大手金融システムの相互運用を実現する「Canton Network」とは

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今回は、Canton Networkについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. 「Canton Network(カントンネットワーク)」とは
    1-1.「Canton Network(カントンネットワーク)」の概要
  2. 開発元「デジタルアセット(Digital Asset)」について
    2-1.「デジタルアセット(Digital Asset)」の概要とは
    2-2.「デジタルアセット(Digital Asset)」の事業内容
  3. 「Canton Network(カントンネットワーク)」の特徴
    3-1.金融システム同士の相互運用を実現する
    3-2.さまざまな大手企業や金融機関が参加している
    3-3.多岐にわたるユースケースが想定されている
    3-4.既存のブロックチェーンの課題を解決
  4. 「Canton Network(カントンネットワーク)」の今後の動向
    4-1.さまざまな企業や金融機関へのシステム導入
  5. まとめ

2023年5月9日には、アメリカを中心に活動するブロックチェーンの企業「デジタルアセット(Digital Asset)」から「Canton Network(カントンネットワーク)」という新しいブロックチェーンネットワークの始動が報告されました。

既に公開されているCanton Networkは、「マイクロソフト(Microsoft)」や「ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)」をはじめとする、幅広い大手企業や金融機関の参加により一段と注目を浴びています。そこで今回は、最近発表されたこの「Canton Network」の全貌と特色を紐解いてみましょう。

1.「Canton Network(カントンネットワーク)」とは

1-1.「Canton Network(カントンネットワーク)」の概要

「Canton Network(カントンネットワーク)」とは、2023年5月9日にアメリカを基盤にしたブロックチェーンの企業「デジタルアセット(Digital Asset)」が新たに始動させたブロックチェーンネットワークのことを言います。Canton Networkは、主に機関投資家のために設計されたもので、プライバシーを保護しつつも、異なるシステム間での運用を可能にするオープンなブロックチェーンとなっています。

開発の目的は、金融システム間の相互運用を可能にすることであり、これにより企業や機関投資家が資産管理を行う上で有用なツールとして活用できるとされています。加えて、Canton Networkはデジタルアセットが開発したスマートコントラクト言語「Daml」を活用して、アプリケーションを接続します。これにより、金融市場の異なるシステム間での相互運用および同期が可能となるのです。

また、先にも触れた通り、Canton Networkはすでに「マイクロソフト(Microsoft)」や「ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)」をはじめとする数多くの大手企業や金融機関から支持を受けています。この事からも、その注目度の高さが伺えます。

2.開発元「デジタルアセット(Digital Asset)」について

2-1.「デジタルアセット(Digital Asset)」の概要とは

「デジタルアセット(Digital Asset)」は、Canton Networkの開発元で、アメリカを拠点とするブロックチェーンの専門企業です。デジタルアセットは、アメリカのニューヨークをはじめ、イギリスのロンドンやスイスのチューリッヒなどにもオフィスを設け、世界各地で業務を展開しています。その各拠点では、この領域に精通したプロフェッショナルなチームが集まり、事業を推進しています。

デジタルアセットは「ビジネスと市場の接触方法を革新する」をモットーに掲げ、さまざまなソフトウェアやシステムを繋げて、情報と価値が無駄なく流通するネットワークを作り上げることに尽力しています。具体的には、彼らが提供するイノベーティブなソリューションを用いてビジネスとワークフローを再構築し、クライアントが従来のITシステムから新たなブロックチェーンシステムに至るまで、すべてのネットワーク間で円滑な接続を実現するようなサービスを提供しています。

デジタルアセットの技術者や専門家は、それぞれの領域で高い専門性を持っており、クライアントが抱える問題や課題に対して、その深い知識から革新的な解決策を提供できます。デジタルアセットは、ますます高まるネットワーク同士の連携に対応するため、既存のネットワークの枠組みを越えるテクノロジーを提供し、「ネットワークのネットワーク」としての役割を担っています。

