22月10月31日、株式会社NTTドコモは日本発のパブリックブロックチェーンAstar Network(ASTR)の開発を手がけるStake Technologies株式会社(ステイクテクノロジーズ)と、Web3.0のさらなる普及のために協力して取り組むことを記した基本合意を締結したことを明らかにしました。
今回は、NTTドコモとAstar Networkの提携について、その概要や今後の方向性などを詳しく解説していきます。
目次
- NTTドコモとは
1-1. NTTドコモの概要と沿革
1-2. NTTドコモの事業内容
1-3. NTTドコモとブロックチェーン - Astar Networkとは
2-1. Astar Networkの概要
2-2. 開発企業Stake Technologies - Astar Networkの特徴
3-1. ポルカドットのパラチェーンと接続している
3-2. dAppsステーキング
3-3. Substrateを採用
3-4. EVMとWASMに対応している - 両社提携の目的と今後の展開
4-1. Web3.0が抱える課題の解決
4-2. 社会課題の解決
4-3. Astar Networkの本格的な日本展開 - まとめ
①NTTドコモとは
1-1.NTTドコモの概要と沿革
NTTドコモは、「新しいコミュニケーション文化の世界の創造」を企業理念として事業展開を行う、日本国内最大手の移動体通信事業者です。
NTTドコモは元々、1990年3月の政府措置における日本電信電話株式会社の移動体通信業務の分離についての方針を踏まえて、91年8月にエヌ・ティ・ティ・移動通信企画株式会社として設立されました。その後は「ショートメール」や「iモード」をはじめとするさまざまなサービスの展開を行い、業界最大手として日本国内の移動体通信業を牽引。13年10月に商号を変更して現在の株式会社NTTドコモとなりました。
NTTドコモでは、個人の能力を最大限に生かし、ユーザーに心から満足してもらえるよりパーソナルなコミュニケーションの確立を目指すとしており、これまで培ってきたノウハウや高い技術力を駆使した高品質なサービスを提供しています。
1-2.NTTドコモの事業内容
①通信事業
- 携帯電話サービス(5Gサービス、LTE(Xi)サービス、FOMAサービス)
- 光ブロードバンドサービス
- 衛星電話サービス
- 国際サービス
- 各サービスの端末機器販売 など
②スマートライフ事業
- 動画配信・音楽配信・電子書籍サービス等のdマーケットを通じたサービス
- 金融・決済サービス
- ショッピングサービス
- 生活関連サービス など
③その他の事業
- 補償サービス
- 法人IoT
- システム開発・販売・保守受託 など
1-3.NTTドコモとブロックチェーン
NTTドコモはこれまでにも、メタバースやNFTなどといった次世代技術のプロジェクトに関わってきた実績があります。スマートライフ事業の新規領域である「XR(クロスリアリティ)」では、テクノロジーの進化が様々な価値を創出するとしており、リアルとデジタルがシームレスにつながるさまざまな体験を提供してきました。
21年11月15日には、メタバース開発およびVRサービスの開発ソリューションの提供を行っている株式会社HIKKYとの資本・業務提携に合意し、HIKKYに対して65億円もの出資を行っています。また、21年11月24日には凸版印刷やKDDI、HashPortやディーカレットとともに、デジタル通貨フォーラムNFT分科会(※)の設立を果たしています。22年1月17日には自社および株式会社電通グループが共同出資する株式会社 LIVE BOARDを通して、NFT広告のBridges, Inc.や仮想通貨メディアCoinPostを手がける「株式会社CoinPostらと協力し、ブロックチェーン・テクノロジーを活用した屋外広告枠を販売する実証実験を行っています。
注釈:デジタル通貨フォーラムNFT分科会は、NFT分野でのデジタル通貨の利用について検討および実証実験を実施し、今後拡大が期待されるNFT分野でのデジタル通貨決済の普及に向けた課題の特定および解決策の提案を行うことを目的とする団体です。
このように、NTTドコモはWeb3.0領域への参入を徐々に進めており、今回Astar Networkと提携したことによって、その動きが本格化すると考えられています。
②Astar Networkとは
2-1.Astar Networkの概要
「Astar Network(アスターネットワーク)」とは、22年1月17日にメインネットがローンチされたばかりの日本発のパブリックチェーンのことを指します。Astar Networkは異なるチェーン同士の相互接続を可能にするハブ(結節点)として稼働し、Web3.0の世界を実現させることを目的としたプロジェクトです。21年12月には、世界で3番目にPolkadotの「パラチェーン」との接続を終え、本格的な稼働をスタートしました。
