ふるさと納税で、地域との「関わり方のデザイン」を。ボーダレス・ジャパン『ふるさと納税forGood!』代表インタビュー

年末が近くなると、にわかに話題にのぼってくるふるさと納税。2008年5月にふるさと納税が開始をしてから15年が経ち、認知が広がって利用者数やポータルサイトなども年々増える一方、返礼品競争が加熱し、ネット通販と同じ感覚で利用する人も多いなど、「地域を応援する」という本来の趣旨が希薄となってきているといった課題も指摘されています。

そうした中、2023年11月より、ソーシャルビジネスを通じて、より良い社会を築いていくことを掲げる株式会社ボーダレス・ジャパン(以下、ボーダレス・ジャパン)が、新たなポータルサイト「ふるさと納税forGood!」を開始すると発表しました。

ふるさと納税を通じて、ボーダレス・ジャパンはどのような課題に挑み、社会にどのような変革を起こそうとしているのでしょうか? 今回は、ボーダレス・ジャパン創業者であり、日本を代表する社会起業家のボーダレス・ジャパン代表の田口一成さんに詳しくお話を伺いました。

話し手:株式会社ボーダレス・ジャパン 代表取締役社長 田口 一成さん

    1980年生まれ、福岡県出身。早稲田大学在学中に米国ワシントン大学へビジネス留学。卒業後、㈱ミスミ(現 ミスミグループ本社)を経て、25歳で独立し、ボーダレス・ジャパンを創業。現在、世界13カ国で48のソーシャルビジネスを展開し、従業員は約1,500名、グループ年商は75億円を超える(2023年7月現在)。日経ビジネス「世界を動かす日本人50」(2019年)、Forbes JAPAN「日本のインパクト・アントレプレナー35」(2019年) に選出された。著書に『9割の社会問題はビジネスで解決できる』(PHP研究所)がある。

Q.今回「ふるさと納税forGood!」の事業を立ち上げた経緯を教えてください。

総務省の調査によれば、2022年のふるさと納税の利用者数は約891万人(※1)、住民税の所得割の納税義務者数が約5978万人(※2)ですので、利用率は14.9%。まだ7人に1人しか利用していない計算となります。

ふるさと納税を利用すれば、2000円の負担で納税先を自分で選べて返礼品も受け取ることができるのに、なぜ利用をしないのか。ふるさと納税を利用していない方に実際にヒアリングをしてみたのですが、ほとんどの方が「手続きがよくわからない・面倒くさい」と回答されていました。つまり、そういった手続きや面倒くささなどのハードルを超えるような、ふるさと納税を利用する「目的」を感じることができていないというのが課題となっているのです。

また、現在ふるさと納税を利用している人たちもまた、現在の制度に満足していない現状があります。返礼品をお得に獲得できるとはいえ、年末になったら大量の納税先から返礼品を選び、届いた返礼品で冷凍庫が一杯になるだけだとしたら、ふるさと納税の目的意識は段々と薄れていってしまいます。

つまり、ふるさと納税を利用する目的と、利用が継続していくための仕組みが必要な状況です。

そこで私たちは、ふるさと納税でクラウドファンディングの仕組みを活用し、地域が解決したい課題や税金の使途を明確にすることで、「自分の納税先を、自分の意思で選べる」という、ふるさと納税が持つ本来の価値をきちんと発揮する仕組みをつくろうと考えました。市民が社会の課題にもっと関心を持ち、積極的に関わることができれば、自治体も、より有意義な税金の使い方をすることができます。

これらを実現するために、「ふるさと納税forGood!」を立ち上げました。

ふるさと納税forGood!

※1 総務省「令和5年度ふるさと納税に関する現況調査について
※2 総務省「令和4年度 市町村税課税状況等の調

Q.他ポータルサイトと「ふるさと納税forGood!」との違いや意義、独自の仕組みなどを教えてください。

「ふるさと納税forGood!」の特徴は大きく分けて4つあります。

まず1つ目は、自治体向けの特徴として、ボーダレス・ジャパンがクラウドファンディングの企画、ページ作成、プロモーションまで運営のサポートに入ることです。かねてから各自治体で「クラウドファンディング型ふるさと納税をやるべき」という声は上がっていましたが、自治体には実際に企画運営を進めていく専門的な知識がないので、断念せざるを得ませんでした。

