一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「地域脱炭素ロードマップ」とは
1-1.「地域脱炭素ロードマップ」の概要
1-2.「地域脱炭素ロードマップ」策定の背景 - .地域脱炭素実現のための取り組み
2-1.脱炭素先行地域づくり
2-2..全国規模の脱炭素化ソリューション - .基盤施策の横断的取り組み
3-1.地域の体制構築と国の強化支援
3-2.「グリーン×デジタル」での新たなライフスタイルの提案
3-3.社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーション - 今後の動き
4-1.地域脱炭素ロードマップの実行
4-2.各地域の取り組み事例 - まとめ
2020年10月に日本政府が宣言した「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けて、国内ではさまざまな動きが進められています。
そんな中、近年は特に市町村などといった地域ごとで脱炭素をテーマにしたムーブメントが活発化しており、これをサポートする形で「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。
そこで今回は、国が進めているカーボンニュートラル取り組みにおける「地域脱炭素ロードマップ」について、その概要や詳しい内容などを解説していきます。
1.「地域脱炭素ロードマップ」とは
1-1.「地域脱炭素ロードマップ」の概要
「地域脱炭素ロードマップ」とは、2021年6月9日に環境省によって発表された、カーボンニュートラルの達成に向けた地域の成長戦略をとりまとめたもののことを指します。この地域脱炭素ロードマップでは、特に脱炭素プロジェクトの工程や具体策などが整理されており、中でも2030年までに重点的に行う取り組みについての言及がされています。
そもそも「地域脱炭素」とは、脱炭素を成長のチャンスと考える地域の成長戦略のことを言い、今ある再生可能エネルギーなどの地域資源を最大限活用して経済を循環させるだけでなく、防災や生活のクオリティの向上といった地域の課題をあわせて払拭することを目的としたムーブメントとなっています。そして、この地域脱炭素ロードマップでは、ますます深刻化している気候変動問題の解決に向けた具体的な活動を提示することで脱炭素社会を叶えると同時に、地域社会の成長や課題解決にも貢献していくということです。
1-2.「地域脱炭素ロードマップ」策定の背景
前項で地域脱炭素とは何かについて簡単に説明しましたが、地域脱炭素に関する一連のムーブメントでは、特に自治体や地域企業、市民が主人公になって、一人一人が地域をさらに盛り上げていくことを目指しています。また、2020年10月には政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指す「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことなどを受けて、国と地方の協働および共創による活動を進めることの必要性が強調されることとなりました。
こうした状況の中、環境省は地域脱炭素の重要性を重んじ、地域脱炭素ロードマップを策定したということになります。このロードマップでは、2021年からの5年間を「集中期間」として定めており、政策を総動員することによって地域脱炭素の活動をさらに加速するとしています。すでに日本各地の地域において本格的な動きが展開されており、これからも引き続きロードマップの内容に沿ってさまざまな施策が実行されていく予定となっています。
では、実際のロードマップの内容について紹介していきます。
2.地域脱炭素実現のための取り組み
2-1.脱炭素先行地域づくり
地域脱炭素ロードマップでは、日常生活に密接に関わる領域での温室効果ガス削減を重点としています。具体的には、家庭や業務関連の「民生部門」における電力消費による二酸化炭素排出をネットゼロにするとともに、運輸部門を含むその他の分野においても、2030年度の国の目標に合わせた削減を実現する方針です。さらに、2025年度までにそのための具体的な策を策定することが決められています。
「脱炭素先行地域」として特定される地域では、住宅や公共施設、商業施設などの建物、自動車、農林水産、観光、廃棄物処理などの分野で、以下の7つの主要な取り組みが推進されます。
- 再生可能エネルギーの最大限の導入
- 住宅や建築物への省エネと再生可能エネルギーの採用、蓄電池としてのEV、PHEV、FCVの利用
- カーボンニュートラル燃料や未利用熱の活用
- デジタル技術を活用した地域特有の脱炭素取り組み
- サーキュラーエコノミーへの移行を目指した資源の循環推進
- ゼロ排出の電気・熱・燃料の供給
