近年、気候変動や環境破壊といった問題が深刻化する中で、持続可能な経済への移行が求められています。これに伴い、ブロックチェーン技術を活用した新たな金融モデルとして「ReFi(Regenerative Finance:再生型金融)」は、カーボンクレジット市場や持続可能な金融システムの改革に貢献する可能性を秘めています。
2023年10月に設立されたKlimaDAO JAPANは、日本におけるカーボンクレジット市場の透明性向上と流動性の確保を目指し、ブロックチェーンを活用した取引プラットフォームの開発を進めています。カーボンニュートラルを実現するための新たな仕組みとして、企業や自治体との連携も進めており、日本市場に適したソリューションを提供しようとしています。
今回は、KlimaDAO JAPANの設立背景や市場の課題、ブロックチェーン技術がもたらす変革、さらには2030年に向けた展望について、同社の代表である濱田 翔平 氏にインタビューを実施しました。カーボンクレジット市場の未来とReFiの可能性を知る貴重な内容となっていますので、ぜひご覧ください。
※本記事は、2025年2月25日取材時点の状況でお送りしています。
話し手:KlimaDAO JAPAN株式会社 代表 濱田 翔平 氏

インタビュー概要
1. KlimaDAO JAPANの概要とビジョン
KlimaDAO JAPANの設立背景とミッションについて教えてください。
KlimaDAOは2021年10月に設立され、ブロックチェーン上でトークン化されたカーボンクレジットを活用して気候変動対策の資金循環を確保することをビジョンとしています。KlimaDAO JAPANは2023年10月に設立され、日本で同ビジョンを実現するために設立されました。
ミッションは気候変動対策の民主化で、ブロックチェーン技術を活用して日本のカーボンクレジット市場に透明性と流動性をもたらし、企業や個人が参加しやすい環境を作ることを目指しています。また、グローバルなKlimaDAOネットワークとの連携を通じて、日本のカーボンクレジット市場の国際化も促進したいと考えています。
KlimaDAOは日本以外でもローカライズされているのですか?
現在、KlimaDAO JAPAN以外に正式にKlimaDAOの名前を使って活動している組織はありません。シンガポールに会社を設立していますが、それは戦略的な理由であり、特に活動はしていません。日本が最初にKlimaDAO JAPANを設立したのは、私個人がKlimaDAOに所属していて日本で何かしたいという思いがあったためです。日本市場の特殊性やWeb3・ブロックチェーン推進の流れもあり、日本でのプレゼンスを確立するためには独立した組織が必要だと考え、グローバルメンバーに提案して実現しました。

2. カーボンクレジット市場とブロックチェーン技術
カーボンクレジット市場の今の課題についてお伺いできますか?
カーボンクレジット市場の現在の課題については、いくつかの点が挙げられます。まず、取引の透明性が低いことが大きな問題です。クレジットが誰に購入され、オフセットされたのか、十分に把握できていない状況が続いています。また、市場が小さいため、買い手と売り手のマッチングが難しく、価格形成も不透明です。このような状況では、企業や個人が市場に参加しにくいという現実があります。
さらに、クレジットの売買や償却の手続きが複雑で、時間とコストがかかるという点も大きな課題です。特に、取引規模が小さい企業や個人にとっては、これらの手続きが非常に負担となっている状況です。加えて、グローバル市場における取引でもダブルカウントの懸念があり、取引に対する信頼性を高めるための対策が求められています。
これらの課題に対して、ブロックチェーン技術の活用が解決策の一つとして期待されています。ブロックチェーンを使うことで、取引履歴を透明化し、信頼性を高めることができると考えられています。また、スマートコントラクトを利用することで、売買や償却の手続きを効率化し、取引をよりスムーズに行うことができるとされています。

