ボランタリークレジットとレギュレタリークレジットの現在の動向とポイント

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. ボランタリークレジットとは
    1-1.ボランタリークレジットの概要
    1-2.ボランタリークレジットの特徴
  2. ボランタリークレジットの現在の動向とポイント
    2-1.カーボンクレジットの発⾏・使⽤量
    2-2.イニシアティブ(TSVCM)の動向
    2-3.イニシアティブ(VCMI)の動向
  3. レギュレタリークレジットとは
    3-1.レギュレタリークレジットの概要
    3-2.レギュレタリークレジットの特徴
  4. レギュレタリークレジットの現在の動向とポイント
    4-1.登録および認証状況
    4-2.カーボン・クレジット市場の開設
  5. まとめ

近年、ESG投資が盛んになる中で、企業にとって脱炭素への取り組み強化は避けて通れない課題となっています。それに伴い、「カーボンクレジット」の需要も高まっており、多くのプロジェクトが進行中です。

今回は、これらのカーボンクレジットを、ボランタリークレジットとレギュレタリークレジットに分けて、それぞれの概要、動向、およびポイントについて詳細に解説します。

①ボランタリークレジットとは

1-1.ボランタリークレジットの概要

ボランタリークレジットは、省エネルギー機器の利用や森林保護などによる二酸化炭素の削減・吸収効果をカーボンクレジットとして取り扱う制度です。この制度は、企業間でのクレジット取引を可能にします。パリ協定や2050年カーボンニュートラル、SDGsなどの取り組みが広がる中、カーボンクレジットの需要が増加しています。特に、ボランタリークレジット市場は2021年に前年比で約4倍に拡大し、大きな注目を集めています。

ここで、「ボランタリー」とは英語の「voluntary」から来ており、自発的な行動や参加を意味します。また、「クレジット」は、特定の活動によって削減された温室効果ガスの排出量を基にした取引可能な単位を指します。ボランタリークレジットは、国や地方自治体ではなく、企業やNGOなどの民間セクターが主導し、政策的な制約が少ないため、利用しやすい特長があります。

1-2.ボランタリークレジットの特徴

ボランタリークレジットの主な特徴は、下記の通りです。

①民間主導

前述した通り、ボランタリークレジットとは民間セクターが主導するカーボンクレジットのことを指し、国の政策的な制約を受けることがないため、比較的自由度が高いことで知られています。このことから、温室効果ガスの排出量削減の取り組みを行う上で、どうしても削減できない部分(残余排出量)を相殺して埋め合わせするために、このボランタリークレジットを活用する企業が年々増加しています。

②種類が豊富

ボランタリークレジットはその自由度の高さも相まって、さまざまな種類が存在します。中でも、特に主要なクレジットは下記の通りです。

・VCS(ベリファイド・カーボン・スタンダード)

「WBCSD(World Business Council For Sustainable Development)」や「IETA(International Emissions Trading Association)」などの民間企業が参加している団体が2005年に設立した認証基準・制度。森林や土地利用に関連するプロジェクト(REDD+を含む)や湿地保全による排出削減プロジェクトなど多様なプロジェクトが実施されている。

・GS(ゴールド・スタンダード)

2003年に「WWF(World Wide Fund for Nature)」などの国際的な環境NGOが設立した認証基準・制度。自ら「VER(Verified Emission Reductions)」を発行しているほか、VCSと比較してより厳格な審査基準を設けており、持続可能な開発に関する要件も厳しいことから、信頼性はVCSよりも高いと認識されている。

・ACR(アメリカン・カーボン・レジストリ)

NPO法人として知られる「Winrock International」が1996年に設立した、世界初となる民間クレジット認証基準・制度。風力発電、太陽光発電、バイオマスエネルギー、廃棄物管理などのプロジェクトが取り扱われている。

・CAR(クライメート・アクション・リザーブ)

2001年に創設された「California Climate Action Registry」を起源に持つ認証基準・制度。エネルギー効率向上プロジェクトや再生可能エネルギープロジェクト、森林保護プロジェクトなど、GHG削減や吸収に貢献する活動を対象としている。

③クレジット創出方法が豊富

前述した通り、ボランタリークレジットには比較的多くの種類があるため、それに伴ってクレジット創出方法もかなり多様になっています。代表的なものとしては、下記のような方法が挙げられます。

  • 太陽光発電の導入、風力発電所の建設、バイオマスエネルギーの利用などといった再生可能エネルギーの利用
  • LED照明設備の導入や、燃料転換によるボイラーの更新など、省エネ設備の導入
  • 森林の保護や再植林など、森林のサスティナブルな管理を通じた二酸化炭素吸収の促進