その課題に対し、弊社が培ってきたクラウドファンディングのノウハウを活用することで、各自治体のクラウドファンディングの運営をサポートする形でこのクラウドファンディング型ふるさと納税を成り立たせることができます。

雲南市とクラウドファンディング型ふるさと納税を活用した、地域課題解決に向けた地域連携協定を締結

実際に自治体の現場職員の方とクラウドファンディングの企画を進めてみると、「解決すべき課題がわかっていないのが課題ですね」といった話になったこともあります。クラウドファンディングの組成を通じて、自治体の現場で課題意識や課題解決の姿勢が醸成できれば、地域や自治体にとっても大きな価値があると考えています。

2つ目は、地域社会起業家がふるさと納税で自ら資金確保をするために、弊社がサポートに入ることです。自治体は、地域の課題を解決してくれる起業家を支援していきたいと考えていますが、どう支援していくのかという点が課題です。

ふるさと起業家支援プロジェクト

画像引用:総務省 ふるさとポータル「総務省の支援策」より

そこで、我々の社会起業家支援の専門性を活かし、地域の起業家の募集・選定からプランアドバイスまで、自治体だけでは実行困難な部分を支援していきます。

3つ目は、税金の用途が明確な「クラウドファンディング型」でありながら、どのプロジェクトにも「必ず返礼品がついている」というところです。寄付でありながら自分にもメリットがある、ここにふるさと納税の良さがあると考えています。その良さを損なわずに、地域課題を解決するプロジェクトへの寄付ができる仕組みを実現したいと考えました。

また、自治体の取り組みだけではなく、地域社会起業家の新たなファンディングを通じて納税先を選択することもできる仕組みになっています。加えて、返礼品の軸からも納税先を選べるようにしており、返礼品から選んだとしても最後には必ず応援するプロジェクトを選択する仕組みになっています。

最後、4つ目は、「企業版ふるさと納税」も利用できることです。法人にとって、地域の課題解決に関わることができるメリットは大いにあると思います。自治体側も課題解決のプレーヤーを求めています。「ふるさと納税forGood!」をきっかけに、新しいプロジェクトや社会問題を解決する動きが生まれていくことが非常に重要であると考えています。

企業担当者の方にも関心をもっていただけるように、企業への出張説明会やふるさと納税フェスのようなイベントも構想しています。

Q.この事業を通じて田口さんが実現したいことを教えてください。

「ふるさと納税forGood!」を通じて地域の解決するべき課題が見える化されることで、「社会貢献したいけど何をやればいいかわからない」という人たちを巻き込んでいけると考えています。

現在、ふるさと納税を利用していない85%の人の中にも、環境問題や人権問題などの社会課題に関心のある人が一定数存在します。もし、自分の関心のある課題を解決するプロジェクトが納税先にあれば、寄付で返礼品も受け取りながら社会貢献を実現することができます。さらに、手続きが億劫でまだふるさと納税を利用していないという人からも共感を得ることができれば、彼らの力で地域活性化の糸口がつかめるかもしれません。

また、現在行われているふるさと納税の多くが「寄付をしたら返礼品が後日届いて終わり」となってしまっており、寄付者と自治体の関係性が希薄なままであることも課題の一つとしてとらえています。

その課題を解決するため、「ふるさと納税forGood!」では、寄付後の地域との関わりを醸成していく仕組みを取り入れています。寄付先のプロジェクト実行者は、LINEのオープンチャットを使用し月1回の進捗報告を寄付者に行っていくことになります。

寄付したお金がどう使われたのか、寄付後に地域で具体的にどういう変化が生まれたのか、地域や自治体の生の情報を見える化して継続的に発信し、寄付者の方に知ってもらうことで、寄付者と各地域との間に深いエンゲージメントが生まれていくと考えています。また、オープンチャットですので、寄付者の側から実行者にコミュニケーションを取ることもできます。この「関わり方のデザイン」が、ふるさと納税にはとても重要だと考えています。

人と地域のコミュニケーションデザインをふるさと納税を通して行っていくことで、「今年も応援したいな」「寄付以外でも関われることはないかな」と思ってもらえるかもしれません。

さらに、これらは地域おこし協力隊の仕組みと合わせての活用を進めていくこともできると考えています。ふるさと納税のクラウドファンディングやその後の進捗報告を通じて地域課題を提示し、それを解決してくれる起業家を地域おこし協力隊で募集すれば、地域おこし協力隊に関心がある方にとっても、地域への関わり方の選択肢が増えることとなり、寄付者にとっても自治体にとってもメリットのある取り組みとなります。

また、「ふるさと納税forGood!」なら、活動資金はふるさと納税で集めることができるため、資金問題に苦しまずに事業を進めていくこともできます。

Q.寄付者の方には、どのような変化が生まれると考えていますか?

