「ゼロエミ・チャレンジ」企業)からの応募も歓迎するということです。
②公募対象枠
今回の事業に関しては、公募対象枠として下記の二種類が用意されています。
2-1.地域共創・セクター横断型テーマ枠
前項でも触れましたが、脱炭素社会を実現するためには、二酸化炭素排出削減テクノロジーのさらなる高効率化や低コスト化に向けた課題を解決し、より優れたソリューションを生み出すとともに、それを実社会に普及させていくことによって、将来的な地球温暖化対策の強化につなげることが極めて重要だと考えられています。
また、地域のニーズや課題解決につなげると同時に、社会の脱炭素化を目指すためには、実際に利用するユーザーなどの参加も含めた「オープンイノベーション」の視点が必要となっています。
そのため、環境省では、国の政策を前提として、地域社会におけるニーズおよびそれぞれのセクターにおける取り組みに関して、相互に連動した課題をテーマとして設定し、あらゆるステークホルダーがイノベーションのパートナーとして参画する地域共創・セクター横断型の取り組みを実施しています。
この取り組みによって、脱炭素化を目指す地区のニーズを満たすべく、地域ごとの特有の課題や共通の課題について、それぞれの地域の特性を活かしながらの解決を図るとともに、身近なところから国民にも脱炭素化に向けた意識を醸成するべく、イノベーションのスピーディーな社会実装をサポートすることを目指すということです。
なお、令和6年度については、特に下記に挙げるテーマについて重点的に実施していく方針を明らかにしています。
気候変動 × 住宅・建築
「建材一体型太陽光発電システム」といった次世代太陽電池の用途開発や実用化を通じて再生可能エネルギーの導入を拡大するとともに、省CO2改修テクノロジーや共同住宅向けテクノロジーの開発、エネルギー消費・二酸化炭素排出量の見える化、省CO2診断の促進などを図るということです。
さらに、グリッドとの協調による電力消費の効率化や調整力の提供によって、地域での再生可能エネルギー導入拡大に貢献するビルや工場などの開発を行うなど、「気候変動×住宅・建築」に資するテクノロジーの開発と実証を重点的にサポートするということです。
気候変動 × 農林水産・自然
農山漁村での再生可能エネルギー導入を目指し、それぞれの地域ごとに異なる原料特性に対応した利用効率化テクノロジー、地域内で利用率の低いバイオマス原料を安定的かつ持続的に調達するテクノロジー、エネルギー効率の高い熱利用テクノロジー、さらに、農林水産業のベースとなる生物多様性を活かした生物模倣による革新的な省CO2テクノロジー開発など、「気候変動×農林水産・自然」に貢献するテクノロジーの開発と実証を重点的にサポートするということです。
気候変動 × 地域交通
地域住民の移動などにも欠かせない交通手段であり、我が国の経済活動や国民生活を支える基幹的輸送インフラとして重要な役割を担う「ゼロエミッション船舶」の導入、既存のエンジンなどの設備および機器類を活用できるバイオ燃料の開発、実環境における実証や、電力供給の方法やタイミングの運用面、電力供給設備などのインフラ整備の普及に関するテクノロジー開発など、「気候変動×地域交通」に貢献するテクノロジーの開発と実証を重点的にサポートするということです。
2-2.ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠では、「地域循環共生圏」の構築および脱炭素社会の実現を目指して、将来的な地球温暖化対策の強化につながり、各分野における二酸化炭素削減効果が相対的に大きいものの、開発リスクなどの問題から、民間の自主的な取り組みだけでは十分に進まないテクノロジー開発や実証を対象として、公募を実施するということです。
③公募から採択までの流れ
3-1.公募
冒頭でも触れた通り、公募は令和6年5月24日から同年6月28日の期間で行われます。
なお、応募にあたって留意すべき事項としては、環境省を含む他の公募事業などによって実施中のテクノロジー開発・実証事業と内容が類似しているものについては、応募することができないと定められています。
また、今回の事業で実施した内容については、その成果を広く国民へ情報提供していくこととされているため、事業実施中もしくは終了後に、環境省自らが発表する場合や成果発表会などにおいて、事業者に発表をお願いするケースもあるということです。
さらに、環境省担当官の要求に応じて必要な情報などを提示しなければならないほか、これに限らずとも、事業の実施内容に関しては、事業の範囲外においても積極的にその成果を公表するように努めることが求められます。
3-2.書面による事前審査
公募が終了した後は、令和6年7月中旬から7月下旬にかけて、書面による事前審査が行われます。
具体的には、応募課題について、各種要件の確認、行政的観点からの評価などについて書面による事前審査が実施され、その上で、委員会によるヒアリング審査にかける応募課題を選定するとしています。
なお、応募分野に応じてヒアリング審査の日時が異なるため、事前審査の結果は委員会のおよそ5日前までに代表者に対して通知され、この過程において、応募課題に関して環境省から提案内容の補足説明を電話などによって要求されるケースがあるということです。
3-3.ヒアリング審査
その後、令和6年8月下旬から9月上旬にかけて、ヒアリング審査が行われます。
具体的には、下記に示す観点からヒアリングを行った上で、採否などについて審査が実施されるということです。
- 技術課題の妥当性
- 技術的意義
- 政策的意義
- 目標設定・達成可能性
- 実施体制・実施計画
