機関投資家の気候変動イニシアティブ(IIGCC)は8月13日、物理的気候リスク評価手法「PCRAM 2.0」を公開した。洪水や熱波、暴風雨などの気候変動に伴う物理的リスクを評価・管理するための実践的ガイドで、建物やインフラなどの実物資産を対象とする。従来版から大幅に機能を拡充し、個別資産だけでなくポートフォリオ全体での分析や、自然を活用した解決策の評価も可能になった。
PCRAM(Physical Climate Risk Appraisal Methodology)は、気候レジリエント投資連合(CCRI)が開発し、2023年3月からIIGCCが運営を引き継いだ。2.0版では名称の「Assessment(評価)」を「Appraisal(鑑定)」に変更し、リスクの特定だけでなく実践的なレジリエンス計画の策定まで支援する。35の金融機関や工学企業、気候リスクデータプロバイダーなどが開発に参画した。
新版の特徴は、資産を取り巻くシステム全体を考慮する「システムアプローチ」の採用だ。個別資産を単独で評価するのではなく、周辺のインフラや地域社会、自然環境との相互作用を含めて包括的にリスクと機会を把握する。保険適用性や信用の質、運用の安定性といった長期的な資産価値の保護・向上の観点も組み込んだ。湿地や森林などの自然を活用した解決策(NbS)がレジリエンス強化に果たす役割も評価対象に加えている。
実装面では、太陽光発電施設2件、港湾インフラ1件、不動産1件の計4つのケーススタディを新たに公開した。特に不動産セクターでは初の事例となり、今後さらなる実装研究を進める予定だ。AXAインベストメント・マネジャーズ、オクトパスエナジー、スイス再保険など複数の企業が事例提供に協力した。手法はオープンソースとして無償公開されており、誰でも利用・改変が可能となっている。
PCRAMは、IIGCCが提供する「気候レジリエンス投資フレームワーク(CRIF)」と連携して機能する。CRIFが組織レベルでの包括的な適応計画策定を支援するのに対し、PCRAMは資産レベルでの具体的な目標設定の基盤となる。両者を組み合わせることで、投資家は物理的気候リスクに対して体系的かつ実践的なアプローチを取ることが可能になる。気候変動による物理的リスクが顕在化する中、金融システム全体のレジリエンス強化に向けた標準的な手法として普及が期待される。
【参照記事】From Assessment to Appraisal: PCRAM 2.0’s fresh approach to physical climate risk management
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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