ソーシャルインパクトボンド(SIB)の国内本格導入5年、見えてきたSIBの課題や意義は?SIIFが公開

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一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は3月10日、「SIBの国内本格導入から約5年。その実践と議論から得た学びを共有する」と題したインタビュー記事を投稿サイト「note」で公開した。SIBはソーシャル・インパクト・ボンドの略称で、国内の自治体では東京都八王子市、兵庫県神戸市、広島県がSIB事業を導入、最終報告書が公表されている。SIIFは、国内でSIBに関する取り組みが始まった最初期からさまざまな立場で関与してきた。記事は、5年を国内のSIBの節目として、SIIFの担当者であるインパクト・オフィサーの戸田満、山本泰毅の両氏が、振り返りと展望を語っている。

SIIFとSIBの係わりは、日本財団が2014年に社会的投資推進室を発足したことに始まる。SIB発祥の地であるイギリスの事例視察や、国内でのニーズ調査などを経て15年にパイロット事業がスタート、資金提供・中間支援・報告書を取りまとめた。17年にインパクト投資の市場構築に向けた取り組みを本格化させるため、社会変革推進機構と合併してSIIF設立。これまでに4件の組成支援と8件の資金提供を行ってきた。

個々の案件の実践にかかわって積み上げた知見をもとに、19年からは、主に政策提言や研究会の支援など、全体の環境や仕組みづくりに取り組んでいる。具体的には、成長戦略会議の分科会への参加、内閣府のPFS官民連携プラットフォームの会合への登壇、助言など。20年度からはNPO法人ソーシャルバリュージャパンとPFS(成果連動型民間委託契約方式)/SIBの研究会を共催している。

そもそもSIBは、どんな目的で導入されたのか。戸田氏は「SIBは関係者が多いので、それぞれの立場ごとに整理する必要がある。一番重要なのは、事業の起点となる行政の立場。行政がSIBを使う目的は、民間の創意工夫と資金の活用にある。従来の自主事業や委託事業では解決が難しい課題に対して、新たな解決方法を編み出す知恵と、成果に連動したリターンのリスクを民間に分担してもらう。それが、ゆくゆくは社会保障費の削減といった財政的な効果につながることもありえる」と説明する。

民間のメリットとして「社会課題の解決を目指すスタートアップにとっては、ビジネスモデルを確立する段階で、行政の事業を受託して実績をつくりたいという動機はあると思う」と戸田氏。八王子市の事業を受託した株式会社キャンサースキャンは、大腸がん検診の受診率向上事業で、対象者個々に対するオーダーメイドの勧奨を実施して成果を挙げた。

さらに、資金提供者としてのSIIFの立場については「SIIFはソーシャルビジネスに対して株式出資もしているが、必ずしもEXITの期限が明確でない場合がある。また出資先事業者が単にインパクトKPI上の成果を挙げたからといって、それがそのまま投資家にリターンとして還元されることはない」とする。対してSIBは、一定の期間を区切り、投資家にとってリターンにつながる成果指標を設定。かつ、支払い原資が税金で、議会承認が必要なため、その指標にも客観性・妥当性が求められる点で異なる。「インパクト(成果)とリターンが明確に結び付いており、出資の価値を実感できる、重要な投資機会」という。

では、SIBを推進するうえで、導入5年で見えた課題はあるだろうか。山本氏は「SIBは、従来の委託事業に比べて煩雑。成果指標や支払い条件の設定など、検討すべき点がたくさんあり、関係者も多い。そのようなスキームを活用して事業を進めていくためには、何のために事業を行うのか、何のためにSIBを使うのか、目的を明確にして、関係者間で共有しておく必要がある」と話す。実際に、目的を整理しきれず組成に至らなかった案件もあったという。

戸田氏は「従来の委託事業は、まず予算(インプット)があって、行政が作成した仕様書に則って、事業者が事業を実施する(アウトプット)。その先に、行政が想定する成果(アウトカム)はあるか、検証されることはなかった。対して、SIBはまずアウトカムを想定し、そこに至る道筋としてアウトプットを考える。思考の方向が真逆」と言葉を添える。

さらに、「目的を考える上で課題になるのは、行政予算の単年度主義。日本でSIBやPFSが増えてきても、大半は単年度で完結する。しかしインパクトやアウトカムが現れるには一定の時間がかかるため、成果を年度内に測るのは、たぶん難しい」と、単年度という時間の制約に疑念を示した。

SIIFがかかわってきた案件には、複数年度にまたがるものも多く、最低でも3年は確保しており、岡山市の事業は5年度に渡る。「それでも海外では5年から10年が一般的で、平均して7年ぐらい。単年度がダメだとは思わないが、1年分の成果しか測れないとなると、本質的に目指したいアウトカムに到達するのは難しいのではないか」(戸田氏)。

SIIFはどのようにSIBに取り組むかという問いに、「今後は、SIBがどんな課題に有効なのかに焦点を当てたい。特定の課題にSIBが有効であればSIBを採用するし、そうでなければインパクト投資や助成を検討する」(戸田氏)と、有効性を重視し、SIBという手法そのものの推進には固執しない考え。

そのうえで、SIBの意義として、①行政の事業を目的志向にする、アウトカム(インパクト)という考え方を導入すること②イノベーションの促進③エビデンスに基づく政策執行④資金とアウトカムの紐付け⑤地域社会のつながりの創出を掲げ、SIIFとして引き続き取り組んでいく。

【参照リリース】SIIF note「「SIBの国内本格導入から約5年。その実践と議論から得た学びを共有する 」
【関連サイト】一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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