ブロックチェーンを活用することで、カーボンクレジット市場にどのような変革をもたらせると考えますか?
ブロックチェーン技術を活用することで、カーボンクレジット市場にはさまざまな変革がもたらされると考えています。まず、カーボンクレジットのトークン化により、取引履歴が透明化されます。ブロックチェーン上に記録することで、誰がどのクレジットを購入し、どのように償却したのかを明確に確認できるようになり、市場全体の信頼性が向上します。
次に、スマートコントラクトを活用することで、取引プロセスの自動化が可能になります。これにより、売買や償却の手続きが効率化され、従来のように時間がかかることなく、スムーズな取引が実現されます。取引の透明性だけでなく、スピードやコスト面でも大きなメリットが期待できます。
また、クレジットの小口化が可能になる点も重要です。ブロックチェーン技術を用いることで、より小規模な単位での売買が可能となり、多様な市場参加者が取引に関わることができるようになります。これにより、市場の流動性が高まり、より多くの企業や個人が参加しやすくなります。
さらに、ステーブルコインを活用することで、取引の決済がスムーズになります。加えて、他の金融サービスとの連携が可能になります。カーボンクレジットは、これまで相対取引などクローズドな場で取引されることが多かったですが、ブロックチェーンを活用することで、他の金融商品やサービスと結びつけることができ、より柔軟な運用が可能になります。
最後に、今後の展望として、MRV(測定・報告・検証)との連携により、クレジットの発行から流通、償却までのプロセスをシームレスにつなぐことも可能となると考えています。これにより、排出削減データがリアルタイムで記録され、そのままクレジットの発行や取引に利用できる仕組みが構築されます。
このように、ブロックチェーン技術の導入によって、取引の透明性向上、プロセスの自動化、小口化による市場の拡大、他の金融サービスとの連携、そしてMRVとの統合によるシームレスな市場形成が可能になります。これにより、市場の利便性が向上し、より多くの市場参加者が取引に関与できる環境が整うと考えています。
3. 企業や個人の参画機会
企業や個人がカーボンオフセットやReFiに参画する具体的な方法を教えてください。
企業や個人がカーボンオフセットやReFiに参画する方法はいくつかあります。まず、企業の場合は、温室効果ガスの排出量を把握し、カーボンクレジットを購入・償却することが基本的なステップとなります。従来、このプロセスは複雑で時間がかかるものでしたが、ブロックチェーン技術を活用したプラットフォームを利用することで、より透明性の高い形でスムーズに実施できるようになります。
また、当社では現在、企業の脱炭素化を支援するコンサルティング事業を立ち上げており、ブロックチェーンをはじめとするWeb3技術を活用しながら、企業の気候変動対策を総合的にサポートしています。単にカーボンオフセットの導入を支援するだけでなく、ReFiプロジェクトの立ち上げ支援も行っており、企業が新たにReFiを活用したビジネスモデルを検討する際の伴走支援も可能です。例えば、イベントやサービスのカーボンオフセットを参加者やユーザーと一緒に実施できる「tancre」などは、比較的簡単に導入できるソリューションの一例です。
一方、個人の場合は、カーボンクレジットを活用したポイントエコシステムのアプリを利用することで、日常生活の中で手軽にカーボンオフセットに参加できます。例えば、当社が開発に関与しているPBADAO社が提供するアプリ「Pucre」を活用すれば、簡単にカーボンオフセットを体験できます。
また、海外のReFiプロジェクトに直接参加することも選択肢の一つです。日本国内ではまだReFiプロジェクトの数が限られていますが、海外ではさまざまなプロジェクトが展開されており、そうしたプロジェクトへの参加を通じて、ReFiの仕組みをより深く理解しながら関わることができます。
このように、企業はカーボンクレジットの購入やコンサルティングの活用、ReFiを活用した新規事業の検討を通じて、個人はポイントエコシステムや海外プロジェクトへの参加を通じて、それぞれの立場に応じた形でカーボンオフセットやReFiに関わることができます。こうした中で、ReFiを活用した新規事業を検討されている企業の方は、ぜひ一度ご相談いただければというふうに考えております。
4. 具体的な導入事例と成果
KlimaDAO JAPANが最近最も力を入れているプロジェクトは何ですか?
当社が最も注力しているのは、ブロックチェーンを活用したカーボンクレジット取引プラットフォーム「KlimaDAO JAPAN MARKET」の開発です。2024年11月に実証実験を開始し、15の企業・自治体が参加しています。2025年には一般公開を目指しており、カーボンクレジット市場の透明性向上と流動性確保に取り組んでいます。
このプロジェクトは、J-クレジットをパブリックチェーン上でトークン化し、取引を可能にする世界初の試みで、みずほフィナンシャルグループ系列のBlue Lab、電源開発(J-POWER)、長崎県西海市などと連携して進めています。

