EU炭素国境調整メカニズム改革で循環経済との統合を提言 環境NGOが政策文書

※ このページには広告・PRが含まれています

環境NGOのゼロ・ウェイスト・ヨーロッパは8月、欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の見直しに関するパブリックコンサルテーションへの回答書を公表した。同団体は、CBAMの拡張を通じて気候変動対策と循環経済の目標を同時に達成する統合的アプローチを提言している。

CBAMは、EU域外からの輸入品に対して炭素価格を課すことで、炭素リーケージ(生産拠点の域外移転による排出増)を防ぐ制度。2023年10月から移行期間が始まり、2026年から本格実施される予定だ。現在、セメント、鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力、水素などが対象となっているが、欧州委員会は2026年第4四半期に発表予定の循環経済法(Circular Economy Act)に向けて、対象範囲の拡大を検討している。

ゼロ・ウェイスト・ヨーロッパは、現行制度には複数の限界があると指摘する。特に問題視しているのが、スクラップ金属に対する排出ゼロの推定だ。これにより、EU域内での真の循環性を促進するインセンティブが失われているという。また、最終製品が対象外となっていることで、域外への生産移転を招きやすい構造になっているとも批判している。

同団体は、有機化学物質や最終製品を含む包括的な範囲拡大を提言。これにより、一次原材料と二次原材料の間に「価格差」が生まれ、リユース、リペア、リサイクル、リマニュファクチャリングされた製品・材料の需要が高まるとしている。EUの循環材料利用率(CMUR)は現在11.8%だが、2030年までに24%への倍増がクリーン産業協定の重要業績評価指標(KPI)として設定されている。しかし、欧州環境庁は「進捗が遅く、2030年までの目標達成は現時点では困難」と警告しており、CBAM改革による加速が期待される。

経済効果も大きいとされる。欧州のリマニュファクチャリング市場は現在310億ユーロ規模だが、2030年までに1,000億ユーロに成長し、50万人の新規雇用創出が見込まれている。また、二次材料の経済的魅力が高まることで、EUの一次資源輸入依存度が低下し、サプライチェーンの変動や地政学的不確実性の時代において戦略的自立性が向上するという。これは、レッタ報告書やドラギ報告書でも指摘された重要課題だ。

政策統合への具体的な提言として、同団体はデジタル製品パスポート(DPP)との連携も提案している。持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)の下で導入されるDPPは、複雑な製品の材料含有量の特定を可能にし、下流製品へのCBAM適用を促進する重要な手段となる。2025年のCBAMオムニバス規則案で提案されているデフォルト値の使用も、実際の排出データ開示を促しながら不透明なサプライチェーンにペナルティを課す効果的なアプローチとして支持している。

ゼロ・ウェイスト・ヨーロッパは「気候変動対策と循環経済の目標の統合は、単なる政策改善以上の意味を持つ。市場メカニズムが環境進歩を推進する方法の根本的な再考を提供する」と結論づけている。

【参照URL】Zero Waste Europe “Aligning climate and circular economy objectives through an enhanced CBAM” (August 2025)

The following two tabs change content below.

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

HEDGE GUIDE 編集部 ESG・インパクト投資チームは、ESGやインパクト投資に関する最新の動向や先進的な事例、海外のニュース、より良い社会をつくる新しい投資の哲学や考え方などを発信しています。/未来がもっと楽しみになる金融メディア「HEDGE GUIDE」