一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- グリーンウォッシュとは
1-1.グリーンウォッシュの概要
1-2.グリーンウォッシュの具体例 - グリーンウォッシュの特徴
2-1.環境への取り組みに関する誇張
2-2.環境への悪影響
2-3.ESG投資への悪影響 - 欧州のグリーンウォッシュ規制
3-1.規制の概要
3-2.規制誕生の背景 - グリーンクレーム指令案の詳細
4-1.欧州委員会の指令案の主要目的
4-2.環境主張の根拠要件
4-3.ラベル表示の見直し - まとめ
近年、世界において「グリーンウォッシュ(Greenwash)」がますます問題視されている中、「EU(欧州連合)」の政策執行機関である「欧州委員会」が2023年3月22日付で「グリーンクレーム指令案」を発表し、大きな話題となりました。
この指令案は、自社製品およびサービスに関して「カーボンニュートラル」や「ネットゼロ」、「エコフレンドリー」などの表現をプロモーションに用いている企業に対して、外部機関により検証されたエビデンスを公表することを義務付けるものとなっており、グリーンウォッシュの拡大を防ぐ画期的な規制であるとして期待を集めています。
そこで今回は、欧州で広がるグリーンウォッシュ規制について、その概要や詳細な内容を解説していきます。
1.グリーンウォッシュとは
1-1.グリーンウォッシュの概要
「グリーンウォッシュ」とは、企業や組織が環境取り組みをアピールしながら、実際には環境配慮が不十分である行為を指す言葉です。消費者や投資家に誤った印象を与える可能性が高いため、批判の対象となっています。
近年、国際的な取り組みとして「SDGs」や「パリ協定」が注目されています。これらの背景には、環境問題への国や企業の取り組みが重視される流れがあります。これが、グリーンウォッシュの増加の一因となっています。
「SDGs」は、貧困、不平等、気候変動などの世界の問題を解決するための17の共通目標を示すものです。「パリ協定」は、2015年に採択された気候変動問題に対する国際的枠組みで、196カ国が共同で削減目標に取り組むことを決定しました。現在、これらの目標達成への取り組みは高く評価されていますが、一方で目標に貢献していない国や企業への評価は厳しくなっています。このような背景から、企業は環境への取り組みを強調しようとし、グリーンウォッシュのリスクも高まってきました。
1-2.グリーンウォッシュの具体例
グリーンウォッシュをイメージしやすいように簡単な具体例を挙げるとすると、企業が商品やサービスのイメージを向上するために、環境保護に関する虚偽の「強み」を押し出したり、あまり含まれていない天然素材があたかも豊富に含まれているかのようなパッケージで売り出したりすることなどがこれに当たります。
またこのほかにも、化石燃料を使用する業界が排出削減の努力を強調する一方で、実際には再生可能エネルギーへの移行を遅らせている場合があることなども、グリーンウォッシュの一種であるとされています。
近年では、「三井住友銀行」がパリ協定に関する政府方針に準じて脱炭素社会を実現すると表明した一方で、実際には大規模石炭火力発電所への融資を継続していたことから、NGOよりグリーンウォッシュだと指摘を受けたというニュースがありました。さらに、世界最大のコーヒーショップチェーンとして知られる「スターバックス」に関しても、「ストローの要らない蓋」をリリースしたものの、実際は従来のストローと蓋の組み合わせより多くのプラスチックを使用していたことから、グリーンウォッシュであるとの批判を浴びたという報道もありました。
このように、グリーンウォッシュは誰もが知っているような世界的大企業でもその可能性が指摘されており、近年特に注目を集めている問題の一つとなっています。
2.グリーンウォッシュの特徴
2-1.環境への取り組みに関する誇張
前述した通り、グリーンウォッシュは企業が自社の環境への取り組みに関して印象操作を行うことを指し、取り組みについての具体的な数値やプロセスを示さず、故意に曖昧に示したり誇張したりすることによって、消費者や投資家に対して実際の環境への影響を隠蔽するという特徴があります。
