国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が8月9日に公表した第6次評価報告書(AR6)の報告書について、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズ傘下で責任投資に特化した運用会社であるミローバが8月24日、コメントを発表した。
AR6は3部構成で、このほど公表された第1部では気候変動の物理科学的原則に焦点を当て、AR5(2013年)と18年の特別報告書(SR1.5)に続き、温室効果ガスの排出量を直ちに迅速かつ大規模に削減しない限り、温暖化を1.5℃近く、あるいは2℃以下に抑えることは不可能であると再び強調している。具体的には、人間の活動による温室効果ガスの排出が、産業革命前(1850年〜1900年)以降で約1.1℃の温暖化の要因となっており、今後20年間の平均では、1.5℃以上の温暖化の予想が示されている。
今回の評価の背景として、過去の温暖化を評価するための観測データが改良されたことに加え、人間の温室効果ガスの排出に対する気候システムの反応についての科学的理解が進んだとしている。1.5℃の温暖化では、熱波の増加、温暖期の長期化、寒冷期の短期化が起こり、2℃の温暖化では、極端な暑さが農業や健康にとって危機的な許容限界に達することが多くなるとしており、さらに、気候変動は気温だけではなく、湿乾、風、氷雪、沿岸地域や海洋に影響を与えるさまざまな変化をもたらすと警告する。
ポジティブな点も示す。IPCCは、人間の行動が気候の将来の方向性を変えられる可能性が残っていると考え、気候変動の主要因がCO2であることを再び明言。その意味で、IPCCは、気候を安定させるためには、温室効果ガスの排出量を迅速かつ持続的に大きく削減し、CO2排出量を正味ゼロにすることが必要だとしている。特に、人為的なCO2の累積排出量とそれによる地球温暖化との間にはほぼ直線的な関係があり、CO2の累積排出量が1000GtCO2(CO2としての質量を10億トン単位で表した単位)増えるごとに、地球表面の温度が0.27℃~0.63℃上昇する可能性が高いと算出。地球の温度上昇を特定のレベルに抑えるためには、CO2の累積排出量を生物システムにおける炭素の収入と支出である「炭素収支」の範囲内に抑えることが必要、と示唆している。
IPCCの分析によると、83%という高い確率で温暖化を1.5℃に抑えるためには、世界で大気に放出できる炭素は合計であと300Gtのみ。現在の排出量では、1.5℃の温暖化に対しては、炭素収支が約9年半で枯渇することになる。
ミローバは、投資を通じてインパクトを与えることをミッションとし、特に気候変動は長年にわたり投資アプローチの包括的なテーマに掲げる。AR6の内容を受け、「投資先企業のカーボンフットプリントの削減に取り組み、企業に働きかけることが、ネットゼロ経済を支える強力なツールになる」と表明。そのために、数年前から、顧客がこれらの問題に対処できるよう、さまざまな資産クラスの投資ソリューションを開発してきた。具体的な施策として、Carbone 4社と共同で温室効果ガス排出削減への企業の貢献度を測定する方法と意思決定ツールを開発している。これは、企業の活動のライフサイクルにおいて、直接排出、サプライヤーや製品からの排出の両方を考慮した「誘導」排出、エネルギー効率の向上や環境ソリューションにより「回避した」排出の算定に基づいたものだ。
「この方法は、国際社会が設定した目標(地球温暖化を2℃以下に抑える)に適合する水準を達成するため、株式・債券投資を通じた投資先企業におけるカーボンフットプリントや世界平均気温上昇への影響の測定に役立つ」と同社は自負する。また、2050年までに温室効果ガスの排出をネットゼロにするという目標に向け、脱炭素のソリューションの大規模な導入を促進するため、21年3月にNet Zero Asset Managersの活動に参加した。
AR6は、22年2月、3月に第2部、第3部の公表が予定されており、それぞれ、気候変動の影響・適応・脆弱性(生態系、農業、都市など)、気候変動の経済と緩和について取り上げる。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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