トヨタ自動車のインド子会社であるトヨタ・キルロスカー・モーター(TKM)は年次環境月間の開始を発表した。インドのEVメディア「EV STORY」が6月8日に報じた。同メディアによると、TKMは「ゼロベース思考」を核とした新たなサステナビリティ・イニシアチブを導入し、資源利用の根本的な見直しを通じて長期的な効率性の達成を目指すという。
この取り組みは、インドでの事業開始25周年という節目のタイミングで発表された。インドは、中国と米国に次ぐ世界3位の規模を誇る世界有数の自動車市場で、2022年には日本を上回る販売台数を記録した成長市場だ。トヨタにとって、この市場でのサステナビリティ・リーダーシップの確立は、将来の競争優位性を左右する重要な戦略となる。
EV STORYの報道によれば、2025年のテーマ「持続可能な資源管理の推進」は、トヨタのグローバルな「環境チャレンジ2050」と連動している。注目すべきは、この活動が製造工程にとどまらず、サプライヤー、ディーラー、地域社会を含むサプライチェーン全体でサステナビリティを組み込むことを目的としている点だ。これは、インドの製造業が直面する環境規制の強化に先手を打つ動きとも解釈できる。
TKMの製造担当執行副社長兼ディレクターのB・パドマナバ氏は「環境月間は単なる年中行事ではなく、現状に挑戦するプラットフォームだ」と述べたと同メディアは伝えている。「ゼロベース思考により、すべての資源と習慣を検証し、長期的価値を生まないものは見直す必要がある」という同氏の発言は、日本の製造業で広く採用されている「カイゼン」の思想をインドの文脈で再解釈したものといえる。
EV STORYが報じた成果データは印象的だ。製造拠点で使用する系統電力の100%が再生可能エネルギーから調達され、水需要の89%以上は雨水の収集と再生水で賄われているという。バンガロール近郊のビダディ工場では廃棄物のリサイクル率が96%に達している。これらの数値は、インドの製造業平均を大きく上回るものだ。インド中央汚染管理委員会のデータによると、同国の産業廃棄物のリサイクル率は平均で約30%にとどまっている。
環境教育への投資も特筆に値する。同メディアによると、TKMが設立した25エーカーの「エコゾーン」学習センターは、すでに4万2000人以上の学生やステークホルダーを受け入れている。これは単なるCSR活動を超えて、将来の環境意識の高い労働力と消費者の育成を狙った長期投資と見ることができる。
今年の環境月間活動について、EV STORYは「TKMサステナブル・ハブ2025」という包括的なプログラムの存在を報じている。その中には、トヨタ技術訓練学院(TTTI)の学生による「グリーン・エキスポ」や、太陽熱調理器やe-バイクなどの展示会が含まれるという。
最も野心的な目標は、プラスチック包装の完全廃止だ。同メディアによれば、TKMは2030年までにプラスチック包装ゼロを目指し、使い捨てプラスチックの2025年7月までの完全禁止といった中間目標を設定している。この動きは、インド政府が2022年に導入した使い捨てプラスチック禁止令をさらに前進させるものだ。
自動車業界のサステナビリティへの取り組みは、欧州や日本では規制主導で進んできたが、インドでは企業の自主的な取り組みが先行している側面がある。トヨタのこうした積極的な姿勢は、他の自動車メーカーにも影響を与え、インドの製造業全体のグリーン化を加速させる可能性がある。
【参照記事】Toyota India Rolls Out Eco Month With Big Bets on Circular Economy

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

最新記事 by HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム (全て見る)
- トヨタ・インド、循環経済への大型投資で環境月間を開始 プラスチック2030年全廃へ - 2025年6月9日
- 米企業で相次ぐサステナビリティレポート公開延期、トランプ政権下でDEI・ESGへの圧力強まる - 2025年6月9日
- アフリカ・太平洋地域の気候変動対策に約4000万ドル承認。GEF、自然を活用した適応策を支援 - 2025年6月6日
- EU、脱炭素化プロジェクトへの支援を大幅拡充 イノベーション基金通じて - 2025年6月6日
- 欧州のグリーンウォッシュ規制でESGファンドが大量改名 化石燃料投資は継続 - 2025年6月5日