ブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデルとは

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今回は、chaintopeのTapyrus(タピルス)ブロックチェーンについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

23年1月20日、株式会社chaintope(チェーントープ)と国立大学法人九州工業大学(九工大)は、公立大学法人北九州市立大学(北九大)およびみやまパワーHD株式会社との連携を発表しました。九工大が推進している未来思考キャンパス構想の一環として、「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクトの実証をスタートしたことを明らかにしました。

今回の実証では、chaintopeが開発した「Tapyrus(タピルス)」と呼ばれるブロックチェーンを活用し、新たな地域脱炭素モデルを構築することで、「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けた取り組みを進めていくとしていきます。

そこで今回は、ブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデルについて、その概要や特徴、実際の取り組みや今後の展開などを詳しく解説していきます。

目次

  1. ブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」とは
    1-1.「Tapyrus(タピルス)」の概要
    1-2.開発元である株式会社chaintope
  2. 「Tapyrus(タピルス)」の特徴
    2-1.エンタープライズ向けのパブリックブロックチェーン
    2-2.フェデテーションによる多重署名を採用している
    2-3.さまざまな拡張機能を提供している
  3. 「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデル
    3-1.プロジェクトの概要
    3-2.「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデルのイメージ
  4. 「GYMLABO(ジムラボ)節電部!」の実証試験
    4-1.実証試験の概要
    4-2.今後の展開
  5. まとめ

①ブロックチェーン「Tapyrus(タピルス)」とは

1-1.「Tapyrus(タピルス)」の概要

Tapyrus
「Tapyrus(タピルス)」とは、chaintopeによって開発が行われているエンタープライズ向けのパブリックブロックチェーンのことです。安全な分散型データ社会を実現するブロックチェーン開発プラットフォームとして誕生したタピルスは、従来のパブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンが抱える問題を同時に解決することができる新たなテクノロジーとして注目を集めています。

これまで、パブリックブロックチェーンでは不特定多数の参加者がブロックの生成に加わることができる一方で、それを原因として処理スピードの低下や安全性が損なわれるといった問題が懸念されていました。一方、プライベートブロックチェーンにおいてはブロック生成の権限は限られた参加者にのみに付与されるシステムであるため、従来のデータベースとの差別化がしにくいなど、ブロックチェーン独自の特徴を活用しきれていませんでした。

そんな中、タピルスでは誰もが自由にブロックチェーンネットワークに参加することができるほか、取引の作成や閲覧を行うことも可能となっています。さらに、ブロックの生成や機能追加の権限については管理者ネットワークで管理されるため、従来のパブリックブロックチェーンが抱えるガバナンス問題を解消することもできるというわけです。

このように、タピルスはこれまでのブロックチェーンが抱える問題点を解消することができる画期的なプロジェクトとして、業界から大きな注目を集めています。

1-2.開発元である株式会社chaintope

Tapyrus(タピルス)の開発元であるchaintope(チェーントープ)は、16年12月に設立されたブロックチェーン関連の国内企業です。Chaintopeでは、「ブロックチェーンインテグレーターとして社会にブロックチェーンを実装する」というミッションのもと、ブロックチェーンを用いた全く新しい価値の提供や、社会モデルを構築するための「エコシステム・ハブ」となることを目指した事業展開を行っています。

主な事業内容としては、今回紹介するタピルス以外に、トレーサビリティに焦点を当てたブロックチェーン基盤の新たなプラットフォームである「Paradium」の運営や、補助金に頼ることのない新たな地方創生のモデルを実現するプラットフォーム「NATALE」の運営、「P2P電力取引」や「REC取引」を行えるブロックチェーンを基盤とした新たなプラットフォーム「Electrowise」の運営など、さまざまなプロジェクトを展開しています。

代表取締役CEOを務める正田英樹氏は、2015年ごろから共同創業者であった故・高橋剛氏や現在取締役CTOを務める安土茂亨氏らとともにブロックチェーン技術についての研究開発をスタートしており、比較的早い段階から社会実装に向けた取り組みに尽力してきました。

このほか、Chaintopeにはブロックチェーン分野に精通した精鋭たちが多数在籍しており、現在社会にブロックチェーンを実装することを目的として、日々さまざまなプロダクトの開発を行っています。

