「事業承継により日本の大切な中小企業を未来に残す」「難しい問題だからこそ大きな機会がある」事業承継未来ファンドが創出する”心ある投資”の形

株式会社Yamatoさわかみ事業承継機構 代表取締役 吉川 明さん

日本の中小企業は、国内企業数の約99%、従業員数の約69%(中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)」)を占めており、今も地域経済や雇用を支える非常に重要な存在です。しかし、その中小企業がいま危機に直面しています。

中小企業では代表取締役の高齢化が進み、全国の経営者の平均年齢は2020年に初めて60歳を超えました。一方で、社長交代率は1990年から1994年に平均4.7%だったものが、2016年から2020年には平均3.8%まで下落傾向が続いており、黒字でありながら事業を承継できず休廃業・解散を決めた中小企業は約6割にのぼります。

事業承継の手段としてM&A(合併・買収)もありますが、現状は手数料が高い大型案件が優先されてしまう傾向があり、ほとんどの中小企業はその対象とはなっていません。

この手つかずとなってしまっている事業承継問題に対して、5000社の事業承継を目指して「事業承継未来ファンド」を組成し、自ら中小企業を承継・永久保有を前提とすることで問題解決に取り組んでいるのが株式会社事業承継機構です。

今回は同機構の代表取締役である吉川 明さんに、事業承継問題に取り組む意義や課題、「事業承継未来ファンド」の詳細や個人投資家が着目するべきポイント、今後の事業展開や実現したい未来などについてお話を伺いました。

話し手:株式会社 事業承継機構 代表取締役 吉川 明さん

    野村証券、さわかみ投信、日本政策投資銀行を経て、日本のバークシャー・ハザウェイを創るべく2010年にYamato Capital Partners株式会社を創業。これまでに1000社以上の「目利き」を行い、IPO7社、起業7社、買収7社等を経て、現在10社超のグループを率いる。子や孫に未来を残すための「5000社の事業承継」プロジェクトを企画し、2018年に株式会社事業承継機構(現 株式会社事業承継機構)を設立。著書に『事業承継プラットフォーム』(幻冬舎)。慶応義塾大学法学部卒。MBA/USCPA。

※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

記事目次

  1. 事業承継機構の理念や事業について
  2. 事業承継にあたって、大切だと感じていることは?
  3. 事業承継問題に取り組む上で課題だと感じていること
  4. ファンドの運用や事業を運営される中で、印象的だったエピソード
  5. 事業承継未来ファンドを検討する際に着目したほうがよいポイントは?
  6. 個人投資家の方に期待されることについて
  7. 今後の事業展開や事業を通じて実現されたい社会や未来について
  8. 編集後記

Q.事業承継機構の理念や事業について簡単にご教示ください

我々の使命は、事業承継問題を全面的に解決するために、「利益」と「社会課題の解決」を両立するソーシャルビジネスを展開し、日本の宝である中小企業を子や孫の未来に残すことです。事業承継問題は、環境問題や格差問題などと同じSDGsの問題です。世代をまたぐ公益の問題であり、株主利益を追求する資本主義の営利ビジネスでは解決が難しいため、当機構はソーシャルビジネスとして取り組んでいます。具体的には、中小企業を自ら承継し、「転売しない、統合しない、急成長を求めない」で独立企業として永久保有し、次の100年も生き残れる会社にするための様々な強化・支援策を提供する「5000社の事業承継プロジェクト」を推進しています。

その実現のためには、人材面や資金面で多くの方の協力が必要です。そのため、事業承継問題の全面的解決という子や孫のための「社会貢献」を行うとともに、安定した「運用収益」の提供を目指し、「持続可能な社会」の構築に寄与することを目的として、個人投資家の方に「社会貢献しながら資産運用する」ソーシャル運用®の機会を提供する「事業承継未来ファンド」の募集を開始しました。

我々が事業承継を行う企業は、生活に密着している中小企業やインフラに関わっているような中小企業です。たとえば、今回のコロナ禍で巣ごもりやリモートワークができたのは、電力会社や物流会社など危機下においても生活を支え続けてくれる企業の活動があったからです。私たちの生活を支えてくれている中小企業が、今まさに事業承継問題に直面しており、何もしなければ今後20年でどんどんつぶれていってしまいます。これらの大切な企業を未来にきちんと残していくこと、それが私たちのファンドが目指すものです。

Q.事業承継にあたって、吉川様が大切だと感じていることは何でしょうか?