2-2.「デジタルアセット(Digital Asset)」の事業内容

デジタルアセットは、断片化して孤立したシステムを、スムーズに相互接続可能なネットワークに転換することに力を注いでいます。具体的には、デジタルアセットが開発を手掛けているスマートコントラクト言語「Daml」を用いて、業務を自動化し、企業のコスト削減とリスク軽減をサポートします。さらに、信頼できて一貫性のあるデータを提供し、イノベーションの促進と市場投入までの時間の短縮を図ります。そして、将来に対応可能なビジネスモデルの基盤構築をサポートしています。

デジタルアセットの主なプロダクトとして、「Daml Enterprise」と「Daml Hub」があり、これらは多様なビジネスの現場で使用されています。

「Daml Enterprise」は、グローバルな接続と同期を可能にし、それぞれのビジネスニーズに応じて拡張できるフルスタックのマルチパーティーソリューションを素早く市場に導入する能力を持っています。また、デジタルアセットのエキスパートが24時間365日のサポートを提供しているため、クライアントは安心して導入することが可能です。一方、「Daml Hub」は、ビジネスの核となる業務を担当するために開発されました。これにより、クライアントはビジネス価値を創造することに集中でき、さらにDamlで構築されたアプリケーションを小規模から大規模までシームレスに導入することが可能となります。

3.「Canton Network(カントンネットワーク)」の特徴

3-1.金融システム同士の相互運用を実現する

前述の通り、既存の金融システムは分断化・孤立化が進んでいて、多くのビジネスに影響を及ぼす可能性がありました。Canton Networkはそのような既存のシステムの問題を克服し、様々な金融システム間でシームレスに相互運用が可能な環境を実現しています。それは企業が孤立したシステムと比べて、コストとリスクを大幅に削減できるようになるだけでなく、作業を自動化することで業務の効率を向上させることが可能になるからです。さらに、信頼性と一貫性のあるデータを提供することで、イノベーションと市場投入までの時間を大幅に短縮し、将来的なビジネスモデルの基盤を構築することが可能になります。

そのような訳で、Canton Networkは既存の金融システムが抱えていた課題を根本的に解決し、様々なビジネスシーンでの利用が可能な、利便性の高いサービスを提供しています。

3-2.さまざまな大手企業や金融機関が参加している

前述の通り、Canton Networkには以下のような多数の大手企業や金融機関が既に参加しており、その総数は30社にも上ります。

  • マイクロソフト(Microsoft)
  • SBIデジタルアセットホールディングス
  • ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)
  • パクソス(Paxos)
  • シーボー・グローバル・マーケッツ(Cboe Global Markets)
  • ムーディーズ(Moody’s)
  • BNPパリバ(BNP Paribas)
  • S&P グローバル(S&P Global)
  • カンバーランド(Cumberland)

これらの参加企業・機関の存在は、Canton Networkの有用性と広範な適用性を強く示しています。これらの企業・機関がCanton Networkに参加することで、より広範なデジタルアセットと金融システムの統合が可能となり、その効果は各業界全体に波及すると考えられます。Canton Networkは確かに大きな注目と期待を集めていることは間違いありません。クリス・ズエルケ氏のコメントが示すように、Canton Networkはプライバシー要件の維持とブロックチェーンの可能性の活用を両立することで、業界の要望に応えることができる画期的なプロジェクトとなっています。また、そのユニークなアプローチは、複数のスマートコントラクトをまたがるアトミックトランザクションを実行する能力とともに、これらのワークフローをチェーン上で実行するための必要な構成要素を提供します。

3-3.多岐にわたるユースケースが想定されている

Canton Networkの高い信頼性と利便性により、多くのユースケースが想定されています。企業や金融機関はCanton Networkに参加することで、資産、データ、現金などをシステム間で同期することが可能になります。したがって、資産の記録や決済、担保を使用した金融取引など、多くのシーンで利用することが可能です。

具体的な例として、現在の市場の資産登録システムや現金支払いシステムは各々独立したサイロ化されたシステムとなっています。しかし、Canton Networkを使用することで、デジタル債券とデジタル支払いを2つの個別のアプリケーションにまたがる1つのアトミックトランザクション(同時処理)として構成することが可能となります。このように、Canton Networkは様々なビジネスモデルにおけるトランザクションの柔軟性と効率性を大幅に高めることができると考えられます。