しかし、特に一般の消費者にとって、グリーンウォッシュであるかどうかを見抜くことは非常に困難なため、こうした虚偽のプロモーションを原因として商品やサービスが環境にやさしいものであると誤解し、誤った選択をしてしまう可能性が大いにあるのです。さらに、これによって本当に環境問題の解決に貢献している企業が競争上の不利益を被るなど、市場のバランスが崩れることも懸念されています。
2-2.環境への悪影響
グリーンウォッシュの最も深刻な影響の一つとして、環境への悪影響を増幅させることが上げられます。グリーンウォッシュは、企業が環境問題への対策を積極的に行っていると見せかける一方で、実際は反対に、その行為が環境破壊に繋がっているという場合がほとんどです。そのため、現在深刻化している地球温暖化などの気候変動問題や生態系に対するリスクなどをますます増大させる大きな原因になるとされています。
2-3.ESG投資への悪影響
グリーンウォッシュが「ESG投資」に影響を与える可能性が指摘されています。
「ESG」とは、「環境(Environment)」、「社会(Social)」、「ガバナンス(Governance)」の頭文字を組み合わせたもので、企業選定の際の重要な指標として認識されています。伝統的には、投資先の価値を測る際に財務情報が中心でしたが、ESG投資では非財務情報も考慮されるようになっています。
日本では、ESG投資が増加し、特に環境に取り組む企業への投資が盛んで、製造業やエネルギー分野での投資が目立ちます。国際的には、2025年にESG関連資産が53兆ドルに達するとの予測もあり、全運用資産の3分の1に匹敵すると言われています。
しかしながら、グリーンウォッシュの存在は投資家の判断を誤らせるリスクがあり、誤ってこれらの企業へ投資すると、環境問題の増大を助長することにつながる恐れがあります。したがって、グリーンウォッシュ問題への対策の重要性が高まっています。
3.欧州のグリーンウォッシュ規制
前述した通り、世界ではグリーンウォッシュに対する対策の必要性がますます高まっていますが、そんな中、欧州では2023年3月22日に「グリーンクレーム指令案(Green Claims Directive)」と呼ばれる文書が発表され、実際に規制体制が敷かれました。
そこで本項では、この規制の概要や誕生の背景について解説していきます。
3-1.規制の概要
グリーンクレーム指令案は、2022年3月に発表された「グリーン移行(Green Transition)における消費者のエンパワーメントに関する指令案」を補うものと位置付けられており、消費者がエネルギーを大量に生産し、大量に消費する産業のあり方を変える「グリーン移行」に積極的に貢献できるようにすることを目指しています。
欧州委員会の発表によると、この指令の対象となるのは、EUの消費者に向けて環境主張を行う企業だということで、EU域外に拠点を構える企業であっても、この対象に含まれるとしています。さらに、消費者団体などはこの指令に基づいて法的措置を講じることができるようになると報告されています。
欧州委員会は、特に「カーボンオフセット」や「カーボンクレジット」を根拠とする温室効果ガスの削減は不明確で曖昧になりがちであると注意喚起しており、今回の規制によってその透明性が向上することが期待されています。
3-2.規制誕生の背景
欧州委員会では2020年に環境についての調査が実施され、これによると、エコフレンドリーを主張するプロモーションの53%は「曖昧」、「誤解を招く」、「根拠がない」もので、40%は「裏付ける根拠がない」という結果となったことが報告されています。
さらに、EUにはサステナビリティについてのラベルが230種類も存在しますが、それぞれの透明性のレベルは大きく異なっており、その50%は「検証が不十分または存在しない」という結果となりました。
そして、こうした現状を受けて欧州委員会は、「環境主張のなかには信頼できないものもあり、それらに対する消費者の信頼は極めて低い」とし、消費者と環境を保護するためにグリーンクレーム指令案を提案した説明としています。