また、Astar Networkのネイティブトークン「アスター(ASTR)」は、22年9月に日本で初めて「bitbank(ビットバンク)」に上場しました。なお、ASTRは22年11月6日時点において0.04362ドル(約6.33円)で取引されており、時価総額は1.5億ドル(約233.9億円)、仮想通貨の時価総額ランキングで第163位に位置しています。
2-2.開発企業Stake Technologies
Astar Networkの開発を手がけているStake Technologies(ステイクテクノロジーズ)は、ブロックチェーンをはじめとする最新のITテクノロジーを利用し、次世代インターネットとして注目を集める「Web3.0」の実現を目指す企業です。
若干27歳の若き天才と言われている渡辺創太氏がCEOを務めるStake Technologiesは、2019年1月に東京大学の修士、博士、研究員を中心として設立されました。2020年に本社をシンガポールへと移転し、現在は最先端の研究分野における技術的な強みを活かしたブロックチェーンの研究開発やプロダクト開発、コンサルティングや教育事業などを行っています。
また、インターネットが世界に導入されてから約数十年という期間が経過しているにも関わらず、我々のデータが依然として一握りの大企業によって一元管理されているという問題点を提起し、これを解決するために、世界を変える分散型Webである「Web3.0」の実現を目指しています。
そんなStake Technologiesは、国内外から大きな注目を集めており、22年1月には大手仮想通貨ファンドのほか、個人投資家では「イーサリアム(ETH)の共同創設者として知られるギャビン・ウッド氏や、元サッカー日本代表で投資家の本田圭佑氏などから25億円(2,200万ドル)もの資金調達を完了しています。
③Astar Networkの特徴
3-1.ポルカドットのパラチェーンと接続している
Astar Networkはポルカドットにあるパラチェーン100枠の内の1枠を獲得することに成功し、世界で3番目にパラチェーンへの接続を行いました。
パラチェーンとは、ポルカドットのメインチェーンであるリレーチェーン(Relay Chain)」に繋がるブロックチェーンのことを指します。トランザクション(取引)の処理をRelay Chainと共に並列(パラレル)で行うことから、この名前がつけられました。ポルカドットでは、『リレーチェーン』によりパブリックチェーン、プライベートチェーンを含む複数のブロックチェーンの取引情報を相互接続可能にします。
リレーチェーンはブロックチェーンではありますが、接続機能とセキュリティの維持に特化しており、スマートコントラクトをデプロイしたり、実行するために設計されていません。AstarはEVM(イーサリアム仮想マシン)とWASM(ウェブアセンブリー)に対応しているため、イーサリアム互換のDAppsに加えてPolkadotネイティブなDAppsの構築も可能となっています。Astarのようなスマートコントラクト基盤の接続により、ポルカドットエコシステムの発展に大きく貢献すると期待されています。
3-2.dAppsステーキング
Astar Networkの次の特徴は、独自のBuild to Earn(構築して稼ぐ)モデル「dAppステーキング」です。Astar Networkではブロック報酬のASTRの半分がdAppsステーキングに配分されており、開発者:ステーキングするユーザー=4:1の割合で分けられます。
このステーキング報酬はASTRホルダーにとってはdAppを支援(投票)するインセンティブとなります。そして開発者にとってはプロダクト未ローンチの段階でさえ収益を見込めるため、Astar Networkで構築する動機となります。より優れたdAppが誕生する可能性があるというわけです。
3-3.Substrateを採用
Astar Networkは「Substrate(サブストレート)」と呼ばれる独自のフレームワークを用いて開発されています。
Substrateは開発者が Polkadot ネットワークを構成するパラチェーンを作成するために使用する主要なブロックチェーン SDK (開発キット)です。テンプレート化されたシステムの組み合わせによって新たなブロックチェーンを容易に作ることが可能です。
Astar Networkは、このSubstrateを用いて開発が行われているため、ブロックチェーンのアップグレードや拡張などがより簡単にできるようになっています。
3-4.EVMとWASMに対応している
Astar Networkはマルチチェーンに対応できるよう、「EVM(イーサリアム仮想マシン)」と「WASM(ウェブアセンブリー)」という2つの仮想マシン(VM)をサポートしています。
