自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、自然関連リスクが企業や世界経済に及ぼす財務的影響がすでに顕在化していることを示す新たな報告書を発表した。ESGニュースメディアのFS Sustainabilityが6月30日、報じている。オックスフォード大学とグローバル・キャノピーが共同執筆したこの報告書によると、自然関連リスクの財務的影響は適切かつ一貫して測定されていないものの、その証拠は広範囲に及んでいることが明らかになった。
報告書には、水不足・水ストレスによる運営コストと設備投資の増加、淡水洪水による資本破壊、水不足による座礁資産化、生物学的侵入による10年ごとの4倍のコスト増加、害虫や病原体による作物収量の破壊、森林破壊による洪水リスクの増大、単一樹種のプランテーションによる洪水防護機能の低下など、具体的な事例が含まれている。
これらの調査結果を踏まえ、報告書は各ステークホルダーに対して提言を行っている。研究者やデータプロバイダーに対しては、因果関係の全体像を考慮した研究、より幅広い伝達経路とその財務的影響の検討、複雑で連鎖的な複合効果の分析が必要だとしている。また、データ製品に含まれる自然関連の影響・依存関係・リスクについて、より高い透明性が求められるとも指摘した。
企業や金融機関に対しては、自然関連課題の評価・管理・開示の重要性、重要性評価への構造的で統合的なアプローチ、気候と自然をリスク評価に統合することの必要性を強調している。さらに、組織全体での能力構築、企業レベルでのデータ収集の強化、明確な重要性の閾値の設定、金融機関によるポートフォリオ企業への自然関連リスク評価に関するエンゲージメントの重要性も指摘された。
グローバル・キャノピーのエグゼクティブディレクター、ニキ・マルダス氏は「この報告書は、自然の劣化と破壊の進行が企業や金融機関にとって財務的に重要な脅威をもたらすという明確な証拠を示している」と述べた。同氏はさらに、「急速に温暖化する世界では、自然の劣化が洪水、山火事、干ばつなどの極端な事象を引き起こし、悪化させ、重大な財務的損害をもたらす。自然と経済の関係は包括的であり、投資家がこのリスクから単純に分散投資で逃れられると考えるのは、新しい問題に古いパラダイムを当てはめているに過ぎない」と警告している。
報告書は、自然リスクの雪だるま式の影響がすでに保険セクターに影響を及ぼし、保険料の上昇と保険不能地域の拡大の脅威につながっていると指摘。企業、金融機関、規制当局、財政政策立案者に対して、これらのリスクを軽減する最も効果的な方法は今すぐ行動を起こし、自然を害する活動から自然を維持・回復・再生する活動へと資金の流れを転換することだと結論づけている。
【参照記事】Financial materiality of nature-related risks now clear: TNFD

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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