2.ボランタリークレジットの現在の動向とポイント

2-1.カーボンクレジットの発⾏・使⽤量

VCS、GS、ACR、CARなどの主要ボランタリークレジットの発行量および無効化量は、増加傾向にあるものの、2021年から2022年にかけて微減しました。特にVCSとGSの発行クレジットが市場の中心となっており、全体のクレジット発行量は無効化量を大幅に上回っています。各年発行量に対する無効化量の割合は約40%で、着実な脱炭素化が進んでいることが観察されます。

種類別に見ると、再生可能エネルギーや森林・土地に関するクレジットが市場を支えています。プロジェクト別では、「削減活動(Reduction)」由来のものが最多であり、2017年頃から「吸収を含む事業(RemovalおよびMIX)」も増加しています。

2-2.イニシアティブ(TSVCM)の動向

ボランタリークレジットに関連する国際イニシアティブとしては、2020年に「TSVCM」が、2021年に「VCMI」が設立されました。

TSVCMはクレジットのクオリティと評価枠組みを整理し、取引の透明性と流動性を向上させることを主な目的とするイニシアティブで、元イングランド銀行総裁であるマーク・カーニー国際気候行動特使が中心となって立ち上げられました。また、スタンダードチャータード銀行のグループCEOであるビル・ウィンターズ氏が委員長を務めるなど、世界的にも著名な人材が運営を手がけているほか、国際金融協会がスポンサーについていることでも知られています。

TSVCMは2021年1⽉に「TSVCMフェーズ1最終レポート」を公表し、中⻑期的には「削減」ではなく「固定・除去」プロジェクトがより大切になってくることを示唆しました。また、2021年7⽉には続けて「TSVCMフェーズ2最終レポート」を公表し、ハイクオリティなクレジット要件「Core Carbon Principles(CCPs)」の論点をまとめたほか、ガバナンス機関の創設を明らかにしました。その後、2021年9⽉にはガバナンス機関である「The Integrity Council for Voluntary Carbon Markets(ICVCM)」の立ち上げを発表し、2022年7⽉にはハイクオリティなクレジット要件「CCPs」などを公表しました。さらに、2023年7月27日には「CCPs」やその評価枠組の最終版が発表され、プログラムオーナーはCCPの評価審査が申請可能となりました。

なお、TSVCMでは2023年第3四半期、CCP適合プログラムやクレジットタイプの公表をスタートする予定で、この後にはCCPラベル付のクレジットも発⾏できるようになるということです。

2-3.イニシアティブ(VCMI)の動向

VCMIは2021年3月にイギリスのCOP26議長であるアロック・シャルマ氏によって設立が発表されたイニシアティブで、主にクレジットの活用の仕方についての議論を行っている組織のことを指します。

VCMIはボランタリーカーボンマーケットの⼗全性を⾼め、1.5℃⽬標達成に貢献することを⽬的として立ち上げられ、2022年6⽉には企業がクレジットを活⽤する際の指針をまとめた「Claims Code of Practice」の仮案を公表しました。

そしてその後は企業に対して、温室効果ガスの排出量を排出源別に分けた「Scope1-3」について、2050年までのネットゼロ誓約や中間⽬標(2025年まで)の設定などを求めるとともに、クレジットは⾃社⽬標達成に使うのではなく、バリューチェーン外の削減に貢献する⼿段であると位置付けました。

また、2023年7月13日にはカーボンクレジットの活用促進に向けての新たな認証制度を発表しており、具体的には、カーボンクレジットにおいて「プラチナ」、「ゴールド」、「シルバー」という3階級の認証を制定するということです。

なお、この階級は購入したクレジットがその年の企業の「残りの排出量」に占める割合を示しており、企業のカーボンクレジット戦略の意欲を反映していると説明されています。

VCMIは、企業向けに透明性の高いカーボンクレジットの活用に関するガイダンスを策定することによって、民間の脱炭素戦略の一部として定着させることを目指すとしており、今後の動向にも注目が集まっています。

3.レギュレタリークレジットとは

3-1.レギュレタリークレジットの概要

レギュレタリークレジットとは、国や地方自治体によって発行されているカーボンクレジットのことを指します。レギュレタリークレジットは自由度の高いボランタリークレジットと異なり、国の政策的な制約を受けることが多い一方で、国が運営しているという安心感から、その信頼性の高さがメリットとして考えられています。