また、金融業界、エネルギー業界、メーカー、IT業界など、さまざまな業界がReFiに対して強い関心を示しており、カーボンニュートラル実現手段として取り組む企業や、新規事業の種としてReFiの可能性を模索する企業が増えています。マーケットプレイスの実証実験には、これらの業界が積極的に参加しており、その関心の高さがうかがえます。
数々の企業がReFiに関心を持ち始めるなか、具体的な成功事例としてはどのようなものがあるのでしょうか?
日本国内での成功事例として、先ほど触れた「Pucre」は、大手デベロッパー等とのコラボレーションを進めており、より多くの人が日常生活の中で手軽にカーボンオフセットを実践できる仕組みを構築しつつあります。
また、長崎県西海市では、地域イベントとReFiを組み合わせた取り組みが進められています。地域で開催されるイベントのカーボンフットプリントを可視化し、J-クレジットなどのカーボンクレジットを活用してオフセットする仕組みを導入することで、イベント主催者や参加者が脱炭素活動に直接関与できるようになっています。

実際、当社でも企業や自治体からのReFiに関する問い合わせが増加しており、具体的な導入に向けた議論が進んでいます。特に、カーボンクレジットの活用方法やトークン化の可能性について関心を持つ企業が多く、新たなプロジェクトの種が生まれつつある状況です。今後、こうした関心がさらに高まることで、Pucreや西海市の取り組みを参考にした新しいReFiプロジェクトが国内各地で展開されていく可能性があります。
5. 今後の展望と課題
2030年に向けて、ReFiやカーボンクレジット市場はどのように変化すると考えますか?
2030年に向けて、カーボンクレジット市場とReFi領域は飛躍的な成長と進化が予想されています。現在、世界のカーボンクレジット市場は拡大を続けており、2030年には10兆円規模に達する可能性があり、日本国内でも数千億円規模の市場へと成長する見込みです。これに伴い、各国のクレジット市場がデジタル技術を活用して統合され、国境を越えたクレジットの売買が活発化することが期待されています。特に、パブリックチェーンを活用することで、従来の市場に比べて取引の透明性が向上し、より多くの企業や投資家が市場に参入しやすい環境が整う可能性があります。
技術面では、排出量の計測からクレジットの発行までをリアルタイムで管理できる自動システムが登場することが期待されています。これにより、クレジットの信頼性が向上し、従来よりも迅速かつ正確に取引が行える仕組みが整備されることになります。また、こうしたシステムが普及することで、従来の手作業に依存した測定・報告・検証(MRV)プロセスが大幅に効率化され、市場全体の流動性が高まることが予想されます。
KlimaDAO JAPANとしても、KlimaDAO JAPAN MARKETで発行したデジタルカーボンクレジットを、KlimaDAOがグローバルに展開しているデジタルカーボンマーケットプレイス「Carbonmark(カーボンマーク)」を通じて、世界中で取引できるようにしたいと考えています。これにより、J-クレジットがグローバルなカーボンクレジット市場に統合され、海外の企業や投資家との取引がより活発になることができると考えています。このように、国際連携したカーボンクレジット市場の実現が、より現実的なものになっていくのではないでしょうか。
日本でReFiを普及させるために、最も必要なことは何だと思いますか?
日本でReFiを普及させるためには、制度・規制の整備、認知度の向上、ユーザーエクスペリエンスの向上、政府や自治体との連携が重要になります。
まず、制度・規制面での整備が不可欠です。ブロックチェーンを活用したクレジット取引や、ステーブルコインを用いた決済の導入には、法的な枠組みや業界標準の整備が必要になります。日本では、2023年に施行された改正資金決済法により、ステーブルコインの発行・流通の枠組みが整備されつつあります。当社としても、信頼性の高い日本円ステーブルコインを用いた決済手段の検証を進めており、規制当局とも連携しながら、安全で使いやすい仕組みを構築していきたいと考えています。