第一にヒト、第二にヒトの想いをきちんと理解すること、第三に自ら桁違いに行動すること、ですね。まず、事業承継は、本質的に関わるヒトがとても多いから難しいのです。たとえば、対象企業においてだけでも、創業者(株主)の方はもちろん、役員、社員、取引先企業、その家族、取引銀行、地元社会が関わってきます。さらに、税や規制を通じて、国家や行政、各種団体等とも関わります。

また、株を譲り受ける資金を用意するには、投資家や金融機関の協力を得る事が不可欠ですし、承継した後に対象企業の経営を引き継いでいくには、後継社長や幹部・社員も必要です。普通のビジネスなら交渉相手は2~4人で済むところを、事業承継ではその5~10倍を相手に交渉をまとめていく必要があるのです。さらに、その全てをとりまとめ、事業承継を実行していくための、当機構自体の社員も必要です。平均社員数10名の会社を5000社承継すると社員5万人のグループになるため、その取りまとめ役の当機構だけでも、1800人の社員が必要になると計画しています。

ただ、頭数だけ集めればよいかと言うと、決してそうではありません。中小企業を引き継いで残していくには、創業者や社員が持っている対象企業への真剣な想いを理解し、それを能力と責任をもって、かつ長期間コミットして、引き継いでいくことが必要なのです。相手の想いを心から理解し、自分の想いを乗せて公益のために自走できる、そんな人財が必要なのです。

最後に、これらのヒトを集め、自ら情熱を持って自発的に動いてもらえるようにするには、私を含めてリーダー自らが、桁違いに行動することが必要だと思っています。日本には5000社を保有している会社はまだありません。5000社を承継するという桁違いの目標だからこそ、それを達成するには、我々自らが桁違いの行動をする必要があると考えています。

Q.事業承継問題に取り組む上で、現在最も課題だと感じていらっしゃることやそれに対して取り組んでいること・取り組もうとされていることなどをお教えください。

当機構は、今後10年間で5000社の中小企業を承継し、5万人の雇用を維持することを目指しています。その実現のためには、人材と資金が現在の課題です。

人材の課題について

まず、承継先企業で社長や経営幹部を担う人材のみならず、案件担当や承継先企業の経営支援を行う人材が相当数必要であるということです。5000社の企業を承継するということは、5000人の社長人材が必要ということになります。

それについては、当機構の志にご賛同いただきSDGsに関心が高い大企業10社以上と提携して、大企業を卒業するシニア人材に対して生涯現役で社会貢献していただけるような機会を提供するようにしています。2022年4月末時点で350名超の方にご登録頂いておりますが、さらに多くの大企業との連携を加速させ、より多くの人材を確保していかなくてはなりません。

事業承継問題でよく言われる後継者不足というのは事業承継問題の氷山の一角にすぎません。事業承継問題は、企業、経営、人材、資金などの100超の課題が絡み合う複合問題です。当機構では、これらの100超の課題をパターン化し、解決策をパッケージで提供する独自の仕組み「事業承継プラットフォーム®」を構築し、承継から経営まで、対象企業を一貫して支援していますが、これらを当機構内で担当する承継担当や経営支援担当の人材も必要です。

100超の課題の解決策を、プラットフォームを通じて継続提供する仕組み「事業承継プラットフォーム」

100超の課題の解決策を、プラットフォームを通じて継続提供する仕組み「事業承継プラットフォーム」

ちなみに、20代・30代の方にとって、承継先企業の人材の課題はチャンスでもあると思います。たとえば、上場企業で社長をやっていた方が承継先の会社の代表に就くというケースもありますが、20代・30代の方はこういった承継先企業に入ることで上場企業で社長を努めていた方のすぐ近くで働くことができるのです。

そして、事業承継は今は日本だけの問題ですが、これから世界中で起きることになる問題です。日本は事業承継に関する先進国ですので、その最前線でキャリアを積むことができれば、将来的にはグローバルの人材市場で引く手あまたの人材になることも可能です。承継先企業にとっても、意欲の高い若手が新しく入ることは組織の活性化につながりますので、双方にとっても大きなメリットがあります。

