加速する環境教育、世界の事例は?未来の持続可能な人材を育成する「グリーンスクール」

環境問題が地球規模で深刻化している近年、子どもたちに環境リテラシーの向上や行動変容を促す「環境教育(Environmental Education)」への取り組みが世界各国で加速しています。

環境教育は持続可能な社会への第一歩であると同時に、将来を支える人材育成に向けた「未来への投資」としても注目されている分野です。

本稿では、環境教育先進国の取り組みと、創造的な環境教育を通してサステナビリティ(持続可能性)の理念を支援・実践する世界の「グリーンスクール(Green School)」についてレポートします。

※2023年9月12日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 環境教育とは?
  2. 環境教育の歴史
  3. 国際的取り組みが加速
    3-1.国際機関の動向
    3-2.イタリア・英国・日本の動向
  4. 世界のグリーンスクール先進事例
    4-1.ウアソニーロ小学校(ケニア)
    4-2.グリーンスクール(インドネシア)
  5. 投資・ビジネスとしてのポテンシャルは?
  6. まとめ

1.環境教育とは?

英語で「グリーン教育(Green Education)」とも呼ばれる環境教育は、有意義かつ実践的な学習体験を通して環境問題・環境保護に対する関心や知識を高め、環境に優しい持続可能な社会を実現する上で必要なスキルや判断力、価値観、行動力などを育むための教育活動です。

参照:アメリカ合衆国環境保護庁「What Is Environmental Education?

気候変動や生物の多様性といった環境面の課題から、グリーン経済や循環経済など持続可能な経済成長に焦点を当てたものまで、その学習領域は広範囲に及びます。

参照:UNESCO「UNESCO urges making environmental education a core curriculum component in all countries by 2025

近年はSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)の理念を組み入れ、包括的な視点からより健全で公平な社会の実現を目指す「持続可能な教育(Sustainability Education)」も重要な学習領域として広がっています。

2.環境教育の歴史

環境教育のルーツは18世紀、フランスの偉大なる哲学者、ジャン・ジャック・ルソーが著書『エミール』の中で、環境に焦点を当てた教育の重要性を説いたのが始まりとされています。

国際的関心が一気に高まったのは1970年代のことです。1970年には世界初の環境保護記念日「Earth Day(地球の日)」が設立され、1972年に開催された国連人間環境会議(*環境問題に対する初の国際会議)で環境教育を環境問題への取り組みの一環として活用することが宣言されました。

参照:K12 Academics「History of Environmental Education
参照:Earth Day HP「Earth Day

3.国際的取り組みが加速

近年では、環境への対策が不可欠となっています。環境教育についても、各国政府や国際機関が世界規模で環境教育の導入を強化しています。

3-1.国際機関の動向

2019年には国連総会(UN)が2030年のアジェンダ達成に向け、持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development)を拡大するよう、国際社会に求める決議を採択しました。また、2021年には同分野の指揮をとる国連教育科学文化機関(UNESCO)が、「2025年までにすべての国において環境教育をカリキュラムの中核に据える」という新たな目標を提案しました。

参照:UNESCO「UNESCO urges making environmental education a core curriculum component in all countries by 2025

3-2.イタリア・英国・日本の動向

一部の国においては、環境教育を義務化する動きも活発化しています。

イタリア

たとえば、世界で初めて環境教育を義務教育カリキュラムに組み込みこんだイタリアでは、2020年9月から6~19歳を対象に、年間33時間を気候変動問題とサステナビリティについて学ぶ時間に割り当てられることが義務付けられています。

地理や数学、物理、公民教育に持続可能な開発の観点を盛り込み、気候変動に対処する方法について、子どもに教育することが目的です。

参照:UNESCO「Is Italy the first country to require Climate Change Education in all schools?

英国

一方、英国は2022年、「持続可能性と気候変動戦略」の一環として、GCSE(*16歳で受ける学位認定試験)の科目に新しい自然史を設ける計画を発表しました。14~16歳までの児童は環境や持続可能性について学習し、持続的かつ体系的なフィールド学習を通して、将来的に自然界分野でキャリアを築くためのスキルを習得できます。

また、すべての保育園・学校・大学において、1人以上の持続可能性リーダーを支援するための「カーボンリテラシー研修」を加速させ、2023年までにサステナビリティを高等教育カリキュラムに取り入れる計画を進めています。

参照:英国政府「UK to lead the way in climate and sustainability education

日本

日本においても、学習指導要領に環境教育が盛り込まれているほか、「エコスクール(*環境負担の低減や自然との共存を考慮した施設)」の整備や企業による子ども向けの環境教育支援活動など、持続可能な社会を後世に引き継いでいくための取り組みが徐々に活発化しています。