②「Tapyrus(タピルス)」の特徴

2-1.エンタープライズ向けのパブリックブロックチェーン

前述の通り、タピルスはエンタープライズ向けのパブリックブロックチェーンとして開発されました。

タピルスでは、ブロックチェーンに関するさまざまな課題を一挙に解決することで、企業や行政の「デジタルトランスフォーメーション(DX)」を強力にサポートすることを目指しています。具体的には、トレーサビリティや行政DXのほか、電子契約や電子チケット、電力・エネルギーなどといった多岐にわたるメニューが用意されており、ユーザーは比較的複雑でわかりにくいとされているブロックチェーン・テクノロジーを特に意識することなく、さまざまな機能を利用した安全で高信頼なアプリケーション開発を行うことが可能です。

2-2.フェデテーションによる多重署名を採用している

タピルスでは、ブロックチェーンの適用を行うドメインを明確にし、ドメインの利害関係者によっていくつかの「フェデテーション(調整役)」を構成しています。そして、ブロック生成の際に用いられるコンセンサスアルゴリズム(合意方法)には、ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)などで利用されている「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」ではなく、フェデテーションによる多重署名を採用しています。これによりタピルスでは、ばらつきのないより安定したトランザクションの承認を担保することが可能となっています。

ノード運用には誰もが参加することができ、台帳情報についても公開されているため、パブリックブロックチェーンとしての信頼性も担保されています。

2-3.さまざまな拡張機能を提供している

タピルスでは、利便性の高いさまざまな拡張機能の提供を行っています。
Extension
具体的には、タピルスチェーンを維持する基盤となる仮想通貨のほかに、ネットワークの参加者が独自の価値をデザインした任意のトークンを発行・バーン・移転する操作をサポートする「Colored Coin」や、信頼性の高い第三者(オラクル)によるデータの提供を支援し、現実世界におけるデータを条件としたスマートコントラクトの実行を可能にする機能などが提供されています。

またこのほかにも、「Atomic Swap」と呼ばれる機能を基盤として、ブロックチェーン間のコインやトークンの交換をサポートする機能も用意されています。この機能を用いることによって、さまざまなブロックチェーンが有している独自の機能を互いに利用することができるようになり、参加者は任意のタイミングで必要な機能を実装することが可能となります。

さらに、ファーストレイヤーに変更を加えることなく、ある特定の機能をブロックチェーンに付与し、その機能を必要としている参加者だけが追加の作業を負担する「Extension Chain」と呼ばれるシステムも提供されています。このシステムを用いることで、これまではファーストレイヤーを全ての要望に対応できるよう実装することで発生する可能性があった、ネットワークの参加者による取引と直接的な関係がないデータの負担や、ネットワークの集中化などといった問題を回避することが可能となります。

このように、タピルスではさまざまな拡張機能を提供することによって、多岐にわたる業界のニーズに合わせた幅広いサービスを実現しています。

③「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデル

3-1.プロジェクトの概要

23年1月20日、株式会社chaintope(チェーントープ)は、国立大学法人九州工業大学(九工大)は、公立大学法人北九州市立大学(北九大)およびみやまパワーHD株式会社と連携を発表しました。

九工大が推進している「未来思考キャンパス構想」における1つのプロジェクトとして、「カーボンニュートラル・キャンパス」の実証実験をスタートしたことを明らかにしました。元々Chaintopeおよび九工大は、22年1月26日時点において「カーボンニュートラル・キャンパス」の実現を目指した連携をスタートさせており、その後この考えに賛同する北九大およびみやまパワーHDがプロジェクトメンバーとして参加し、タピルスを駆使した全く新しい地域脱炭素モデル構築を進めてきました。

そもそも「カーボンニュートラル・キャンパス」とは、キャンパス内に最先端の「未来環境」を構築することによって、学生や研究者が未来をさらに身近に感じ、自由な発想により新たなアイディアを生み出すことを目的とした取り組みである「未来思考キャンパス構想」の一環として始まったプロジェクトで、これまで無人店舗を電気自動車と接続し、無停電化する取り組みや、環境エネルギーハウスの整備に関する取り組みなどが行われてきました。

また、22年1月の時点で、「カーボンニュートラル・キャンパス」に資するプロジェクトとしては、下記に挙げる三つの機能を実装することが発表されています。

  • 地域やキャンパスにおけるリアルタイムの電力需給データをブロックチェーン上に記録し、地域で生まれた再生可能エネルギー資源を可視化する。
  • 給電スタンドとEVの間の電力融通の証跡をブロックチェーン上に記録し、地域で生まれた再生可能エネルギー資源の循環を可視化する。
  • 地域で生まれた環境価値を、例えば地域のネイティブトークンなどに変換し地域内で利用することにより、「経済と環境の好循環」を生み出す。