資金の課題について

次に資金について。5000社を承継するのには約7500億円の資金が必要です。そのうち3500億円を志のある個人投資家(支援者)から募ります。昨年、金融庁の登録が完了し、2021年9月に「事業承継未来ファンド」第1号を個人の投資家向けに募集を開始しました。事業承継ファンドはこれまでは機関投資家向けで1口数億円単位のものしかありませんでした。

当機構は、初めて個人投資家向けに1口100万円から、社会貢献しながら運用できるソーシャル運用のファンドを立ち上げました。このファンドは四半期毎に年4回の募集を予定しており、これまでに3本のファンドの募集を行っています (注:6月16日現在、7月1日に第4号ファンド募集開始予定)。

まだ当機構の知名度が低いことや、規制上の理由でオンライン申込ができないことなどもあり、少しずつ支援者も増えていますが、さらにもっと多くの支援者が必要です。志のあるお金で長期にわたり企業を応援することで、より良い社会を子や孫の未来に残していく、社会貢献しながら資産運用する、という考えに賛同していただける方に支援者になっていただけると嬉しいです。

また、今後2年くらいで1口数十万円から投資できるようにしていくことも計画していますので、より多くの方に関心を寄せて頂ければと考えています。

Q.ファンドの運用や事業を運営される中で、印象的だったエピソードなどがあれば教えて下さい。

当機構を設立して2022年で4年目になりますが、上場企業からたびたび相談が来ることに驚いています。当社の永久保有を前提とした事業承継は、主に資本主義の対象外になっている中小企業を対象にしたものですが、資本主義の中で上位0.1%に入る上場企業のオーナーからもたびたびお問い合わせを頂いています。

資本主義の極致にある上場を果たした結果、「いまだけ、カネだけ、自分だけ」の投資家にも触れる経験をされ、それに嫌気がさして、逆に「転売しない、統合しない、急成長を求めない」という当機構のコンセプトに共感頂いてお問い合わせを頂く方が多いのです。それは、当機構としては光栄なことではありますが、同時に資本主義の問題の根深さを実感しています。

もう一つの印象的なエピソードは、実際に事業承継を完了された創業者の方が、事業承継で受け取ったお金の一部を事業承継未来ファンドに投資をしてくださったことです。みなさんのお金で事業承継が実現し、それをきっかけにまた次の事業承継の実現に進んでいいく。そういった善意が回るサイクルをどんどん作っていきたいですね。

Q.事業承継未来ファンドは、既存のファンドと比べるとアプローチや投資対象がかなり異なると思いますが、個人投資家の方がファンドへの投資を検討する際にはどのような点に着目して見ればよいでしょうか?

大切なお金を何のために使うのか、何に使われるのかを意識して、ご検討頂きたいと思っています。たとえば、紙幣に自分の名前を書いて、あとからあなたがどんな使い方をしたのかを、子や孫、社会の人々がわかると仮定して使うとしたら、どう使うでしょうか?ただ利殖だけを目的とするのか、それとも、子や孫の未来を考え、社会貢献をしながら資産運用をするのか、その判断は各個人の人生ステージ、価値観や人格によって異なり、正解はありません。また、利殖も大事なことなので、「たとえば、利殖の高い投資に保有資産の80%を投資し、そのうえで、多少の余裕があり、当機構の趣旨にご賛同頂ける方は、ぜひ(保有資産の)20%の資金を子や孫の未来のために投じてください」とお伝えしています。

事業承継未来ファンドは年率4%を目指していますが、実際の投資家の方からは「こんなに良いことを目指しているファンドなのに、年率4%と言うのは逆に怪しく感じる。年率1%とか0.5%でも良いくらいだ」というお話をいただいたこともあります。「そういう見方もあるのか」という驚きもありましたが、私たちのファンドにそこまで共感してくださる方がいることを大変ありがたいと感じています。

また、我々が必要とする3000億円は少額ではありませんが、日本の個人金融資産2023兆円と比較すれば、0.015%にすぎません。全国民が保有金融資産100,000円に対して15円を投じれば、事業承継問題は大きく解決に向けて前進するのです。そういう意味では、0.015%の方限定の、非常に貴重な投資機会でもあるのです。我々はその貴重な投資機会を、心ある投資家の方に提供していきたいと考えています。

Q.個人投資家の方に期待されることや、今後どのように関わっていきたいとお考えでしょうか?

