カーボンクレジットの炭素国境調整措置とは?

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 炭素国境調整措置とは
    1-1.炭素国境調整措置の概要
    1-2.炭素国境調整措置誕生の背景
  2. 炭素国境調整措置のメリット
    2-1.カーボンリーケージの防止
    2-2.新たなビジネスチャンスの創造
  3. 炭素国境調整措置の課題
    3-1.WTOとの整合性
    3-2.制度設計の多様性とその複雑さ
    3-3.各国からの反発
  4. 各国の炭素国境調整措置をめぐる動き
    4-1.EU(欧州連合)
    4-2.カナダ
    4-3.アメリカ
  5. まとめ

近年、温室効果ガスの排出と吸収のバランスを図る「カーボンニュートラル」に対する関心が国内外で高まっています。この流れの中、欧州連合(EU)は「炭素国境調整措置」の導入を発表しました。EUは、2023年からの試行期間を経て、2026年に炭素国境調整措置を本格的に始めるとのことで、多くの国々がこの新しい動きに注目しています。

今回は、炭素国境調整措置の内容やメリット、さらに各国の対応について詳しくお伝えします。

1. 炭素国境調整措置とは

1-1. 炭素国境調整措置の概要

炭素国境調整措置、または「CBAM(Carbon Border Adjustment Measure)」は、温室効果ガスの排出に関する料金を取ることで、その削減を目指す「カーボンプライシング」の一つです。

この措置は、国内の気候変動対策の進行に伴い、他国との対策の強度に生じる競争上の不公平を避けるためのものです。具体的には、海外から輸入する商品に対し、商品の生産時に排出される温室効果ガスの量に基づいた料金を設定する制度です。

2023年7月の時点で、この制度の対象となる製品には、鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力、水素などの環境への影響が比較的大きいものが含まれています。これらの製品を輸入する事業者は、対策コストの支払いを義務づけられています。今後、プラスチックなども対象に含まれるかもしれません。さらに、2030年までには、紙などの他の素材が追加されることも考えられています。

炭素国境調整措置を採用することで、気候変動対策の強度が異なる国々でも製品のコスト競争条件を揃えることが期待され、その結果、不公平感を緩和することが可能となります。このため、現在多くの国でこの措置に対する注目が高まっています。

1-2. 炭素国境調整措置誕生の背景

温室効果ガスの排出を全体的にゼロにする「カーボンニュートラル」への取り組みが世界各国で進行中です。しかし、国ごとの技術や産業の違いから、気候変動対策の取り組みには差が存在します。このような不公平性に対する懸念から、炭素国境調整措置の考え方が生まれました。

この措置は、特定の製品を他国に輸出する際、温室効果ガスの排出量に基づいて金銭的な課金をすることで、環境への配慮が厳格な国の企業も国際的に競争力を維持できるというメリットがあります。

さらに、この措置は「カーボンリーケージ」という問題も考慮しています。具体的には、企業が排出規制が緩やかな国へ生産拠点を移転し、結果として全体の炭素排出量が削減されない現象を防ぐ狙いがあります。

このような理由から、炭素国境調整措置は気候変動対策としての有効性が期待されており、今後の動向に多くの関心が寄せられています。

2. 炭素国境調整措置のメリット

2-1. カーボンリーケージの防止

カーボンリーケージの問題を解明すると、これは炭素排出規制の厳しい国の製品が、規制の緩い国の製品に比べて競争上不利になることを指します。この不利さにより、製造業者は生産拠点を緩い規制の国へと移転する可能性があり、結果的に全球の炭素排出量は減少せず、さらには増加する危険性があります。

例えば、炭素コストを課せられている自国製品が、課せられていない他国製品よりも競争上不利になった場合、自国での生産が減少し他国での生産が増えるため、それに伴って炭素の排出も他国に流出することになります。

しかし、炭素国境調整措置の導入によって、炭素排出が多い国からの輸入品に課金し、自国の輸出品には課金を返還することで、公平な競争環境を築き、カーボンリーケージを阻止することが期待されます。

2-2. 新たなビジネスチャンスの創造

炭素国境調整措置はまだ新しい制度の試みですが、この制度が実際に導入されると、新しいビジネスの機会が生まれると期待されています。

この措置が実施されることで、企業は炭素効率の高い製品や輸送技術の開発に注力するようになるでしょう。これにより、環境技術の革新や新しいITサービス、環境に優しい商品などのビジネスチャンスが増える可能性があります。

また、国際市場での競争力を高めるための新しい戦略やアプローチが必要となり、企業の再編や連携、技術移転などの新たな動きも生まれることでしょう。不動産や企業を誘致する自治体にとってもチャンスの幅が広がるのではと期待されています。

3. 炭素国境調整措置の課題

3-1. WTOとの整合性

WTOは「World Trade Organization」の略であり、国際的な貿易に関するルールを制定している国際機関です。この組織はスイスのジュネーブに本部を置き、貿易に関する国際的なルールを策定しています。

WTOは「輸入品に国産品より高い基準を求めない(最恵国待遇原則)」という国際ルールを設けており、炭素国境調整措置との調整の必要性が生じています。

具体的には、炭素国境調整措置が、国境を越えて取引される商品について、各国毎の内国税の差異を調整する「国境税調整」の範疇に収まるものであるかという点に関して確立された解釈が存在していないこと、また、輸出の際の還付に関しても、「補助金協定」と整合的になるのかという点について別途の検討が必要であるとされています。