参照:文部科学省「「新学習指導要領における環境教育に関わる主な内容」「環境を考慮した学校施設(エコスクール)の整備推進」

4.世界のグリーンスクール先進事例

環境教育への取り組みが加速する中、「持続可能な未来の教育モデル」として注目されているのがグリーンスクールです。

世界にはさまざまなグリーンスクールや関連プロジェクトが存在しますが、「グリーンスクールは環境教育に重点を置き、学校の運営方針から学習方針に至るまで、持続可能性の理念を取り入れている学校の総称」だと米国グリーンビルディング協議会は定義しています。

その共通の使命は、創造的かつ実践的な学習体験を通して生徒のウェルネスを育み、よりクリーンで持続可能な未来に向けて世界をリードできる人材を育てることです。

参照:米国グリーンビルディング協議会「What is a green school?

以下、先進的なアプローチで教育革命を目指すグリーンスクール2校の取り組みを見てみましょう。

4-1.「世界で最も環境に優しい学校認定校」ウアソニーロ小学校(ケニア)

アフリカにおける干ばつは、「風土病」と呼ばれるほど深刻な問題です。特にエチオピアやソマリア、ケニアは気候変動により過去40年間で最悪の干ばつに見舞われ、数万人が死亡したと報告されています。

参照:CNN「Catastrophic drought that’s pushed millions into crisis made 100 times more likely by climate change, analysis finds

非営利団体PITCHAfricaの支援の元、2012年に開校したウアソニーロ小学校は、持続可能な貯水システムや地元コミュニティへの環境教育を通して、深刻化の一路を辿る水不足問題の解決に貢献しています。

「ウォーターバンク・スクール(貯水学校)」の異名をもつ同校には、6,000平方フィートの屋根から雨水を貯めることができる地下貯水槽やろ過システムが設置されており、年間35万リットルの清潔な水を学校裏の菜園の灌漑や地元コミュニティに提供しています。

泥などの天然素材を使用し、わずか6万ドル(約850万円)という低予算で建設された校舎は、自然の光や換気を利用するなど持続可能な方法で建設・運営されています。その一方で、動物保護や地域農業、森林再生などの研修プログラムを実施するなど、地域経済の活性化にも積極的です。

2013年には米国グリーンビルディング評議会から、「世界で最も環境に優しい学校」の認定を受けました。

参照:Uso-Nyiro Primary School HP「Uso-Nyiro Primary School
参照:Forbes「The Eco Waterbank School In Rural Kenya Is Changing The Design Of School Buildings Worldwide
参照:NATION「Unique design wins school ‘greenest in world’ award

4-2.「ジャングルの中の壁のない学校」グリーンスクール(インドネシア)

2008年にバリで開校した私立学校Green School(グリーンスクール)は、幼稚園~高校の児童が自然の恩恵を体感しながら、環境問題や環境科学、持続可能性について学習できる環境を提供しています。

同校は持続可能性の原則に沿った教育アプローチを重視しており、子どもたちの革新力や創造力を養い、絶え間なく変化する世界で子どもたちが目的をもって成長できるよう支援することを目標に掲げています。

ジャングルの中に竹や草、泥などの再生可能素材で建てられた校舎は、「壁」が存在しないユニークなデザインです。運営には、水力・太陽光発電といった再生可能エネルギーを利用しています。

現在は、グリーンスクール・ネットワークをグローバル展開しており、ニュージーランドと南アフリカ、メキシコに分校を開設しているほか、子ども・家族・学校向けグリーンキャンプなどのイベントも開催しています。

参照:Green School HP「Green School

5.投資・ビジネスとしてのポテンシャルは?

環境教育は、投資・ビジネスにおいても未知のポテンシャルを秘めた領域としても期待されています。

前述の通り、世界規模での取り組みや投資が加速しているほか、たとえば、米教育テック・スタートアップ「グリーン・ガーディアンズ(Green Guardians)」のように、環境リテラシーを義務教育の全主要科目に組み込んだ学習ツールを提供するスタートアップも活躍しています。

参照:Green Guardians HP「Green Guardians

環境教育の需要がさらに拡大すると見込まれている現在、革新的なアイデアや技術が続々と生まれることが予想されます。また、労働市場のおいても、環境リテラシーの高い人材の需要がますます高まるでしょう。

6.まとめ

子どもの頃から適切な環境教育を受けることにより、持続可能な社会への関心が高まり、将来的に持続可能な社会の実現に必要な領域で活躍する人材が増える可能性が期待できます。

現在、そして10年後、20年後に直面するであろう深刻な課題に対応する上で、「未来の持続可能な人材を育成する」という長期的なビジョンが求められているのです。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。