次に、企業や投資家の認知度向上と信頼醸成が求められます。ReFiの価値や仕組みが十分に理解されていない現状では、導入に踏み切る企業が限られてしまいます。そのため、具体的な成功事例を提示し、ReFiがもたらす価値を明確に伝えることが重要になります。
また、ユーザーエクスペリエンスの向上も欠かせません。ReFiの普及には、従来のビジネスプロセスに寄り添いながら、企業が違和感なく導入できる工夫が求められます。使いやすいインターフェースや、既存の金融・会計システムとの統合がスムーズに行える仕組みの構築が必要となるでしょう。
さらに、政府や自治体との協力もReFiの発展において重要な要素です。国全体のGX(グリーントランスフォーメーション)戦略の中で、ReFiがどのように位置づけられるのかを明確にし、補助制度やインセンティブの整備を進めることが求められます。これにより、企業がReFiを導入する際の経済的な負担が軽減され、市場の拡大につながります。
これらの取り組みを並行して進めることで、日本におけるReFiの普及が促進され、より持続可能な金融システムの構築につながると考えられます。
6. HEDGE GUIDE読者へ
HEDGE GUIDEの読者へ一言お願いします。
ReFiを普及させていくためにも、KlimaDAO JAPANはオープンなコミュニティを大切にし、多様なステークホルダーの声を取り入れながら事業に取り組んでいきたいと考えています。KlimaDAOがもともとDAOとして誕生した背景があり、日本においても企業や自治体、個人が自由に参加できる環境を整えながら、ReFiの仕組みを広めていくことが重要だと考えています。
ReFiにはまだまだ課題もありますが、それ以上に大きなチャンスがあると考えています。技術の力と多方面の協力によって、持続可能な社会づくりに貢献し世界のカーボンニュートラルに寄与したいと考えています。皆さまにも、ぜひこの新しい領域に関心を持っていただき、一緒にReFiの可能性を広げていければと思います。
編集後記
本インタビューでは、ReFiがカーボンクレジット市場にもたらす変革と、日本における可能性について、KlimaDAO JAPANの濱田 翔平氏に伺いました。カーボンクレジット市場の透明性向上や流動性の確保が課題となるなか、ブロックチェーン技術を活用したReFiの仕組みが、取引の信頼性を高め、新たな市場機会を創出する可能性を秘めていることが印象的でした。
また、「KlimaDAO JAPAN MARKET」などの具体的な取り組みを通じて、J-クレジットのデジタル化が進み、国内市場だけでなく国際市場での流通が視野に入っている点も重要なポイントです。従来のカーボンクレジット取引が抱える課題に対し、ブロックチェーン技術を活用することで、新しい仕組みを構築しようとする動きは、日本のGX政策とも密接に関わる可能性があります。
ReFiの普及には、制度や規制の整備、企業・自治体の認知度向上、実際のユースケースの増加が欠かせません。KlimaDAO JAPANがDAOの精神を活かし、オープンなコミュニティを形成しながら、多様なステークホルダーとともにReFiの可能性を広げようとしている点も、今後の動向として注目されます。
本記事が、日本におけるReFiの発展とカーボンクレジット市場の未来について考えるきっかけとなれば幸いです。
【オフィシャルサイト】KlimaDAO JAPAN
【オフィシャルX】@KlimaDAO_JAPAN

HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム

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