IPOもM&Aもファンドへの承継も、何年にもわたって何社も検討し尽くし、悩み抜き、最後に当機構に事業を引き継ぐことを決断されたオーナーから、こんなメッセージを頂いたことがあります。

「(自分にとって事業承継の決断は)娘を嫁に出すよりも、何倍も大変な決断でした。が、最後の最後でご縁を得て、本当に求めていた解決策を得ることができ、今は本当に晴れ晴れとした気持ちです。うちの社員を、よろしくお願いします。」

創業者の方にとって、会社や社員はそう感じられるくらい大切な存在なのです。そして、その大切な雇用や経済を絶やすことなく、子や孫の未来に引き継いでいくために、皆さんの資金が必要とされ、投じられるのです。これ以上に、投資し甲斐のある使い道は、人生でもそうそうないのではないでしょうか?不動産や太陽光などのモノへの投資も大事ですが、中小企業という有機的なヒトや社会の営みを維持するための投資も、ぜひ大切にしてみていただきたいと考えています。

今後は、年に数回の投資家の方限定の運用報告会を実施するほか、投資先の中小企業の代表を呼んで対面でお話をしていだたくなどお互いに顔が見える機会をつくっていきたいと考えています。また、資金面以外でもご協力いただける方にはボランティアや労働参加機会の提供なども行っていければと思います。

Q.最後に、今後の事業展開や事業を通じて実現されたい社会や未来についてご教示ください。

事業承継問題は、環境問題や格差問題と同じく他人事と思われがちですが、決して他人事ではありません。日本の企業の3社に1社が問題を抱えているのです。例えて言えば、あなたの住む町の商店街の3件両隣のうち、1件が永遠に空き屋になる問題なのです。もしあなたが10階建てのオフィスビルのオーナーなら、3フロア分が空になり、2度と借り手がいなくなるという問題なのです。それだけの空き屋ができてしまい、雇用が無くなり、経済や税収も無くなってしまいます。

また、事業承継問題は経済だけでなく、文化面でも非常に大きな影響があります。日本では、中小企業が地域のお祭りやイベントなどの資金を出していることも多いため、これらの企業がつぶれてしまうと、これまで続いていた伝統的な行事も途絶えてしまう可能性があります。中小企業を支えるということは、私たちの大切な文化を守り、次の世代へ残していくことにもつながるのです。

当機構と皆さんが協力しながら、かつ公益を私益よりも優先する姿勢で立ち向かえば、この巨大な問題は巨大な機会になり得ます。我々は5000社を承継する過程で、シニアや女性を中心に、5万人の方々に後継社長・幹部・社員としての参加機会を提供していきます。また、7500億円という資金に、インパクト投資への参加機会を提供していきます。シニアに雇用機会を、個人に新たな運用機会を提供しながら、大きく社会貢献する。そして、雇用を守り、経済を維持し、国の御役に立ち、子や孫に未来を残すべく、5000社の事業承継プロジェクトに邁進していきたいと考えています。

編集後記

「ベンチャーは1000回に1回勝てる企業が作れるかどうかですが、正しくやれば1000回に999回勝てるのが中小企業の事業承継です。そして、古くからある中小企業を残していく方が、現実の雇用や経済へのインパクトははるかに大きいのです」

インタビューの中で吉川さんがお話されていたことで、印象的だった言葉の一つです。「中小企業」という言葉には「弱い」というイメージを持ちがちですが、様々な経済危機を乗り越え、上場企業よりも長く続いている中小企業も少なくありません。ただ、その背景には日本全体の経済成長や人口増加があり、自然成長の中で危機に対処することができる環境がありました。

しかし、超高齢社会・人口減少社会を迎えた現在の日本において、これまでのような自然成長を期待することは難しくなっており、日本の中小企業もこれまで以上に難しい経営の舵取りを求められることになります。

世界全体の資本主義は今も「成長」を目指していますが、人口減少・超高齢化社会を迎えた日本においては「守る」「残す」という視点から資本主義を捉え直すことが求められているのかもしれません。

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