例えば、「ふるさと納税forGood!」を通じて素晴らしい自治体の取り組みをフォローすることで、「うちの自治体でも、この取り組みをやってくれないのかな」と思ってくれる人が一定数出てくるのではないかと期待しています。これが、地域活動への市民参加のきっかけになってもらえたら嬉しいです。

社会問題解決の実行者をフォローしていくことで、自然と人のつながりが生まれます。このつながりを生むきっかけとして使ってもらえるのが、「ふるさと納税forGood!」だと考えています。

Q.ふるさと納税forGood!の今後の展望についても教えてください。

地域の課題解決を目指すことで仕事や雇用が生まれ、その事業の成功例が各自治体へと広がっていくことを期待しています。

社会起業家の輩出を目指す「ボーダレス・アカデミー」には約400人の卒業生がいますが、その中で実際に起業しているのは約3割です。残りの7割の方は、自分が絶対これをやりたい!というよりは「社会や誰かのために何かしたい」というのが根底にある気がします。

そういった、まだ起業していない志ある人たちにもアクションを起こしてもらえるように、まず地域の解決すべき課題を見える化し、その課題を解決してくれる起業家を自治体が募集する。自治体側から課題を提示することで、社会貢献の需要と供給のマッチングを行い、その活動資金をふるさと納税で集めれば、地域に事業や仕事が生まれるのです。この点も、ボーダレス・ジャパンが培ってきたものを活かせる「関わり方のデザイン」です。

そして、このようなふるさと納税を通して地域課題に取り組む社会起業家を応援できる仕組みを、すべての自治体に広げていくのが目標です。地域課題を行政に押し付けるのではなく、志ある市民・民間が取り組むことで、公助依存から共助拡大を図ることができます。

そのためにも、プロジェクト精査には時間をかけ、ふるさと納税のクラウドファンディングを補助金として使用するのではなく、自分で資金を集めるものとし、起業家にも使ってほしいと考えています。

Q.最後に、読者の方へメッセージをお願いします。

ぜひ、まず「ふるさと納税forGood!」を一度使ってみてください。いきなり限度額全額を寄付する必要はありません。一つだけでも、プロジェクトを眺めてみてほしいです。「地域でこういう課題があり、こういうソリューションを考えている人がいるんだ」と知っていただきたいです。それが、納税する意義を考えるきっかけになれば幸いです。自分の世界を広げる機会にもなると思います。ぜひ楽しんでプロジェクトを見ていただければと思っています。

編集後記

田口さんは今回の取材の最後に、「ある人にふるさと納税forGood!の話をしたとき、『これって新しい民主主義だよね』と言われたんです」「納税先を自分の意思で選べるということは、ある意味新しい民主主義で、私も本当にその通りだと感じてます。政治を行政に任せざるを得なかったところから、意思を持って納税する。多くの人がその意思を持つだけで、世の中の見える景色や意識が変わるはずです。そういった可能性を感じているからこそ、このプロジェクトを進めていきたいんです」とお話されていました。

たしかに、多くの方にとって納税は自分の意思とは関係なく自分が住む地域に対して行うものとなっています。自分で「納税する」というよりも、所得税や住民税を「徴収される」という感覚のほうが強いのではないでしょうか。

自らの意思で納税先を選ぶには、地域・自治体の活動や課題に関心を持ち、どんな地域・どんな活動を応援していきたいか、どんな社会であってほしいかといったことを考えていくことが必要になります。

ふだん意識することが少ない「納税」に関するお金の行き先を、一人ひとりが自分や社会にとって少しでも良い選択にすることができれば。それはいずれ社会を大きく変えるうねりへとつながっていくのかもしれません。

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HEDGE GUIDE 編集部 ふるさと納税チーム

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