バリ島でコーヒー一杯から気候変動問題に取り組む「su-re.co」とは

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. 「su-re.co(シュアコ)」とは
    1-1.「su-re.co(シュアコ)」の概要
    1-2.「su-re.co(シュアコ)」立ち上げの背景
  2. 「su-re.co(シュアコ)」が取り組む課題
    2-1.気候変動問題
    2-2.農家の貧困問題
    2-3.知識不足の解消
  3. 「su-re.co(シュアコ)」の実際の取り組み
    3-1.コーヒーおよびチョコレート製品の製造販売
    3-2.バイオガスキットの導入
    3-3.気候変動スクールの開講
    3-4.新たなカーボン・オフセットビジネスモデルの構築
    3-5.クラウドファンディングの実施
  4. まとめ

温室効果ガスの増加による気候変動が深刻化する中、多くの企業や団体が対策に乗り出しています。バリ島を拠点に活動する「su-re.co」は、その取り組みが特に注目されるプロジェクトの一つです。

バリ島には、気候変動の影響を直接受ける農家が多く存在します。この地で、「su-re.co」はコーヒーを通じて気候変動問題の解決に向けた活動を推進しています。さらに、欧州政府との協力でカーボンオフセットの取引をブロックチェーン技術で進めるプロジェクトも行っています。今回は、この「su-re.co」の取り組みや特色について詳しく見ていきましょう。

①「su-re.co(シュアコ)」とは

1-1.「su-re.co(シュアコ)」の概要

「su-re.co(シュアコ)」は、2015年に設立された、気候変動問題に対する取り組みを主軸とする国際的サイエンティストの集団です。バリ島を拠点として、コーヒーを通じた気候変動対策を進めています。

代表である高間剛氏は、オックスフォード大学での研究を経て気候変動と環境に関する専門家として活躍。彼の経歴には「アジア開発銀行」や「国際再生可能エネルギー機関」などの国連関連機関での経験が含まれ、現在は「ストックホルム環境研究所」とウダヤナ大学の客員教授も務めています。

「su-re.co」が目指すのは、気候変動の影響で収穫が困難となったインドネシアの農家を支援すること。2020年時点でインドネシアの人口(2.55億人)の約30%が農業に従事しており、同団体はバイオガス技術を利用したコーヒー製品の販売を通じて、これらの農家と「循環型社会」の実現を目指しています。

さらに、新たなカーボンオフセットのビジネスモデルも提案し、欧州政府と共同でブロックチェーンを活用した取引システムの開発を進めています。

1-2.「su-re.co(シュアコ)」立ち上げの背景

前述の通り、2020年時点で、インドネシアの全人口中、約30%が農業に従事しています。しかし一方で、一部の地域では深刻な気候変動の影響を受けて、従来の農業を継続することが困難になりつつあるという現状があります。

高間剛氏はこの問題を解決するために、自身の気候変動研究を元に、2015年にsu-re.coを設立しました。このプロジェクトでは、農家の収入向上を目指し、コーヒーやカカオ豆農業への転換をサポート。そして、製品化したこれらの商品を買取り、その収益の一部を農家の生活向上に充てています。

②「su-re.co(シュアコ)」が取り組む課題

2-1.気候変動問題

su-re.coが取り組んでいる最も主軸となる課題に気候変動問題があります。

気候変動問題は我々の生活に大きな影響を与える深刻な問題です。気候のパターンが変化することで通常の自然界のバランスが崩れ、人間と地球上の他のすべての生命体が多くのリスクにさらされます。また、気候変動と異常気象の増加によって農業や漁業、牧畜が破壊されたり、生産高が低下するといった事例も数多く報告されています。

近年はインドネシアにおいても気温の上昇や降雨量の変化、また海面の上昇などといった気候変動の影響が明確にあらわれるようになってきています。中でも、バリ島を含めた東インドネシア地域においては、気候変動を原因として今後降雨がますます減少していくことが予想されており、農業への影響は計り知れない状況となっています。そして、こうした気候変動が今後も継続した場合、作物や生態系に対する大規模な被害も免れないと推測されています。

そんな中、su-re.coでは気候変動に起因する農家の貧困問題にアプローチし、気候変動が生じることを前提とした場合、現地の農家が安定的な収入を確保し向上させるためにはどういった対策を講じるべきかという点について、科学的な研究に基づいたソリューションを実行しています。

2-2.農家の貧困問題

インドネシアの農業、特に稲作は気候の影響を大きく受けています。この不安定な状況を踏まえ、su-re.coは農家の収入安定のため、気候変動に強いコーヒーやカカオ豆農業への転換をサポートしています。買い取った農作物は製品化し、販売。そして、その収益の一部を農家の生活向上のために使っています。この流れが農家の経済的な自立をサポートする新しいシステムとして作動しています。

su-re.coでは、気候変動問題の延長線上にある農家の貧困問題についても積極的なアプローチを行なっています。

2-3.知識不足の解消

気候変動問題がますます深刻化している原因の一つとして、人々の気候変動に対する知識が不足していることが挙げられます。また、気候変動が発生する前提で農家をサポートすることは急務となっていますが、その一方で、今後も我々が地球上で長く暮らしていくためには、彼らを苦しめている気候変動問題の根本的な解決が必要不可欠となっています。

