国連食糧農業機関(FAO)は、11月10日から21日までブラジル・ベレンで開催された国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)において、持続可能な農業食料システムが気候変動対策とパリ協定の目標達成に不可欠であるとする一連の報告書とイニシアチブを発表した。FAOは科学的根拠に基づく農業食料分野の解決策が、温室効果ガスの排出削減、炭素吸収の強化、生態系の回復、レジリエンス(回復力)の向上に重要な役割を果たすと強調した。
FAOのチュー・ドンユー事務局長は会議に先立ち、「劣化した農地の再生から、気候変動に強い作物、持続可能な水産養殖や畜産まで、セクター横断的に成果をもたらす解決策がある」と述べた。一方で最大の課題は資金調達であると指摘。FAOが発表した報告書によると、気候関連の開発資金全体は2022年から2023年にかけて12%増加したものの、農業食料システム向けの資金はわずか1%の伸びにとどまり、林業、畜産、水産、作物生産を合わせても気候関連開発資金全体の4%に過ぎない。世界の排出削減の3分の1を実現できる可能性を持つ分野にとって、この資金ギャップは「不平等であるだけでなく、機会の損失だ」とチュー事務局長は警鐘を鳴らした。
COP30においてFAOは、議長国ブラジルが主導する複数のイニシアチブを支援した。「RAIZ」は土地劣化ゼロに向けた農業への投資を促進し、気候・生物多様性・食料安全保障・砂漠化対策の「4つの勝利」を目指すグローバルな取り組みである。「TERRA」は家族農家や協同組合を対象に、アグロフォレストリー(森林農業)やアグロエコロジー(農業生態学)の解決策を加速させるプラットフォームだ。また、バイオエコノミー(生物資源を活用した経済)の原則を2028年までに測定可能な行動に転換する「バイオエコノミー・チャレンジ」や、熱帯林保全国への長期的な支払いを行う「熱帯林フォーエバー・ファシリティ」なども支援している。FAOは今回、温室効果ガス排出に関するFAOSTAT報告書も公表し、2023年の世界の農業食料システムからの排出量が165億トン(CO2換算)に達し、2001年比で21%増加したことを明らかにした。ただし、総排出量に占める割合は38%から32%へと低下している。
日本を含む先進国にとって、農業食料システムへの気候資金配分の見直しは今後の重要な政策課題となる可能性がある。日本政府は2024年6月、農林水産省が「みどりの食料システム戦略」に基づく温室効果ガス削減目標を掲げており、国際的な資金フローの動向は国内政策にも影響を与えると見られる。COP30の成果として、農業・食料システムの解決策を交渉の主流に完全に組み込むにはまだ道のりがあるとFAOは総括したが、FAOが運営する「FASTパートナーシップ」がCOP間をつなぐメカニズムとして機能し、農業食料システムを気候対話の中心に据え続ける方針だ。気候変動と食料安全保障の両立という地球規模の課題に対し、資金と政策の両面でどのような具体策が進むか、今後の国際交渉の行方が注目される。
【参照記事】COP30: FAO brings agrifood systems to the forefront of climate action
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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