近年、大手銀行や中央銀行、金融機関や政府委員会など、世界中の様々な業界の研究者の間で注目されている一つの問いがあります。それは「ブロックチェーン技術は金融をどのように変えるのか?」ということです。
多くの中小・新興企業では、ブロックチェーン技術の革新性や活用方法についての研究が日々進められていますが、そこには必ず「このブロックチェーン技術がどのように物事を変えるのか」という社会的な問いが発生します。
そんな中で、複数の大手銀行から出資を受けているコンソーシアム(共同事業体)のR3CEVは、この問いに応えるべく日々奔走しています。このR3コンソーシアムには、合計300以上の民間企業や公的機関が参画しています。ゴールドマン・サックス、マッキンゼー・コンサルティング、コンシューマーズ・リサーチなどの大企業は、いずれもこの問いについて知見溢れる報告書を作成してきました。これらのデータは、英国政府や米国・カナダ・オーストリア・EU上院において、政治的決定にも取り入れられるほどです。
今回の記事では、これらの研究により明らかとなった、ブロックチェーンが金融にもたらす変化について詳しく見ていきましょう。変化が期待される領域は主に6つです。
1. 国際間取引のインフラストラクチャーとして
デジタル革命は、これまでのメディア形態を完全に変貌させました。インターネットの普及により、人々はいつどこにいても、最新の情報を得ることができるようになりました。それは金融業界にも影響を与えています。1970年代から1980年代にかけてはデータベースによって、1990年代にはウェブページによって、そして2000年代にはモバイルアプリへと、金融機関のサービスは移行してきました。
しかし、国際間取引においてはデジタル革命が起きたとは言い難いです。大手銀行はこれまでとほとんど同じビジネス展開を続けており、海外送金のような単純な取引でさえも、複雑な仕組みを利用し続けています。
金融業界は、高度にプライベート化されたデータベースを使用し続けてきた結果、海外送金などのやり取りが複雑化していました。しかし、ブロックチェーン技術を使用することにより、金融機関同士が直接リンクし、コルレス・バンク(海外送金をする際に中継する銀行)を回避することが可能となります。
R3コンソーシアムを主導するソフトウェア企業のR3CEVは、分散型ネットワークのCordaを提供しています。Cordaは許可型ブロックチェーンであり、既存ブロックチェーンの特徴を備えています。大きな特徴としては、トランザクションの共有範囲は取引の当事者間のみに限定されていることです。その結果、取引のプライバシーが担保される仕組みとなっています。
金融機関は、Cordaを利用することで中央銀行のデータベースや管理システム、コルレス・バンクを介することなく、取引の決済を記録することができるようになります。実際にユーザーが取引を行う際も、Peer-to-Peerのもと2者間で直接行われることになります。
2. デジタル資産の価値の向上
ビットコインの出現により、世の中に「デジタル資産」というユニークな概念が生まれました。ビットコイン登場以前は、「デジタル」という言葉は希少価値と同義ではありませんでした。なぜなら、デジタル上のものは何でもコピーすることができたからです。
しかし、ビットコインはコピー不可能なデジタルコードを作成しました。その結果、デジタル資産に「所有権と希少性」という概念が備わり、大きな付加価値が与えられたのです。このようなデジタル資産の価値向上の背景には、二重支払いや偽造コインの作成を防止する、ブロックチェーン技術が用いられています。
ビットコインの開発者は、これらの事象を踏まえ企業の株式として機能する「カラーコイン」を発明しました。コインの色は秘密鍵が持つ所有権を表しています。オンライン小売り大手のOverstockは、米国証券取引委員会(SEC)の認可を得たのち、同社のブロックチェーンプラットフォーム上で、公開自社株を発行することを発表しました。また、プロジェクトの開発資金をアプリ内で使用する暗号資産によって支援する「アプリコイン」などの登場も見られるようになります。
これらの例は、デジタル資産におけるブロックチェーン活用の一部に過ぎません。つまり、デジタル資産としてだけではなく、ブロックチェーン自体が市場そのものを運営するために使われることもあるということになります。
3. ガバナンスとマーケットへの貢献
ブロックチェーン技術は、単に取引を記録していくだけの機能にはとどまりません。例えば、株式市場のナスダックは民間企業がブロックチェーンを利用して株式を発行・取引するためのプラットフォームをいち早く構築しました。他の開発者は、コーポレートアクション(有価証券を発行している企業の財務上の意思決定)や、ビジネスロジックを実行するために、事前にプログラムすることが可能な金融商品をブロックチェーンを利用して開発しています。
2016年には、クラウドファンディング市場を模倣する形で、イーサリアムブロックチェーン上で動作する DAO(Decentralized Autonomous Organization)という、特定の管理者を持たない分散型ブロックチェーンプロジェクトが立ち上がりました。一定数のトークンを保有しているDAO参加者は、総資金の使い道や戦略に関する提案に対し、投票権を得ることができる仕組みとなっています。
4. 規制当局への報告及びコンプライアンス向上
ブロックチェーンは、規制当局にとって完全にクリアでアクセス可能な記録システムとして機能します。また、規制当局の報告に準拠した取引を承認するようにコード化をすることも可能となっています。
例えば、銀行は金融犯罪捜査網(FinCEN)などの機関への報告義務を負っています。1万ドル以上の取引を承認するたびに、銀行はその情報をFinCENに報告しなければなりません。FinCENはその情報を、ブロックチェーンを利用することでマネーロンダリング防止のためのデータベースとして保管しています。
5. 清算と決済の簡略化
紙の世界の取引では、取引の清算と決算の期間には一般的に「T+3」と呼ばれるルールが適用されています。つまり、取引(T:Transaction)から3日後に決済が行われるという仕組みです。
一方、ブロックチェーン技術では、実行、清算、決済のプロセス全てが、取引の段階で行われます。デジタル資産取引の決済では、暗号鍵システムとデジタル所有権により、取引後のレイテンシー(遅延)とカウンターパーティーリスク(取引先の破綻リスク)を低減することができます。
6. 安全性の高い会計と監査の実現
一般的なデータベースは、ある瞬間のスナップショット(記録)だけであることに対し、ブロックチェーンは、全ての取引履歴が記録されます。ブロックチェーンを利用することで、改ざん不可能で安全性の高い取引履歴を残すことが可能となるのです。
まとめ
今回の記事では、ブロックチェーンが金融業界に与えるであろう変化・影響について解説しました。ここまで紹介してきたように、ブロックチェーンは記録システムやプラットフォーム、デジタル資産や国際間取引システムなど、活用方法は多岐にわたります。
ブロックチェーン技術の実用化は、今後さらに加速していくことが期待されます。
HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム
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