アジア開発銀行(ADB)は6月11日、東南アジア地域におけるプラスチック廃棄物管理の改善に向けた新たなデータガバナンスフレームワークを発表した。急速な都市化と使い捨てプラスチックの消費増加により深刻化する廃棄物問題に対し、デジタル技術を活用した包括的な管理体制の構築を提案している。
東南アジアは現在、プラスチック廃棄物の流出による深刻な環境汚染に直面している。各国はプラスチック袋の使用禁止や国家行動計画の採択など対策を講じているものの、水路や海洋へのプラスチック流出は依然として続いている。この問題の背景には、データシステムの断片化、インフォーマルセクターの存在、複雑な廃棄物フローなど、効果的な管理を妨げる構造的な課題がある。
ADBが提案するデータガバナンスフレームワークは、プラスチックのライフサイクル全体にわたる可視性、追跡可能性、説明責任の向上を目指している。IoT(モノのインターネット)、ブロックチェーン、人工知能、スマート追跡システム、モバイルプラットフォームなどのデジタルツールを活用することで、プラスチック廃棄物のリアルタイム監視と分類、生産から廃棄までの追跡、インフォーマル廃棄物収集者とリサイクル市場の連携が可能になる。
データガバナンスの核心は「何を管理すべきか」と「どのように管理すべきか」という2つの基本的な問いに答えることにある。フレームワークでは、戦略レベル(国家レベルの意思決定)、戦術レベル(調整と整合性)、運用レベル(日常的なデータ管理活動)の3層構造で管理体制を組織化し、各レベルに明確な役割と責任を定義している。
インドネシアとベトナムで開発されたこのモデルでは、国家・地域政府機関、産業界代表、コミュニティなど主要なステークホルダー間の関係を明確化している。特に重要なのは、運用レベルからのボトムアップのフィードバックループで、廃棄物収集、分別、データ報告などの現場活動から得られるパフォーマンスデータが戦略レベルの意思決定者に伝わり、ギャップの特定や是正措置の実施、継続的なシステム改善を可能にする仕組みだ。
東南アジアが直面するデータ関連の課題は多岐にわたる。国内外でのデータ品質と可用性の不一致、断片化したデータソース、異なる基準と互換性のないフォーマット、効果的なデータ収集・保存・分析のための技術インフラの不足、データ使用とプライバシーに関する規制・法的差異、限られたステークホルダーの能力などが、証拠に基づく戦略策定を困難にしている。
これらの課題に対し、インドネシアとベトナムでは既にGrac、mGreen、VECAなどの廃棄物管理アプリやブロックチェーンプラットフォームの試験運用が始まっている。また、「プラスチック汚染と海洋ごみに関するグローバルパートナーシップデータハブ」などの地域協力により、データ共有と調整も進んでいる。
データガバナンスフレームワークは、誠実性、透明性、データの正確性、アクセシビリティ、一貫性、コンプライアンス、説明責任という7つの原則に基づいて構築される。これらの原則は、プラスチック廃棄物データの効果的な管理を確保し、循環経済への移行という目標達成を支援する。
ADBは、東南アジアがデジタル化と循環型プラスチック経済への移行を進める中で、デジタルツールと協調的なガバナンスが持続可能な成果を達成するために不可欠であると強調している。このフレームワークは、6月18日にADBが開催する循環経済フォーラムの「プラスチックバリューチェーンのデジタル化」トラックで詳しく議論される予定だ。
【参照記事】Designing an Effective Data Governance Framework for Plastic Waste Management

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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