インドの再生可能エネルギー大手SAEL Industriesが11月4日、インド証券取引委員会(SEBI)に対し4,575億ルピー規模の新規株式公開(IPO)の届出書を提出した。このIPOは、インドのグリーン・エネルギー分野において今年最大規模となる見通しだ。内訳は新株発行が3,750億ルピー、既存投資家であるノルウェー政府系気候投資機関Norfundによる売出しが825億ルピーとなる。
SAEL Industriesは、Jasbir Singh氏、Sukhbir Singh氏、Laxit Awla氏によって創業され、現在ではインド最大級の独立系発電事業者(IPP)に成長した。信用格付機関CRISILによると、同社は2025年9月時点で契約済み・受注済み発電容量において国内トップ5に位置づけられる。事業内容は太陽光発電、農業廃棄物エネルギー化(AgWTE)、モジュール製造の3つの柱から成り、設計・調達・建設(EPC)から運用・保守(O&M)まで垂直統合型の体制を構築している。この統合モデルにより、サプライチェーン全体でコスト管理、実行速度の維持、品質管理が可能になっているという。
9月30日時点の同社の契約済み・受注済み発電容量は5,765.7MW(8,464.4MWp)に達し、10州と1連邦直轄地に分散している。地域別ではグジャラート州が32.6%、アーンドラ・プラデーシュ州が30.4%、カルナータカ州が15.7%を占め、上位3州で全体の約78%を占める。電力販売先の構成も特筆すべき点で、契約容量の81.5%以上がAA格以上の信用格付けを持つ顧客となっている。主要販売先はパンジャブ州電力公社(PSPCL)が売上高の56.8%、ウッタル・プラデーシュ州電力公社(UPPCL)が17.5%を占め、売掛金回収サイクルは34.5日と業界平均の90~120日を大きく下回る。
同社の事業は太陽光発電とAgWTEの2つの柱で構成される。太陽光発電では稼働中または建設中のプロジェクトが54件あり、設置容量は5,600.8MW(8,299.5MWp)、平均売電価格は1kWhあたり2.76ルピー、設備利用率(CUF)は平均23.8%、稼働率は99.7%を達成している。一方、AgWTE事業では164.9MWの設備容量を持ち、平均売電価格は1kWhあたり7.97ルピーと太陽光の約3倍、設備利用率(PLF)は約91%と高水準を維持している。同社は農業残渣を電力に変換することで、野焼き問題の解決にも貢献しているとしており、パンジャブ、ハリヤナ、ラジャスタンの各州に10の稼働プラントを有する。AgWTE事業は太陽光発電と比較してMWあたり11倍の収益を生み出すという。
財務面では、2023年度から2025年度にかけて売上高は388.9億ルピーから664.8億ルピーへとほぼ倍増し、EBITDAマージンも34%から49%へ改善した。一方で、高額な金利負担と減価償却費により、2025年度の純損失は280.9億ルピーに拡大している。今回のIPOで調達した資金の主な用途は、子会社SAEL Solar P4およびP5の借入金返済で、総額2,812.5億ルピーを返済することで連結レバレッジの低減を図る。株主構成では、創業者のJasbir Singh氏とSukhbir Singh氏が合わせて約55%を保有し、戦略的投資家としてNorfundが19.71%、米国国際開発金融公社(DFC)が5.08%を保有している。
インドが2030年までに再生可能エネルギー容量500GWという目標を掲げる中、SAEL IndustriesのIPOは、同国のグリーン・トランジションにおける民間企業の役割を示す象徴的な案件となる。垂直統合型の事業モデルと高格付けの顧客基盤は強みである一方、株主資本の約8倍に達する高レバレッジは投資家が注視するリスク要因となるだろう。
【参照記事】India’s Largest Agri-Waste-to-Energy Player Set to Launch Year’s Biggest Green Energy IPO
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
最新記事 by HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム (全て見る)
- インド最大の農業廃棄物発電事業者が年内最大規模のグリーンエネルギーIPOを計画 - 2025年11月5日
- 金融庁、サステナビリティ保証制度の詳細案を公表 国際基準に整合した保証業務実施者の登録制度を提案 - 2025年11月4日
- トランジション・ファイナンスの国際基準、1月末まで意見募集。資本提供者向けガイドライン公開 - 2025年11月4日
- NZAM、開示基準を更新し次章へ グローバル包摂性強化で署名再開 - 2025年11月4日
- EU保険規制改正、資産10兆ユーロ活用で実体経済支援へ―長期投資促進 - 2025年10月31日























