一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は6月20日、ジェンダーペイギャップの課題構造を分析した2025年度版レポートを公表した。同レポートは、男女間の賃金格差を個人の意識の問題ではなく、国の制度や企業慣行、社会文化が複雑に絡み合う「社会構造」の問題として捉え直し、その全体像を可視化したものだ。
レポートでは、ジェンダーペイギャップが単なる賃金差にとどまらず、経済成長の阻害や公正性の毀損、他の社会課題を加速させる問題だと指摘する。具体的には、人的資源の最適活用を妨げ生産性を低下させるほか、同一労働同一賃金の理念に反し、経済的自立や将来設計を困難にすることで貧困や格差を固定化させると分析した。これらの問題の根底には、無意識の思い込みや偏見(アンコンシャスバイアス)を再生産する複雑な課題構造が存在するとしている。

SIIFは、この「見えない構造」を「社会文化的要因」「制度的・経済的要因」「教育要因」から分析した。レポートに示された相関図は、この構造をより具体的に描き出す。国の社会保障や税制度が「一定収入内の働き方」を誘因し、女性が非正規雇用を選択しやすくなる状況を指摘。これがキャリアアップの機会損失や自信の喪失につながり、「性別役割分業意識が強化されてしまうループ」を生み出していると説明する。一方で男性も、長時間労働を前提とした「無限定な働き方」から抜け出せず、キャリア優先の圧力を受け続ける構造に組み込まれている。

これらの男女それぞれのループが相互に作用し、課題を根深くしている構造を明らかにすることで、個人の意識改革だけでなく、制度や慣行そのものへの働きかけの重要性を強調した。
今回の分析にあたり、SIIFは「2030 GOAL」として「誰もが公正に評価され、性別や住む場所にかかわらず、働き方と生き方を自由に選択できる社会」の実現を掲げた。このレポートは、株式会社はたらクリエイトと協働し、学識者や長野県上田市の地域関係者との対話を重ねて作成されたもので、完成形ではなく、今後も改良を続けるという。SIIFは、システムチェンジコレクティブ事業の一環として、長野県上田商工会議所との連携を皮切りに、他地域や他業種へも展開し、課題構造の変革に取り組む仲間を増やしていく方針だ。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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