欧州委員会と欧州投資銀行(EIB)は6月3日、革新的な脱炭素化プロジェクトへの支援を大幅に拡充すると発表した。イノベーション基金を通じたプロジェクト開発支援(PDA)の予算を、従来の2400万ユーロから9000万ユーロ(約150億円)へと約4倍に増額し、2025年から2028年にかけて最大250件のプロジェクトを支援する。
この拡充は、EUが推進する「クリーン産業協定」の一環として位置づけられている。EUは2050年までの気候中立達成に向けて産業界の脱炭素化を加速させる必要があり、特に米国のインフレ削減法による巨額の補助金政策に対抗して欧州の産業競争力を維持する狙いがある。米国が約5兆円規模の製造業への直接補助金を中心とした支援を展開する中、EUは技術開発から実装まで一貫した支援体制を整えることで差別化を図っている。
新たに支援対象となったのは、ネットゼロ・低炭素モビリティ分野(海運、鉄道、道路輸送)と建築物の脱炭素化技術だ。これらの分野はEU排出権取引制度の改正により新たに規制対象となったことで、技術需要が急速に高まっている。日本の海運大手や鉄道技術企業にとっても、欧州市場への参入機会が広がる可能性がある。
初期のプロジェクト開発支援プログラムでは、支援した62件のうち16件がイノベーション基金の助成金獲得に成功し、さらに7件が国内資金源や他のプログラムから資金調達を実現した。この約40%という高い成功率が、今回の大幅拡充の決定を後押しした形だ。
申請プロセスも大幅に簡素化される。従来はイノベーション基金の公募時期に合わせた申請が必要だったが、新制度では企業が直接EIBに相談できる「オープンPDA」方式を導入した。これにより先着順での審査となり、準備ができ次第いつでも申請可能となる。また、新たな成果指標として、地理的バランスの改善や小規模プロジェクトへの支援強化も盛り込まれた。東欧や南欧への支援拡大を図るとともに、技術の成熟度が低い段階のプロジェクトも積極的に支援することで、イノベーションの裾野を広げる方針だ。
ヴォプケ・フクストラ気候行動担当欧州委員は「この支援を通じて、革新的で競争力のある将来の産業基盤の基礎を築いている」と述べ、クリストフ・クーンEIB副総裁は「過去の成功を踏まえ、欧州が最も革新的な変革的クリーン技術を支援する新たな基準を設定している」と強調した。
イノベーション基金は2021年以降、すでに約120億ユーロを投じて欧州経済地域全体で約200件のプロジェクトを支援してきた。今回の支援拡充により、EUの脱炭素化への取り組みがさらに加速することが期待される。日本企業にとっても、自社の技術を欧州市場で展開する好機となる可能性があり、今後の動向が注目される。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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