また、日本政府によるクレジットメカニズムや、国とは異なる地方自治体独自のクレジットメカニズムなども誕生しており、その在り方はますます多様化しています。特に、東京都と埼玉県ではそれぞれ独自にカーボンクレジット制度を導入していることが報告されており、具体的には取引に「キャップ&トレード制度」を採用することで、各事業所に定められた「削減義務量」を超えて削減した分をクレジットとして取引できる仕組みが確立されています。さらに、このほかにも京都府が手がける独自のクレジット「京-VER」や滋賀県の「びわこクレジット」など、さまざまな自治体でユニークな制度が運用されています。

3-2.レギュレタリークレジットの特徴

レギュレタリークレジットの主な特徴は、下記の通りです。

①信頼性が高い

繰り返しになりますが、レギュレタリークレジットは国や自治体が運営を手がけていることから、その信頼性の高さは他に変えられないものがあります。そのため、カーボンクレジットの取引を行ったことがないという企業でも、安心して利用することが可能です。

②いくつかの種類がある

レギュレタリークレジットの種類はボランタリークレジットと比べるとそう多くはないものの、いくつかに分けられているため、下記で簡単に紹介していきます。

・京都メカニズムクレジット

京都議定書に基づき、国連が主導するカーボンクレジットの仕組みを指す。具体的には、他国での排出削減プロジェクトの実施による排出削減量などをクレジットとして取得し、自国の議定書上の約束達成に用いることができる。

・J-クレジット

国が省エネルギーや再生可能エネルギーによる国内の排出削減量、または森林管理による国内の二酸化炭素吸収量をカーボンクレジットとして認証する仕組み。

・JCMクレジット

二国間クレジット制度により、途上国などへの優れた脱炭素技術の普及や対策実施を通して実現した温室効果ガス排出削減・吸収に対するの我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の「NDC(国が決定する貢献)」の達成に活用することができる制度。

4.レギュレタリークレジットの現在の動向とポイント

ここでは、レギュレタリークレジットを代表して、主にJ-クレジットの詳しい動向について解説していきます。

4-1.登録および認証状況

2023年6月にJ-クレジット制度事務局によって公表された内容によると、現時点での登録プロジェクト件数は1,010件、クレジット認証回数は延べ1,053回となっています。また、クレジットの認証量は895万t-CO2にも及んでおり、その量は年々増加の一途を辿っています。このほか、認証クレジットの方法論別内訳に関しては、通常型では木質バイオマスが、プログラム型では太陽光発電が大部分を占めていることが報告されました。

なお、J-クレジットでは大口活用者向けに過去14回の入札販売を実施しており、入札販売の結果推移から、近年では再エネ発電由来のクレジット需要が高いことも明らかになっています。さらに、こうした需要の高まりに応じて平均落札価格も徐々に上昇しており、2023年5月に行われた第14回の入札販売では、平均落札価格が約1.401円/kWhとなりました。また、J-クレジット、国内クレジット、J-VERからなる全認証量1109万t-CO2の内、これまでに無効化および償却されたクレジットは630万 t-CO2にも及んでおり、削減系(再エネ)クレジットの認証量に対する無効化および償却量は約55%、削減系(省エネ)は約62%、吸収系クレジットは約40%となっています。なお、電力の排出係数調整、自己活動や製品・サービスのオフセットへの利用が特に多いという結果も出ています。

4-2.カーボン・クレジット市場の開設

東京証券取引所は、2023年10月を目途として正式に「カーボン・クレジット市場」を開設することを発表しました。このカーボン・クレジット市場では、法人および自治体によるJ-クレジットの売買が可能になるということで、すでに大きな注目が集まっています。

また、これに先駆けて2023年7月3日、市場運営の規則となる「カーボン・クレジット市場利用規約」などが公表されたほか、カーボン・クレジット市場に参加するための「カーボン・クレジット市場参加者」の登録申込みの受付けもスタートされたため、興味のある方は一度参加を検討してみてもいいかもしれません。

5.まとめ

カーボンクレジット市場は現在急速な成長を見せており、クレジットへの需要もますます増加しています。そんな中、ボランタリークレジットは関連するイニシアティブによってさまざまな制度の整備が進められているほか、レギュレタリークレジットはまもなく開設される東京証券取引所のカーボン・クレジット市場に関心が集まっているなど、どちらも盛り上がりを見せています。こうした状況の中、カーボンクレジットは今後さらにその市場規模を拡大していくと見られているため、興味のある方は今のうちに投資しておくことをおすすめします。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12