なお、「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクトは実証開始、機能別実証、機能統合、モデル展開という順序を踏んで進められていく予定だと発表されており、ついに今回その第一歩がスタートしたということで、各業界からは大きな注目が集まっています。

3-2.「Tapyrus(タピルス)」を活用した新たな地域脱炭素モデルのイメージ

Kyushu Univ

前項でも少し触れましたが、タピルスを活用した新たな地域脱炭素モデルでは、地域やキャンパスの発電施設において生まれた再生可能エネルギー資源を可視化し、九工大の若松キャンパスや戸畑キャンパス、飯塚キャンパスのほか、地域の住宅や避難所、医療機関などで循環させることを目指しています。

また、タピルスのブロックチェーン・テクノロジーを駆使することで地域のネイティブトークンを発行し、地域内の経済の循環を促すということです。

さらに、この地域脱炭素モデルでは、ブロックチェーン・テクノロジーによって電力の動きやデータの動きを確認することができるため、より信頼性の高いエコシステムの構築が可能となっています。

④「GYMLABO(ジムラボ)節電部!」の実証試験

4-1.実証試験の概要

PoC
前述の通り、これまでタピルスを駆使した新たな地域脱炭素モデル構築が着実に進められてきており、今回ついに「カーボンニュートラル・キャンパス」プロジェクトの第一歩として、23年1月17日より九工大戸畑キャンパスにおいて、「GYMLABO(ジムラボ)節電部!」の実証実験がスタートしたということです。

「GYMLABO」とは、グローバルな人材やアイデア、シーズなどを有機的に結びつける「産官学」の交わりの形成拠点として、22年5月にオープンした九工大の大型学内コワーキングスペースのことを指します。

今回の実証実験では、そんなGYMLABOの施設内に九工大・戸畑キャンパスにおける消費電力量を見える化するモニターを設置することで、ユーザーに節電意識をより高めてもらうように働きかけているということです。

また、電力のひっ迫が予想される当日にはユーザーにメッセージが送信されるシステムとなっており、そのメッセージに合わせた節電行動を取った優秀な節電部員に対しては、学内通貨である「サステナマイル」が付与されるということです。

GYMLABO
このサステナマイルはGYMLABO内におけるサービスと交換することが可能となっており、すでに学生たちがサステナマイルを利用してコーヒーを淹れている様子などが報告されています。さらに、サステナマイルは節電部員同士で送りあうこともできるということで、日頃の「感謝」や「共感」、「応援」などといったキャンパス内における新たな価値の循環を表現することも可能になると説明されています。

この実証実験は、ブロックチェーン・テクノロジーを新たな成長産業の一つとして据え、企業の育成や集積に取り組んでいる福岡県の補助を受けて実施されているということで、実験の成果については、今年度内での公表を予定していると発表されています。

4-2.今後の展開

九工大とchaintopeは22年1月の時点で、「産学官」が一体となったコンソーシアムを構築していくという考えを示しており、このコンソーシアムを通してブロックチェーン・テクノロジーを駆使した地域脱炭素モデルの実現を目指すということです。

また、このプロジェクトを通して地域脱炭素の取り組みを日本全国へと広げ、21年に岸田内閣のもとでスタートした、デジタル技術を活用することによる地方の社会課題の解決、また魅力向上のブレイクスルーを実現し、地方活性化をさらに加速する「デジタル田園都市国家構想」に寄与していきたいと語っています。

なお、今回紹介したプロジェクトでは、地域脱炭素の当事者として「カーボンニュートラル・キャンパス」の実現をともに目指すことのできる自治体や企業を募集しているということで、今後参画する自治体や企業がさらに増えた場合、そのプロジェクト規模はますます拡大していくのではと期待されています。

⑤まとめ

chaintope、九工大、北九大およびみやまパワーHDは、chaintopeが開発したタピルスと呼ばれるブロックチェーンを活用し、新たな地域脱炭素モデルを構築することによって、「2050年カーボンニュートラル」の達成に向けた取り組みを進めています。

今回はその第一歩としてGYMLABO節電部!の実証実験がスタートしたということで、すでに九工大の大型学内コワーキングスペース「GYMLABO」内においてさまざまな取り組みが行われています。実証実験の結果に関しては今年度内での公表予定だということで、引き続きその動向から目が離せなくなっています。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12