- 地域の自然資源を活用したCO2吸収対策
脱炭素先行地域は、その地理的・気候的特性に基づき、以下のようなカテゴリに分類されます:
- 住生活エリア:戸建て主体の住宅地、集合住宅主体の住宅地
- ビジネス・商業エリア:地方の中心市街地、大都市中心部、大学キャンパス
- 自然エリア:農山村、漁村、離島、観光地、国立公園
- 施設群:効率的なエネルギー管理が可能な公的施設など
地方自治体や地元企業、金融機関が主導して、先行地域づくりに関する総合的なプロジェクトを展開します。これに伴い、デジタル化、防災・減災、国土の強靱化などの多岐にわたる課題の同時進行が期待されています。
事業開始後は、環境省など関係省庁と連携し、プロジェクトの進行状況や経済的成果を「温対法」に基づいて定期的に評価・分析し、透明性を維持する方針です。また、優れた実践を持つ地域を表彰することで、成功事例の共有や人材の育成も進められる予定です。
2-2.全国規模の脱炭素化ソリューション
地域脱炭素ロードマップは、脱炭素取り組みの可能性が先行地域のみに限定されないと指摘しています。国内各地での地域活性化を目指した独自の取り組みが増えている一方、多くの自治体や事業者はその方向性を明確に求めています。以下は、全国で展開すべき脱炭素の基盤となるソリューションの一覧です。
- 自家消費型の太陽光発電(例:屋根設置)
- 地域共生・地域裨益型再生可能エネルギーの選定
- 公共施設や業務用ビルにおける省エネと再生可能エネルギーの導入、及び「ZEB」化
- 住宅や建物の省エネ性能の向上
- ゼロカーボン車の普及
- サーキュラーエコノミー実現のための資源循環の強化
- コンパクト・プラス・ネットワークによる炭素削減型の都市開発
- 食品産業や農林水産業における生産性と持続可能性の両立
3.基盤施策の横断的取り組み
3-1.地域の体制構築と国の強化支援
地域脱炭素ロードマップは、地域脱炭素の成功のためには多様な主体の連携が必要と強調しています。地方自治体、金融機関、主要企業などの主体的な役割が欠かせません。さらに、国の支援体制も要求されており、以下の観点から国の継続的なサポートが必要だとされています。
- 専門家の派遣や研修の提供
- デジタル技術を活用した情報共有やノウハウの提供
- 資金的支援
また、国の強化支援策として、地域の実態に即した地方支部(地方農政局や経済産業局など)が各地での取り組みをサポートします。これにより、地域の特色や課題を具体的に捉え、効果的な支援が期待されています。
3-2.「グリーン×デジタル」での新たなライフスタイルの提案
地域脱炭素ロードマップによれば、商品やサービスの温室効果ガス排出量を「可視化」し、国民が日常生活で脱炭素に繋がる選択を容易にできる社会の構築を目指しています。この目標を達成するため、デジタル技術、特にブロックチェーンを利用して、サプライチェーン全体での環境への影響を明確にし、その情報を公開・認証していく方針です。
さらに、こうした可視化された情報を基盤に、ポイント制度などを導入し、国民が自らの行動で地域の環境や経済を後押しできる体制の構築を進めています。具体的に提案されている取り組みは以下の通りです。
①製品やサービスの温室効果ガス排出の明示
②CO2削減ポイントやナッジの普及促進
- 企業が環境配慮行動に対するインセンティブを提供
- 地域でのCO2削減ポイントの拡大
- ナッジによる持続可能な行動への奨励
- 地域産品や再生可能エネルギーを通じた地域と都市住民との連携強化
- ふるさと納税の特典としての再生可能エネルギーの活用
- デジタルインフラの脱炭素化
③脱炭素意識の啓発と行動変容の推進
- ゼロカーボン活動の具体的な目標設定
- 脱炭素アンバサダーによる模範行動
- 環境教育による脱炭素への理解の向上
3-3.社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーション
地域脱炭素ロードマップでは、導入に比較的長い時間を必要とし、且つ多岐にわたる主体が関わる再生可能エネルギー開発や住宅・建築物・インフラなどの領域については、制度改革などによって実効性を確保するとしています。
なお、具体的には下記のようなソリューションを展開していくということです。
①「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」を活用した地域共生および裨益型再生可能エネルギー(再生可能エネルギー事業の収益を地域に留めること)の促進
地域脱炭素ロードマップでは、太陽光発電などの地域の未利用再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限活かすという観点から、再生可能エネルギー導入の数値目標とそれを踏まえた事業者の予見可能性向上にも資する具体的な促進区域の設定を行うということです。