Canton Networkを利用すれば、運用リスクを排除した安全な取引が可能となります。この特長により、Canton Networkはこれまで困難とされていた金融システム間の相互運用の実現に向けた革新的なプロジェクトとして注目を集めています。また、デジタルアセットにおいては、Canton Networkを用いることで業務の効率向上やリスク管理を行いつつ、新たな金融商品の提供チャンスを模索しています。その可能性から、Canton Networkの今後の展開に対する期待が高まっています。

3-4.既存のブロックチェーンの課題を解決

デジタルアセットは、Canton Networkの公式発表で、スマートコントラクト機能を備えた既存のブロックチェーンが金融機関などで広く採用されていない現状を認識しています。その原因として、主に以下の3つの課題が挙げられています。

  • プライバシー保護やデータ管理機能が不十分であること
  • 管理と相互運用の両立が難しいこと
  • 拡張性(スケーラビリティ)に限界があること

しかし、Canton Networkはその高い機能性により、これらの課題を解決可能であるとしています。Canton Networkはスマートコントラクト言語「Daml」を基にしたアプリケーションの相互運用を可能にし、厳格な規制環境下でも安心して活用できるよう、適切なガバナンス、プライバシー設計、そして管理体制を導入。これにより、それぞれ独立したシステム間の相互運用を実現しています。

4.「Canton Network(カントンネットワーク)」の今後の動向

4-1.さまざまな企業や金融機関へのシステム導入

デジタルアセットは今後、ネットワーク参加企業や金融機関を中心に、システムの具体的な導入を進める予定です。

デジタルアセットの公式ウェブサイトによれば、ゴールドマン・サックスは既にトークン化インフラにおいてDamlを活用しているとのことです。具体的には、パブリックブロックチェーン上でエンドツーエンドのトークン化された資産インフラストラクチャの開発をDamlを使って行っているとのことです。また、アメリカとオーストラリアに拠点を置く炭素取引プラットフォーム企業「エクスパンシブ(Xpansiv)」は、使いやすい炭素取引のグローバルマーケットプレイスの展開に取り組んでいます。Damlの利用を通じて、「ESG」に関する未来の商品市場の創出を目指しています。

ESGとは、「Environment(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(ガバナンス/企業統治)」の頭文字を取った言葉で、気候変動や人権などの世界的な社会課題を踏まえた企業の長期的成長戦略を示すものです。これらの観点は、現代社会においてますます重要性を増しています。ESGへの配慮が欠如している企業は、投資家から企業価値が損なわれるリスクを持つと見なされることが多いため、企業経営における重要な要素となっています。現在、世界中の企業がESGに向けた取り組みを進めています。

さらに、デジタルアセットはヨーロッパの大手金融市場及びインフラプロバイダー、「ドイツ取引所グループ(Deutsche Börse Group)」と戦略的テクノロジー・パートナー契約を結んでいます。同グループの発行者サービス・新デジタル市場責任者、イェンス・ハクマイスター氏は、Canton Networkについて、将来のデジタル・分散型金融市場インフラの重要な一部と位置付けています。

Canton Networkは、このように多様なパートナーシップを結び、広範なインフラの相互運用を実現へと動き出しています。参加企業については、7月から各種アプリケーションやユースケースに関して、相互運用性の機能に関するテストが開始されるとの報告があります。

5.まとめ

「Canton Network」は、デジタルアセットによって新たに立ち上げられたブロックチェーンネットワークで、プライバシーを尊重した相互運用性を持つオープンブロックチェーンとして注目を集めています。Canton Networkは、それぞれの金融システムが相互に運用可能な環境を提供し、以前は断片化・孤立化していた金融ネットワークを一つにつなげることを可能にします。すでに数多くの大手企業や金融機関がネットワークへの参加を発表しています。これからは、具体的な導入に向けたテストが始まるため、どのような形でプロジェクトが進展し、またどの金融機関が同様の動きを見せるかが注目点となります。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12