目次
CarbonKermaとは?
「CarbonKerma」は、CCUS由来のカーボンクレジットのマーケットプレイスです。Polygon上に構築されており、グローバルでカーボンオフセットの実現を目指したい企業が自由にカーボンクレジットの売買が可能となっています。厳しい基準をクリアし、明確なソースからクレジットが発行され、ブロックチェーンを活用することで二重カウントリスクも排除できます。
ただ、それらはブロックチェーンを活用したカーボンクレジットのマーケットプレイスによくある特徴です。「CarbonKerma」最大の特徴は「CCUS由来」のカーボンクレジットのみを取り扱っている点です。
「CCUS」とは、「Carbon dioxide Capture、 Utilization and Storage」を略したもので、「CO2の回収・貯留・有効利用」を意味する言葉です。
CO2の回収とは、発電所や工場などさまざまな産業源から排出される CO2 が大気中に放出される前に回収するという意味です。溶剤ベースの化学吸収、膜分離、固体吸着などの技術によって実現され、回収されたCO2はその後輸送され、さらに処理したり地中貯留したりできます。貯留(隔離とも呼ばれる)とは、枯渇した油田やガス田、塩水帯水層、採掘不可能な炭層などの地層深くに捕捉したCO2を永久的に貯留することです。これにより、CO2 が大気中に放出されるのを防ぎます。利用とは、回収したCO2の有益な用途を見つけることです。CO2 は単に貯蔵するだけでなく、製造プロセス、合成燃料や化学薬品の製造など、さまざまな用途に利用できます。
CCUS技術は、CO2排出量を大幅に削減し、低炭素経済への移行を促進する可能性があります。セメントや鉄鋼生産などの重工業や、特定の種類の発電など、直接的な排出量削減が難しい分野で特に役立ちます。
CCUSは世界的に非常に大きな注目を集めています。CCUSの仕組みは、国際エネルギー機関(IEA) と気候変動に関する政府間パネル(IPCC) の両方によって認められており、パリ協定の達成にはCCUS由来のカーボンクレジットを増やしていく必要があると言及しています。「CarbonKerma」もパリ協定の達成、脱炭素の達成にCCUSは必要不可欠であると主張します。ではなぜ、これまでのCO2削減ではダメなのでしょうか。
CCUSのメリットとして語られる大きな点は火力発電所などの既存の発電所から排出されるCO2の大部分を削減できる点にあります。事実、CCUSの仕組みが機能すれば、発電所や産業プロセスから排出されるCO2の90%以上を除去し、大気中に放出されるのを防ぐことができると言われています。
現在、世界は脱炭素方向へ向けて動いていますが、2050年までにカーボンニュートラルを達成するには余りにも遅いスピードです。再生可能エネルギーに対しての投資も進んでいますが、現在世界の80%以上は化石燃料によるエネルギー生産が続いています。このエネルギー体制を今後数十年で全て代替することは非常に難しく、また経済状況がそれぞれ違う世界中の国に対して一律で化石燃料を禁止していく動きも現実的ではありません。
そこでCCUSの仕組みが実装されれば、化石燃料を活用しながらもカーボンニュートラルの世界を実現できると期待されています。
日本国内でも環境省による「CCUSを活用したカーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み」というドキュメントが2020年に発行されており、実証実験レベルですが、幾つかの企業がCCUSの実現へ向けて動いています。
さて、ここまで聞くと1つの疑問が浮かぶはずです。化石燃料の発電所や工場から発生するCO2の90%が削減できるなら、早急に実施すれば良いのではないかという疑問です。
CCUSの懸念や問題点についても触れておきます。まず、製造コストが高いという点があります。技術的な難しさに加え、大規模にCO2を回収、利用、貯蔵する必要があるので、一連のインフラを整備する必要があります。ここが大きなネックとなっています。続いて、CO2漏出リスクについても懸念が存在します。CCUSでは回収したCO2を際利用することも模索していますが、地下へ貯留する解決策を取っていることも多いです。もしCO2が漏出した場合、海洋生態系への影響が心配されますし、そこから人類に対しての影響も懸念されます。
最後は再生可能エネルギーの普及を妨げるのではないかという懸念です。火力発電のままでCO2削減ができるなら、新しくインフラを作り直す必要性が薄れます。CCUSの技術はむしろ再生可能エネルギーの促進を止めてしまうのでないかという意見もあります。総じて、まだ完全に技術として確立しているわけではありませんが、カーボンニュートラルに対しては非常に注目されているというわけです。
長々と説明しましたが、「CarbonKerma」はこのCCUSに注目し、CCUS由来のカーボンクレジットのみを取り扱うマーケットプレイスの運営をしているプロジェクトです。
具体的なクレジット発行フロー
では続いて、具体的に「CarbonKerma」でどのようにカーボンクレジットが発行されるのか、そのフローを見ていきます。
①炭素測定と貯蔵
まずは炭素の回収です。排出されている炭素量とそこから回収できる炭素量を計測します。このプロセスは規制された標準のプロセスに従って回収および保管されます。
②キャプチャ検証
EPA承認のMRV(監視、報告、検証)計画とGHG(温室効果ガス)レポートを「CarbonKerma」へ提出し、該当カーボンクレジットが以前に利用されたことがないことを宣言します。
③カーボンクレジットのトークン化
提出された情報がCarbonKermaチームによって確認、検証、承認されると、削減されたCO2に対して1トンあたり1CarbonKermaトークン (CKT) が発行されます。
④マーケットプレイスへリスト
CarbonKermaの運営するマーケットプレイスへ出品できます。価格は出品者の任意の価格です。
⑤売買/購入
炭素排出者(個人および企業)がマーケットプレイスを介してカーボンクレジットを購入します。支払いはステーブルコインのUSDT、USDC、DAIを利用することができます。
⑥カーボンオフセット
CKTトークンをバーンすることでカーボンオフセットを実現できます。このプロセスによってオフセット証明書とユニークカーボンタグ(UCT)を受け取ることができます。
CarbonKermaの展望
ここまでCarbonKermaについて解説してきましたが、最後に展望を紹介、そして考察します。
CarbonKermaのマーケットプレイス自体は2023年にローンチされており、比較的新しいプロジェクトです。CCUSという技術的難易度の高い領域にトライをしています。ロードマップは公開されていませんでしたが、今後のビジョンは変わらずにCCUSという技術自体の推進とそのマーケットプレイスの拡大をしていくと考えられます。
そう予想した背景には、運営チームの存在があります。ファウンダーはIrfan Aliさんで、Balico, LLCと呼ばれる発電会社のファウンダーでもあります。これまで30年以上発電プロジェクトを実行してきており、ベテランと言っても過言ではありません。
運営チームやアドバイザーを見ても、ファンド組成のプロフェッショナルであったり、元米国エネルギー省化石エネルギー担当次官がいるなど、エネルギー分野のプロフェッショナルが集結しています。CCUSは難しい技術かもしれませんが、これだけのメンバーが揃っている中で推進しているプロジェクトなので、大きな期待がかけられています。
また、CCUSの懸念で紹介したコストが高いという問題に対しても、技術発展が続けば設立コストが安くなると共に、CCUS由来のカーボンクレジットの価値が認知されれば、クレジットの価格も上がるので、リターンが大きくなります。究極的に言えばどれだけ設立コストが高くてもリターンがあれば投資をするインセンティブになるので、世の中のカーボンニュートラルの機運が高まり、その中でもCCUS由来のカーボンクレジットの価格が上昇すれば、必然的に成長していきそうな分野です。
CarbonKerma自体もそうですが、CCUSという分野にも注目していきたいと思います。
mitsui
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