しかし、インドネシアでは生活に必要な収入を十分に獲得できていない農家が多く、彼らはLPGガスを購入する余裕がないことなどから、現在でも森林伐採によって手に入れた薪を燃やすことで日々の生活の熱源を得ているという現状があります。ご存知の通り、薪を燃やして発生する二酸化炭素をはじめとする気体は、気候変動を助長する温室効果ガスであると言われており、農家の貧困をさらに深刻化させるという悪循環が生まれてしまっているというわけです。

そんな中、su-re.coでは安全で清潔なエネルギーである「バイオガス」への切り替えが可能な「バイオガスキット」を導入することを推奨しているほか、気候変動が農業に与える影響やその対策を学ぶことができる「気候変動スクール」の開講など、知識不足の解消に向けたさまざまな取り組みを実施しています。

では次の項からは、su-re.coが実際に行なっている取り組みについて、より詳しく解説していきます。

③「su-re.co(シュアコ)」の実際の取り組み

3-1.コーヒーおよびチョコレート製品の製造販売

引用:su-re.co

su-re.coはインドネシア東部の気候変動や農作物の特性を調査し、安定して収穫できる方法を農家に提供しています。特に、コーヒーやカカオ豆の栽培が推奨され、これらの農作物はフェアトレードの約10倍の還元率で買取られます。

またこのほか、su-re.coでは農家の作物を原材料とするさまざまな商品を世界に向けて発信し、販売しています。これまでには、コーヒーやチョコレート、アロマキャンドルやナチュラルバーなどの販売を行なった実績があり、これらの商品が世界中の多くの方の目にとまる事によって、原料の作り手である農家を間接的にサポートしています。

3-2.バイオガスキットの導入

前述した通り、su-re.coでは農家がこれまでの焚き火による炊事から、安全で清潔なエネルギーであるバイオガスを用いた炊事に切り替えるためのバイオガスキットの導入を進めています。

インドネシアでは、2020年時点で全世帯の40%以上にあたるおよそ2,500万世帯が一般的な調理コンロではなく、薪を使って調理を行なっており、薪の採取による森林伐採や二酸化炭素の排出などが大きな課題となっていました。さらに、焚き火によって発生する二酸化炭素の排出と、それによって起こる室内の汚染を原因として全世界で年間400万人が亡くなっているというデータも出ています。

そんな中、su-re.coでは独自にバイオガスキットを開発し、導入を積極的に進める事によって、これらの課題を解決する事に尽力しています。su-re.coが開発したバイオガスキットは、農家によって育てられている家畜の糞や家庭からでる残飯などを発酵させる事によって、地球に優しいガスと有機堆肥を発生させるという仕組みになっています。そして、このガスの主成分は二酸化炭素のおよそ100倍以上の温室効果があると言われている​「メタンガス」であるため、家畜の糞を材料にするこのキットはメタンガスを捕獲する役割も果たしているということです。

3-3.気候変動スクールの開講

su-re.coでは、気候変動問題およびそれによって生じる農業への影響について誰もが正しい知識を得る事ができるよう、気候変動スクールを開講しています。また、su-re.coの活動に共感する世界中の学生をインターン生として受け入れ、ビジネスパートナーとともに活動を推進しているということです。

3-4.新たなカーボン・オフセットビジネスモデルの構築

su-re.coは欧州政府の支援を受け、ブロックチェーン技術を用いたカーボン・オフセット取引の「スマートコントラクトシステム」を開発しています。このシステムを使用すると、カーボン・オフセット市場での排出権の販売益の送金やデータ認証の手数料を大幅に削減できます。この技術をsu-re.coの再エネクリーンエネルギーの提供と組み合わせることで、農家を中心とした新しいビジネスモデルの構築を進めています。銀行取引や特定の排出権取引企業が不要となるため、省かれたコストをバイオガス導入の資金として再利用することができます。さらに、このシステムは他の国や地域でも適用可能で、注目を集めています。

また、su-re.coは環境に配慮した調理用コンロの設計を完了し、既に約30台を設置しています。ブロックチェーン技術を活用して一般市民への排出権取引を促進し、調理用コンロの設置で環境への影響を最小限に抑える取り組みを進めています。実際、su-re.coのバイオガス装置は、従来のものと比べて大幅に低コストで生産でき、気候変動問題の解決に寄与すると期待されています。

3-5.クラウドファンディングの実施

su-re.coはプロジェクトの進行と広報のため、クラウドファンディングを実施しました。この活動は非営利団体「Living in Peace」と共同で行われ、目標金額の50万円を開始から10日で達成しました。「Living in Peace」は機会の平等を通じた貧困削減を目指して活動しています。彼らとsu-re.coは、気候変動が原因の農家の貧困問題への取り組みを強化するために、このクラウドファンディングを立ち上げました。さらに、クラウドファンディングを通じて、su-re.coの活動や商品を多くの人々に知ってもらうための広報活動も展開されています。これにより、10セットのバイオガスキット導入が予定されています。

④まとめ

su-re.coはインドネシア、特に気候変動の影響を受けやすいバリ島周辺の農家を支援するプロジェクトを進めています。彼らは環境問題への知識を基に、気候変動の影響を受ける地域の人々に教育を提供し、環境汚染と貧困のサイクルを断ち切るための活動を行っています。

気候変動問題対策は誰もが身近なところから始める事ができるため、su-re.coの活動に共感した方は一度su-re.coの商品を手にとってみてはいかがでしょうか。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12