これによりイーサリアム上で構築されたdAppsをより簡単に移行できることに加えて、Cosmos、Solana、Fantom、NEAR Protocolなど、高速処理プラットフォームWASMを使用するブロックチェーンにも対応。Astar Networkはより多くのプログラミング言語で開発を行うことができ、ほかのブロックチェーンとの差別化に成功しています。
④両社提携の目的と今後の展開
4-1.Web3.0が抱える課題の解決
Web3.0は、ブロックチェーンと呼ばれる新しい暗号技術により、巨大企業に依存しなくても、データを多くの個人間で分散管理できるようになる次世代インターネットとして知られています。「メタバース」と呼ばれる三次元空間のサービスやビットコインなどの暗号資産やトークンを使った商取引、そして国境を越えた組織活動のコーディネーションが爆発的に増えることが予想されています。
しかしその一方で、Web3.0はまだまだテクノロジーの黎明期にあり、認知が不足していることや利用方法が難解なこと、また安心な利用環境の整備が十分に行われていないことなど、解決すべき課題が顕在化していることもまた確かです。
そんな中、NTTドコモとAstar Networkが提携し、NTTドコモが持つ知見とAstar Networkが有する技術力や運営ノウハウを組み合わせることによって、Web3.0が抱えるさまざまな課題の解決を目指していくということです。なお、具体的なプロジェクトなどについてはまだ発表されていないため、今後の動向に引き続き注目していきたいと思います。
4-2.社会課題の解決
NTTドコモとAstar Networkは、Web3.0の特徴のひとつとして知られている「分散型自律組織(DAO)」の考え方を活用し、社会課題の解決を目指していくということです。
DAOとは、「Decentralized Autonomous Organization」の頭文字を取ったもので、特定の所有者または管理者が存在しなくとも、事業やプロジェクトを推進できる組織のことを指します。
NTTドコモとAstar Networkは今回の提携を皮切りに、このDAOの概念を用いて、地方創生や環境問題をはじめとする現代社会におけるさまざまな課題に対し、Web3.0テクノロジーを駆使した解決策の立案を行う「社会課題解決プロジェクト」をスタートすると発表しています。なお、こちらも現時点ではプロジェクトの詳細について明らかになっておらず、今後徐々にその内容が公にされていくと見られています。
DAOについて詳細を把握したい方は、併せてこちらの記事をご確認ください。
4-3.Astar Networkの本格的な日本展開
今回NTTドコモと提携したAstar Networkは、これまでに世界各国の仮想通貨関連企業から高額な出資を受けており、グローバルにおいて高く評価されてきました。
そんな中、CEOである渡辺創太氏は自身のTwitterにおいて、「23年に向けて日本展開に本腰を入れていく」とコメントしており、今回の提携を含めた日本国内でのプロジェクト展開に大きな注目が集まっています。実際に、22年6月には国内のWeb3.0事業者を中心としたコンソーシアム組織である「Astar Japan Lab(アスタージャパン・ラボ)」を設立したことを発表しています。
Astar Japan Labは、国内事業者およびWeb3.0サービスプロバイダーの交流や協業を促進することを目的としており、アスター・エコシステムのさらなる発展を目指すためにさまざまな活動を行っていくということです。Astar Japan Labにはすでに、ブロックチェーン・テクノロジーを用いたアプリ開発を行う「double jump.tokyo」や「電通グループ」、「博報堂」や「マイクロソフト」、「アマゾン・ウェブ・サービス」や「ソフトバンク」、「SMBC日興証券」といった数々の大手企業が参加しているほか、福岡市や仙台市といった行政も参加を表明しています。
このように、Astar Networkは日本国内におけるパートナーシップ関係の強化を着実に進めており、今後は日本国内におけるWeb3.0のさらなる普及に向けて、さまざまなプロジェクトの展開を行っていくと見られています。
⑤まとめ
Astar Networkは日本発のパブリックチェーンとして知られており、その機能性や利便性の高さから、世界的にも高い評価を獲得しています。
今回、そんなAstar Networkと国内の移動体通信事業者最大手NTTドコモの提携が発表されたことによって、日本のWeb3.0領域がさらにその発展を加速させていくのではと期待されています。今後は両社が協力して、Web3.0が抱える課題の解決のほか、Web3.0テクノロジーを活用した地方創生や環境問題の解決を進めていくと報告されているため、その動向に引き続き注目していきたいと思います。
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中島 翔
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