公益財団法人世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)は11月4日に声明を発表。日本政府が脱炭素社会に向けた戦略を話し合う「GX実行会議」で、二酸化炭素の排出などに金銭負担を求めるカーボンプライシング(CP)の基本的な構想案を示したことを受け、「2030年目標達成のため排出削減を強く促すCPを透明性の高い議論に基づき導入することを要請する」とする声明を発表した。
政府は10月26日、脱炭素社会に向けた戦略を協議するために設けた「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」で、二酸化炭素(CO2)の排出に金銭負担を求めるCPの議論を開始。同会議では、成長志向型CP構想およびGXリーグ(GXL)の段階的発展に関する論点が提示され、並行してGXLに関する学識有識者検討会も開催。23年度のGXLの開始に向けて詳細が議論されている。
これに対し、WWFジャパンは「成長志向型という性格付けは、短期的なコスト負担を避けたり、自主的要素を増やしたりして抜け穴を生じさせるための言い訳としてではなく、中長期的な成長に必須な脱炭素型産業構造への転換に、真に貢献しうる制度を確保するために使われるべき」と指摘。さらに、世界の温室効果ガス排出量の削減目標について「ボランタリーなものではなく、キャップ&トレード型の排出量取引制度(ETS)の導入と炭素税の強化を今回こそ実現する」と主張している。
21年開催のCOP26では、パリ協定における長期目標が事実上1.5度に引き上げられ、達成のためには、今後10年の取組みが極めて重要と認識されたほか、22年4月公表のIPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書では30年までに世界の温室効果ガス排出量を約43%削減させる必要性が示された。
政府は21年4月、30年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減、更に50%の高みを目指すとする目標を表明している。しかし、WWFジャパンは「石炭火力発電の延命につながる電源投資制度や自主的取組みに基づくGXLの実施が目指されるなど、政策は心もとない」と疑問視。
声明では、今後提示される具体案が①排出削減の義務履行に向けた法的強制力を伴うこと②広い範囲の排出主体を制度の対象とすること③排出枠価格の上限・下限設定によって市場を過度に歪めないこと④ETSの導入と炭素税の強化が共に早期に実施されること⑤排出削減の必要性を強く喚起すること⑥透明性のある議論でETSの導入と炭素税の強化が実施されること――の6点を満たすよう求めている。
今後は社会全体を巻き込んだ透明性の高い議論を通じて、CP構想の具体案が6点を満たし、早期かつ適切にETSの導入と炭素税の強化がなされるよう、引き続き状況を注視し、政府に対して必要な提言・要求を行なっていく方針。併せて「WWFジャパンが考える日本で導入されるべきETSおよび炭素税の概要」を示した。
GX実行会議が追求するのは脱炭素と経済成長の両立で、CPはその鍵となる要素。今後10年間で官民合わせて150兆円を超える脱炭素分野への投資が必要と試算されており、政府はCPで将来得られる財源を裏付けとして「GX経済移行債(仮)」を発行し脱炭素分野への先行投資を支援する。調達金額は20兆円規模を見込んでおり、年内に具体的な制度案が公表される見通しだ。
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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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