欧州の6都市(ポルトガル・ギマランイス、リスボン、ラトビア・リガ、フィンランド・オウル、ドイツ・ミュンヘン、スウェーデン・マルメ)が、循環型経済(サーキュラーエコノミー)への移行に向けた革新的な取り組みを展開している。学術誌「Circular Economy and Sustainability」に7月25日付で掲載された研究論文によると、これらの都市は、デジタル技術の活用、市民の意識向上、ガバナンス体制の整備、廃棄物管理、公共調達、資源フローの可視化、未利用空間の活用という7つの領域で、それぞれの地域特性に応じた独自のアプローチを実践している。
循環型経済とは、製品や資源の価値を可能な限り長く維持し、廃棄物の発生を最小限に抑える経済システムを指す。従来の「採取・製造・廃棄」という直線的な消費モデルでは、製造過程で使用される原材料の最大90%が消費者に届く前に廃棄され、製品に内包されたエネルギーも早期廃棄により失われているという。欧州委員会は2020年に新たな循環型経済行動計画を採択
し、2050年までに炭素中立で完全な循環型経済の実現を目指している。
デジタル技術の活用では、リスボンが公共調達計画プラットフォーム(PPP)を導入し、調達プロセスにサステナビリティを統合。RFID(無線自動識別)タグ付きの袋を使用した「Save-As-You-Throw(SAYT)」システムで、適切な廃棄物分別を促進している。リガは建設資材の供給者と消費者をつなぐデジタル交換プラットフォームを開発し、建設セクターでの廃棄物削減と再利用を推進。オウルはIoT(モノのインターネット)技術を活用したスマートごみ箱で収集スケジュールを最適化している。
市民の意識向上と教育の分野では、ギマランイスが学校や地域でのワークショップを通じて行動変容を促す「RRRCICLO」イニシアチブを展開。リスボンは都市農園プロジェクトで市民に持続可能な食料生産とコンポスト作りを奨励している。マルメは循環型経済に必要なスキル(リサイクル、修理、持続可能なデザイン)に焦点を当てた「グリーンスキル」プログラムを提供している。
ガバナンス体制では、ギマランイスが学術機関、行政、市民が協働する「ランドスケープ・ラボラトリー」などの学際的チームを活用した「ミッション志向型ガバナンス」モデルを採用。リスボンは民間セクターや学術機関との協働を重視し、ISO20400認証を取得した調達フレームワークを構築している。
廃棄物管理においては、ギマランイスが「Pay-As-You-Throw(PAYT)」システムで廃棄物削減と分別を促進し、たばこの吸い殻を持続可能な建設資材に転換する「EcoPontas」プロジェクトなど、革新的なリサイクル手法を実践。マルメは非リサイクル廃棄物を電気と熱に変換する廃棄物発電施設で、クローズドループ型の資源管理を実現している。
公共調達では、リスボンが入札にグリーン基準を組み込み、調達スタッフに循環型原則を優先するよう研修を実施。リガは資材の再利用と地元調達を重視した調達政策で、環境負荷の軽減と地域経済の成長を促進している。
資源フローの可視化では、マルメがエネルギー、廃棄物、水システムのデータを統合し、地元企業や地域社会を循環型経済の目標に合わせるための包括的なフレームワークを構築。ギマランイスは繊維廃棄物の詳細なマッピングを実施し、アップサイクルと再利用の機会を発見している。
研究は、これらの都市の取り組みから、技術統合、コミュニティの関与、革新的なガバナンスの組み合わせが、循環型経済の原則を都市システムに組み込むために不可欠であることを示している。各都市の多様なアプローチは、世界中の都市にとって拡張可能な教訓を提供しており、環境面での成果だけでなく、経済的・社会的な利益も生み出し、循環型経済を持続可能な都市開発の不可欠な要素としている。
【参照記事】Transforming Urban Landscapes: Circular Economy Practices in European Cities

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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