このように、炭素国境調整措置がWTOの定めるルールと相反しないか、しっかりとした整合性が取れているのかについて、今後も議論および調整を進めていくことが求められています。

3-2. 制度設計の多様性とその複雑さ

炭素国境調整措置を導入する際には、多くの要素を考慮しなければなりません。具体的には、以下の9つの要点から適切な選択を行う必要があります。

  1. 貿易の調整範囲: 輸入品だけを調整するのか、輸出品へのリベートも含めるのか。
  2. 自国の政策: 明示的な炭素価格だけにするのか、それとも暗示的な炭素価格も考慮するのか。
  3. 輸入課金の対象国: 気候変動に積極的に取り組む国を免除し、後発の開発途上国には配慮する。
  4. 対象セクター: 炭素コストの影響を受けやすい分野に限るのか、より広範な領域に拡大するのか。
  5. 製品排出量の範囲: 工場内排出だけ(スコープ1)や購入電力を含む排出(スコープ2)、商品のライフサイクル全体での排出(スコープ3)のいずれを基準にするか。
  6. 製品排出量の計算方法: 重量や価格で割り振るのか、それとも製造プロセスごとに計算するのか。
  7. 調整時の排出量: 工場や企業ごとの実際の排出量をベースにするのか、業界のベストプラクティスや平均値を基準にするのか。
  8. 適用価格: 原則として国内の炭素価格と同じにするのか、それとも他の方法を取り入れるのか。
  9. 政府収入の使途: 国内の環境プロジェクトに投資するのか、途上国支援に活用するのか。

これらの要素は単独ではなく、組み合わせることで環境への効果や行政の管理容易性などが変わります。そのため、どの組み合わせが最適か、産業セクターに応じてどのような制度設計が必要かを明らかにするため、さらなる議論と検討が続けられています。

3-3. 各国からの反発

炭素国境調整措置の導入について、国際的な意見は一致していません。

積極的にこの措置を支持する国々は、全球的な炭素排出削減のためにはこの措置が不可欠だと主張しています。しかし、特に中国やインドのような新興経済国や途上国からは、自国の製品の輸出に大きな障壁となるとして懸念の声が上がっています。

さらに、措置の導入に反対する途上国からは、これを温暖化問題の交渉の場で議論すべきだとの意見が出ており、その結果、交渉が難航するリスクや「南北の格差」が拡大する可能性についての懸念も存在しています。

炭素国境調整措置の導入に関する議論はまだ途中であり、多くの課題が残されています。そのため、各国はこの問題についての協議と検討を継続しています。

4. 各国の炭素国境調整措置をめぐる動き

4-1. EU(欧州連合)

EUは、2023年を試行期間とし、2026年に炭素国境調整措置を本格的に実施する予定としています。この動きに具体的な日程も存在し、2023年4月25日にEUの加盟国が正式に措置の導入を承認し、今年の10月からは移行期間が開始される予定です。

EUへの輸出を行う企業は、製品の二酸化炭素排出量を報告することが求められることとなり、当初は特に鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料、水素といった、製造段階での排出が多い製品が対象となる見込みです。EUは、今後対象とする品目をさらに増やすことを考えています。しかし、EUと同じレベルの規制を持つ国や地域からの輸入に関しては、この措置を適用しない方針を明らかにしています。日本企業への影響は現段階では限定的とされています。ただ、対象品目の拡大に伴い、将来的には対応が求められる可能性が考えられます。

EUは、WTOのルール違反を避けるため、輸出に関する返金(輸出還付)を実施しないとの立場を取っています。実際、2022年6月に欧州議会で承認された初期の規則案「欧州排出量取引制度(EU ETS)」では、輸出品の生産分に対してのみの輸出還付が含まれていました。しかし、後の議論でこの部分は削除されたのです。

EUは、炭素国境調整措置の先駆者としての役割を果たしており、2026年の実施に向けて準備を進めています。

4-2. カナダ

カナダは炭素国境調整措置の導入に向けての検討を進めています。2021年8月から秋にかけて、地方政府や産業団体、労働・環境団体、専門家らとの間で2回の協議が行われました。この際、制度設計の課題を整理したディスカッションペーパーが公開されましたが、具体的な協議結果の詳細はまだ公表されていません。

しかし、カナダの首相、ジャスティン・トルドー氏は、「カーボンプライシングのグローバル最小原則」の導入を目指すとの方針を示しています。関係閣僚への指示を受けて、綿密な議論や検討を経て、準備が進められています。

4-3. アメリカ

アメリカは温室効果ガスの大量排出国として知られています。過去には排出量削減対策が進展しづらかったため、炭素国境調整措置への動きは少なかったのですが、2021年に就任したバイデン政権は2005年比で50%〜52%の排出削減を目指すと発表。この結果、炭素国境調整措置への関心が再燃しています。しかし、経済や貿易への影響を考慮し、この措置は「最後の手段」として位置づけられています。

5. まとめ

炭素国境調整措置は、輸入品の温室効果ガス排出量に応じた金銭的な負担を導入する制度で、他国との気候変動対策の差異による不公平を緩和する狙いがあります。この制度は、カーボンニュートラルを目指す上でのメリットを持つと注目され、EUでは2026年の本格導入を予定しています。日本も、他国の動きや国内のカーボンプライシングを考慮しつつ、検討を進めています。

確かに、WTOの規則との調和や他の課題が存在しますが、カーボンクレジット市場の成長とともに、この措置の重要性は増してきています。今後の国際的な動きに注目が集まる中、続報を待ちたいところです。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12