資産運用会社のシュローダーは2025年5月、米コーネル大学のGlobal Labor Instituteと共同で、投資家および企業向けのツールキット「公正な気候レジリエンス(Just Resilience)に関する企業とのエンゲージメント」を発表した。本ツールキットは、投資先企業が気候変動の物理的リスクと、気候変動への適応策がもたらす社会的影響への理解を深め、具体的な行動を促すことを目的としている。
グローバリゼーションの進展に伴い、多くの企業は気候変動による物理的影響、例えば洪水、山火事、ハリケーンといった異常気象によって混乱に見舞われやすいグローバル・バリューチェーンへの依存度を高めている。これにより、企業は収益の損失や事業コストの増加といったリスクに直面している。シュローダーらの報告によると、予測される物理的な気候リスクは、対策を講じない場合、2049年までに世界経済の所得を19%減少させる可能性があり、企業の資産やサプライチェーンに甚大な影響を与えうると警鐘を鳴らしている。
特に、気候変動の影響を受けやすい地域で働く労働者は、猛暑や自然災害による健康被害や生産性の低下といった問題に直面しており、企業のサプライチェーンのサステナビリティが脅かされている。アパレル産業を例に挙げ、このままでは2050年までに数千億ドル規模の収益と数百万人の雇用が失われる可能性があると指摘した。
本ツールキットでは、「公正な気候レジリエンス」の概念を提示。これは、気候変動の影響に対するレジリエンス(回復力)を強化するための資源や機会を公平に配分し、社会的弱者や社会から疎外されたコミュニティが不均衡な影響を受けないようにすることを指す。その上で、企業が取るべき具体的な行動として、リスクの特定と評価(TCFD報告書の作成、特定の気候シナリオに基づいたサプライチェーンにおける暑熱・洪水リスクの特定、ストレステストの実施など)と、行動計画(気候適応への人権デューデリジェンスアプローチの適用、安全衛生に関するサプライヤー基準の強化、サプライヤー監査によるリスク評価、サプライヤーの能力構築支援、影響を受けるステークホルダーの参加確保など)の実施を提案している。また、Tapestry社やNike社、Inditex社などの企業のグッドプラクティス事例も紹介している。
さらに、投資家、企業、政策立案者、そして業界団体などのその他ステークホルダーそれぞれに対し、公正な気候レジリエンスの実現に向けた行動を提言した。投資家には、リスクのある地域やセクターへの投資評価と、企業へのエンゲージメントを通じた行動喚起を推奨。企業には、サプライヤーや労働者と協力し、物理的リスクと人権への影響を理解した上で、人権を重視した適応策の実施を促している。
本ツールキットは、企業や専門家との意見交換を通じて作成され、NGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)の気候シナリオや、S&P Global Trucostによる物理的リスクマップなどのデータも掲載されている。シュローダーとコーネル大学は、このツールキットが、投資家や企業が気候変動への適応策を進める上で、経済的側面だけでなく、人権や社会正義といった「公正性」の観点を不可欠な要素として組み込む一助となることを期待している。これにより、より持続可能で包摂的な社会経済システムへの移行を後押しすることを目指す。
【参照サイト】公正な気候レジリエンス(Just Resilience)に関する企業とのエンゲージメント: 投資家向けツールキット

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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