世界の資産運用会社が参加する脱炭素イニシアチブ「ネット・ゼロ・アセット・マネージャーズ(NZAM)」が10月29日、署名機関向けに更新したコミットメント声明書を公開した。パリ協定の目標に沿った投資を推進する一方、地域ごとの規制環境の違いを反映させ、より多くの市場からの参加を促す内容に刷新された。
NZAMは2020年、新型コロナ禍と気候危機が同時に深刻化する中で発足した。各資産運用会社が独自の文脈でネットゼロに向けたポートフォリオ調整を公約するプラットフォームとして機能してきたが、5年が経過し投資環境が大きく変化したことを受け、包括的な見直しを実施した。
今回の改定は6カ月未満の期間に数百の利害関係者との対話を経て完了した。署名機関や非署名の資産運用会社、アセットオーナーからの意見を集約した結果、「野心を維持しつつ、グローバルに包摂的で、進化する環境の中で実用的であること」という方向性が明確になった。更新されたコミットメント声明書では、署名機関が世界平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度を十分に下回る水準に抑え、1.5度に制限する努力を継続することの重要性を認識すると明記された。その上で、署名機関が実施できる行動の範囲は、顧客の意向や各国政府の政策・規制など多様な要因に依存することが前面に打ち出された。
特筆すべき変更点として、従来の文書に含まれていた「2050年」という年次目標が削除された。これは各国・地域の制度的現実の多様性を反映し、より幅広い市場からの署名機関参加を可能にするための措置だ。署名機関は引き続き個別に目標を設定し、独自のスチュワードシップ戦略を実施し、進捗を年次報告することになる。NZAMの署名機関は、気候変動がもたらす財務リスクと機会を考慮することが受託者責任の一環であると認識している。ネットゼロ経済への移行は、現代における最も重要な投資機会の一つとなる可能性があり、移行関連の機会は現在の2兆ドルから2050年までに最大60兆ドルに成長する可能性があるとの試算もある。同時に、世界の主要企業は気候ハザードへの曝露の変化により、同期間に累計で約25兆ドルの財務影響を受ける可能性がある。
更新されたコミットメント声明書の公開に際し、複数の大手アセットオーナーが支持を表明した。仏アエマ・グループのアドリアン・クーレCEOは、アセットオーナーとアセットマネージャー間の強固な連携を促すNZAMの価値を強調した。英ブルネル・ペンション・パートナーシップの責任投資最高責任者フェイス・ワード氏は、NZAMが資産運用会社にとって気候目標との整合性を示す信頼できる仕組みであり、業界連合が効率的で効果的な気候行動を大規模に実現するために不可欠だと述べた。英国国教会年金基金のローラ・ヒリス責任投資マネージングディレクターは、資産運用会社と投資業界全体が気候リスクへの対応と移行関連投資機会の実現に建設的かつ積極的な役割を果たすことを期待し、NZAMへの参加がその鍵だと強調した。
更新されたコミットメント声明書は現在、NZAM署名機関との間で共有されている。NZAMは2026年1月に再署名機関のリストをウェブサイトに掲載する予定だ。気候危機と資本市場の変化が加速する中、透明性と実効性を兼ね備えた国際的な枠組みとして、NZAMの新たな章が始まる。
【参照記事】NZAM: Ready for its next chapter
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
最新記事 by HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム (全て見る)
- NZAM、開示基準を更新し次章へ グローバル包摂性強化で署名再開 - 2025年11月4日
 - EU保険規制改正、資産10兆ユーロ活用で実体経済支援へ―長期投資促進 - 2025年10月31日
 - 国連、各国の気候目標前進も「緊急なペース加速必要」と警鐘 - 2025年10月31日
 - ロールス・ロイス、世界初の100%メタノール船舶エンジン試験に成功 - 2025年10月29日
 - ニュージーランド、気候変動報告の義務化基準を大幅緩和へ 上場促進と企業負担軽減を重視 - 2025年10月29日
 























