国際慈善団体のエレン・マッカーサー財団は6月9日、循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行に関するインパクトレポートを公表した。
同財団によると、2012年の活動開始から12年間で、循環経済は「ニッチから主流へ」と進化し、現在では大企業の55%がサーキュラリティ(循環性)へのコミットメントを表明している。また、世界各国の政府においても循環経済が重要な政策アジェンダとして位置づけられるようになった。同財団は、国連環境計画(UNEP)と協働で展開する「グローバルコミットメント」を通じて、世界のプラスチック包装生産量の20%を占める企業を結集させることに成功。プラスチック汚染問題への取り組みを主導してきた。この取り組みにより、参加企業は市場平均を大幅に上回る環境パフォーマンスを達成している。
財団の影響力は、プラスチック問題への対応にとどまらない。食品産業においては、自然環境にポジティブな影響を与える「ネイチャーポジティブ」なイノベーションを促進。都市を起点とした食料システムの変革を通じて、生物多様性の保全と気候変動対策の両立を目指している。また、循環経済への移行に向けて数十億ドル規模の資金調達を実現し、金融セクターの変革も推進している。ファッション産業においても、財団は「Make Fashion Circular」イニシアチブを通じて、衣服の設計、使用、再利用の方法を根本的に変革する取り組みを展開。毎秒ごみ収集車1台分の衣服が焼却または埋め立てられている現状に対し、循環型ビジネスモデルの導入を推進している。
政策面でも大きな成果を上げている。同財団は、各国政府の政策立案プロセスに深く関与し、循環経済を促進する制度設計を支援。主要国政府間の協力体制の構築にも貢献し、国際的な政策協調の実現に向けて「最高レベルのテーブル」で議論をリードしている。日本においても、循環経済への移行は急速に進んでいる。2022年4月に施行されたプラスチック資源循環促進法により、企業は製品設計から廃棄物処理まで、ライフサイクル全体での対応が求められるようになった。エレン・マッカーサー財団のグローバルな取り組みは、日本企業にとっても重要な指針となっている。
同財団は、循環経済が単なる環境対策ではなく、経済成長と環境保護を両立させる新たな経済モデルであることを実証してきた。廃棄物を排除し、製品と素材を循環させ、自然を再生するという3つの原則に基づくこのアプローチは、気候変動、生物多様性の損失、汚染といった地球規模の課題に対する包括的な解決策として、世界中で支持を集めている。
【参照記事】Ellen MacArthur Foundation “Impact reporting”
【参照記事】Bain & Company “The Future Is Circular: How Companies Can Prepare to Grow in a Changed World”

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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