なお、その際に適切な地域環境の保全や地域の経済および社会的課題の解決に寄与する活動とあわせて検討することによって、円滑な地域合意形成を図りつつ、国と地方自治体が連携してプロジェクトを進めることができる環境を確立するとしています。
②風力発電の特性に合った環境アセスメントの最適化などによる風力発電促進
「環境アセスメント制度」について、立地や環境影響などの洋上風力発電の特性を踏まえた最適なあり方を、関係省庁や地方自治体、事業者などの連携のもとで検討するとともに、陸上風力などについても引き続き効率化に取り組むということです。
また、洋上風力発電の導入促進のため、海域における鳥類などの環境情報の充実や海外事例を参考にした環境保全措置の手法を検討するとしています。
③地熱発電の科学的調査実施を通じた地域共生による開発加速化
地域脱炭素ロードマップでは、温泉事業者などの地域の不安を解消するため、科学データの収集および調査を実施し、円滑な地域調整による案件開発を加速化するということです。
また、これらのプロジェクトを含む「地熱開発加速化プラン」において、10年以上という地熱開発までのリードタイムを最短8年まで短くするとともに、2030年までに全国の地熱発電施設数を現在のおよそ60施設から倍増させるとしています。
④住宅や建築物領域の対策強化のための制度的対応
地域脱炭素ロードマップでは、住宅の省エネルギー基準義務付けなど、住宅や建築物の規制的措置を含む省エネルギー対策についてのロードマップを策定すること、また「木材利用促進法」を踏まえた建築物への木材利用の促進を行っていくということです。
4.今後の動き
4-1.地域脱炭素ロードマップの実行
ロードマップではこれからの展開について、すぐにスタートできることは直ちに実行に移していくとともに、「地球温暖化対策計画」や「長期戦略」、「成長戦略実行計画」、「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)」をもとにした「地方公共団体実行計画」のほか、法制度などの各種施策に随時反映しつつ、国や自治体、地域企業などが一体となってスピーディに実行に移していくと説明しています。
また、ロードマップの進捗管理については、「地球温暖化対策推進本部」が担っている進捗管理の一環として引き続き行うとともに、国と地方による連携調整を目指して、両者がさまざまな場を通じて継続的な意見交換を行っていくということです。
このほか、ネットゼロの達成に向けては、ロードマップに盛り込まれた地域の暮らしや社会に密接に関わる活動とあわせて、温室効果ガス排出の8割以上を占めるとされるエネルギー領域の取り組みが特に重要になるとしており、電力部門以外においては、革新的な製造プロセスや炭素除去テクノロジーなどのイノベーションが不可欠であると語っています。また、電力部門に関しては、再生可能エネルギーの最大限の導入や原子力の活用などによって脱炭素化を進め、脱炭素化された電力を用いることで電力部門以外の脱炭素化を進めていく計画だということです。
4-2.各地域の取り組み事例
国内の各地域では実際に、ロードマップに沿ったプロジェクトがスタートされています。
具体的な例を挙げると、神奈川県小田原市においては「EVを活用した地域エネルギーマネジメントモデル事業」として、EVに特化したカーシェアリングサービスである「eemo(イーモ)」がスタートされました。これは、カーシェアリング事業を行う「株式会社REXEV」および地域新電力の「湘南電力株式会社」が連携したことによって実現されており、EVを動く蓄電池として地域におけるエネルギーの効率化を図り、脱炭素型地域交通モデルの確立を目指しています。
このように、国内では地域脱炭素に向けたムーブメントが活発化しており、これからもますますその規模を拡大していくことが期待されています。
5.まとめ
地域脱炭素ロードマップは、2021年6月9日に環境省によって発表されたカーボンニュートラルの達成に向けた地域の成長戦略をとりまとめたもののことを指し、特に自治体や地域企業、市民などといった地域の関係者が主役になって、一人一人が地域を盛り上げていくことを目指しています。このロードマップ内では脱炭素に向けてそれぞれの地域が行うべき対策が具体的にまとめられており、すでにいくつかの地域が実際の活動をスタートしていることから、その動向には大きな関心が集まっています。
政府が掲げる「2050年カーボンニュートラル」を達成するためには、国だけでなくそれぞれの地域が能動的な働きかけを行うことが重要となっているため、この機会に地域脱炭素ロードマップへの理解を深め、我々一人一人が当事者意識を持って行動していくようにしましょう。
中島 翔
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