- 技術の事業化・普及の見込み
- 事業化体制
- 総合評価
なお、審査結果は10点満点の評価点で示され、問題ないレベル(採択しても良いレベル)を6点にすると定められています。
3-4.採択課題の決定
その後、令和6年9月下旬に、採択課題の決定が行われます。
なお、事業の採否および委託額の決定は、委員会による審査・議論をもとに実施され、採択にあたっては、評価結果や委員の意見などを考慮して、計画の内容、事業費、実施体制などの変更を条件として付すケースや、応募内容(課題名等)も変更されるケースがあるということです。
④実際の採択事例
ここでは、これまでの公募において採択された実際の事例をいくつか紹介していきます。
4-1.令和6年度一次公募
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ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:株式会社愛研化工機
共同実施者:国立研究開発法人産業技術総合研究所、愛媛県産業技術研究所、愛媛大学、日本エヌ・ユー・エス株式会社
課題名:染色繊維工場に最適な分散型創エネルギー排水処理システムの事業化実証研究開発 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:株式会社赤阪鐵工所
課題名:舶用メタノールDFエンジン用メタノール噴射および燃焼機構の開発 -
地域共創・セクター横断型テーマ設定枠「気候変動×地域交通」
代表事業者:井本商運株式会社
共同実施者:Marindows株式会社
課題名:普及型第二世代電気推進船及び低コスト化・標準化を実現する汎用プラグインハイブリッド電気推進船(PHEV)プラットフォームの開発と実証 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:株式会社川崎技研
課題名:中小規模廃棄物処理施設向けガス改質による炭素回収率向上技術の開発及び発電利用 -
地域共創・セクター横断型テーマ設定枠「気候変動×住宅・建築」
代表事業者:タイガー魔法瓶株式会社
共同実施者:赤澤機械株式会社、岐阜プラスチック工業株式会社、ミサワホーム株式会社、日本通運株式会社
課題名:ステンレス密封長寿命不燃真空断熱パネル技術開発・実証 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:東レ株式会社
課題名:清涼飲料水製造工程のCO2排出量削減に向けた高耐熱分離膜モジュールの技術開発・実証 -
地域共創・セクター横断型テーマ設定枠「気候変動×農林水産・自然」
代表事業者:NanoSuit株式会社
共同実施者:株式会社日立製作所、大日本印刷株式会社、山九株式会社、国立研究開発法人産業技術総合研究所、東京農業大学、浜松医科大学
課題名:生物模倣を活かした革新薄膜による食品ロス削減とモーダルシフトの実現の社会実装事業
4-2.令和5年度二次公募
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ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:株式会社アイシン
共同実施者:東北大学
課題名:地域水素利活用を推進する純水素SOFCシステム技術開発・実証 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:高圧ガス工業株式会社
共同実施者:株式会社日本テクノ、株式会社堀場製作所
課題名:アセチレンガス直接制御による常圧窒素アセチレンガス浸炭方法の開発 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:住友商事株式会社
共同実施者:ソニー知的財産サービス株式会社
課題名:エネルギー利用に向けた籾殻のマテリアルフロー最適化による機能性材料開発及び実証 -
ボトムアップ型分野別技術開発・実証枠
代表事業者:西部ガス株式会社
共同実施者:株式会社IHI、株式会社JCCL、国立大学法人九州大学、一般社団法人日本ガス協会、ひびきエル・エヌ・ジー株式会社、北海道ガス株式会社、広島ガス株式会社、日本ガス株式会社
課題名:地域原料活用によるコスト低減を目指したメタネーション地産地消モデルの実証 -
地域共創・セクター横断型テーマ設定枠「気候変動×建築」
代表事業者:株式会社マクニカ
共同実施者:ペクセル・テクノロジーズ株式会社、株式会社麗光
課題名:港湾などの苛烈環境下におけるPSCの活用に関する技術開発
⑤まとめ
今回、2024年5月24日より、「令和6年度地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」の二次公募がスタートしました。
日本政府が「2050年カーボンニュートラル」の達成を宣言している中、この公募では、二酸化炭素排出量を大幅に削減するテクノロジーの開発および実証を国がリードし、推進していくことを目的として、各分野において革新的なテクノロジーの開発を行っている企業や団体からの募集を募っています。
実際、脱炭素に寄与するテクノロジーの開発や実証を行いたいものの、予算が足りずに実行に移せないという企業や団体も多いのではないでしょうか。
そんな方々は、ぜひこのチャンスを逃さず、一度公募について理解を深め、応募にチャレンジしてみることをおすすめします。
中島 翔
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