ブルー水素の活用でCO2排出量実質ゼロに挑戦。三笠市が取り組みの近況を発表

地下の石炭から水素やガスを取り出し、発生する二酸化炭素(CO2)を地下に埋める石炭地下ガス化(Underground coal gasification、UCG)技術が注目されている。UCG事業に産学官で取り組む北海道三笠市は、10月26日、札幌市内で開催された「令和5年度石炭資源有効活用研究会」で事業の最新情報を公表した。

三笠市は道の中部に位置する人口7510人(10月1日現在)の自治体。良質な石炭が発見され、明治時代から採炭事業で栄えた歴史を持つ。エネルギー需要が石油に変わり、1960年前後をピークに炭鉱は次々閉山、人口は50年ほどで八分の一に減少した。地域に活力を取り戻すため、同市が起死回生の施策として打ち出したのが、石炭を活用できるUCGだった。

同市などによると、採掘された石炭は全体の2割に満たず、市内には約7.5億トンの⽯炭が賦存(ふぞん)する。これは⽔素3800億㎥を製造可能な量であり、道内⼀般家庭の約52年分の電気量に相当する。道内全体の石炭の賦存量は約150億トンと試算され、同市モデルを広域展開できれば、地産地消型のエネルギー利用が可能になる。同市は室蘭工業大学、NPO地下資源イノベーションネットワークと連携し、2011年、UCG事業に着手した。

取り組みは現在、ハイブリッド石炭地下ガス化事業「H-UCG」に進んでいる。H-UCGは「Hybrid-Underground Coal Gasification」の略称で、石炭だけでなく木質バイオマス資源も使って水素を製造。さらに水素の製造過程で発生するCO2を地下に固定することで、CO2排出量実質ゼロを目指すクリーンなエネルギー事業の総称。

先進的な取り組みに他の自治体や企業も注目する。21年、ヤフー株式会社の「Yahoo! JAPAN 地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」で採択された。市の地中には、石炭の採掘によって生じた空洞が数多く存在しており、採掘跡にCO2を圧入(CCS)、CO2スラリーを圧送(カーボンリサイクル)する実験を行うことで、産炭地での新たなCO2固定技術の確立に向けたCCUS技術の研究を産学官連携によって進めるというものだ。

さらに、同年には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「水素社会構築技術開発事業/地域水素利活用技術開発(水素製造・利活用ポテンシャル調査)」に太平洋興発株式会社、大日本コンサルタント株式会社(現、大日本ダイヤコンサルタント株式会社)、室蘭工業大学と共同提案した「木質バイオマスと未利用石炭の石炭地下ガス化によるCO2フリー水素サプライチェーン構築に関する調査」が採択されている。

石炭資源有効活用研究会では、同市産業開発課が「ブルー水素製造・利活用による三笠モデルの構築」として紹介。ブルー水素は、天然ガスや石炭などから取り出された水素で、水素の製造工程で発生するCO2を回収・貯蔵することで排出を実質ゼロとする。用途は化学品製造、燃料電池車(FCV)などの運輸関連の燃料、製鉄の還元剤など多岐にわたる。

会場では、三笠モデルの経緯からH-UCG技術、今年9月に行った露頭炭層のガス化実験の概要などが、動画を交え紹介された。特に、石炭採掘跡がCO2貯留場所として活用できる可能性が示され、CO2排出量実質ゼロとなる水素製造の実現に向けて前進した。

同市では今後、木質バイオマス、露頭炭、地中の石炭ガスを原料にした水素の製造、FCVの企業の誘致、さらに高校生レストランに水素調理器具を導入し、水素の活用を身近に体験できる機会の創出も構想している。

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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