4.グリーンクレーム指令案の詳細
本項では、グリーンクレーム指令案の詳細について、その目的や実際の内容を解説していきます。
4-1.欧州委員会の指令案の主要目的
欧州委員会が提案する指令案には、以下の4つの主要な目的が設定されています。
- 環境訴求の信憑性の向上
指令案は、外部機関の検証や科学的根拠を元にした訴求内容の確認が必須とされています。これにより、消費者に向けた情報の信憑性、比較性、検証性が向上します。 - 消費者の保護強化
EUでは、グリーンウォッシュの問題や、環境ラベルの透明性の不足が指摘されています。新しい指令案は、ラベルの基準を見直すことで、消費者が安心して環境に優しい商品やサービスを選ぶことができるよう支援します。 - 循環型でグリーンなEU経済への寄与
指令案は、消費者が適切な情報を元に購買決定を下すことで、環境に優しい経済の形成を支援することを目的としています。 - 公平な競争条件の確立
グリーンウォッシュにより、真に環境に配慮したプロダクトが見過ごされがちです。指令案は、情報の適切な開示を通じて、公平な競争環境を確立することを目指します。
4-2.環境主張の根拠要件
指令案では、エコフレンドリーと主張する場合の基準が明確に設定されています。
具体的には、「エコ」「生分解性」「クライメートニュートラル」などの表現を用いる際には、しっかりとした根拠が必要です。また、サステナブルと主張できるのは、プロダクトやサービス全体に当てはまる場合のみとなっています。
さらに、環境の影響や性能に関する主張は、ライフサイクル全体を考慮することが重要とされています。取引業者が環境パフォーマンスが優れていることを示す際には、特定の追加基準の遵守が求められています。
4-3.ラベル表示の見直し
EUでは、ラベル表示の透明性に問題が指摘されています。このため、新しい指令案でこの問題への対応が求められています。
環境ラベルには「トラストマーク」や「品質マーク」といった多くの種類が存在し、それらは商品やサービスが環境に優しいことを示す基準となっています。ただ、これらのラベルの中には認証基準や透明性が異なるものが多く、そのため一部のラベルは信憑性が疑問視されています。特に、EUではサステナビリティ関連のラベルが230種類、再生可能エネルギーのラベルが約100種類と非常に多く、消費者が混乱することが懸念されています。加えて、消費者が第三者機関の認証と自主認証の違いを明確に理解していないという問題も明らかになっています。このような状況が、消費者の環境への移行を妨げる要因となっていると考えられます。
その結果、現行のEU法制度の下では、「グリーンウォッシュ」により消費者が誤った情報を受け取るリスクが増え、市場の健全性が損なわれる可能性が指摘されています。
こうした背景を受けて、指令案ではラベル表示の正確性や信憑性を強化する方針が示されました。そして、2023年5月11日には欧州議会で「反グリーンウォッシュの規制案」が承認されました。これにより、今後はサステナビリティ認証の使用において、公式な制度や公的機関が定めた基準に基づいたもののみが許容されることとなります。この動きは、自社基準のみで認証されている商品やサービスの認証ラベル使用が難しくなることを意味しますが、それによりラベルの透明性が一層向上することが期待されています。
5.まとめ
国や企業の環境問題への対策がますます重要視されている昨今、こうした傾向を利用して虚偽のプロモーションを行うグリーンウォッシュが問題視されています。そんな中、欧州は早くもその規制に乗り出しており、実際に「グリーンクレーム指令案」を発表することによって、企業の環境主張の裏付けや環境関連のラベル表示の見直しなどを規制化し、これまで懸念されていた透明性や信憑性の問題を解決することに尽力しています。
また、今後は欧州だけでなく、世界中において規制が強化されていくと見られているため、この機会にグリーンウォッシュについて理解を深め、企業の虚偽のプロモーションに惑わされない目を養っておくようにしましょう。
中島 翔
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