英国初、水素生産副産物から電池用黒鉛を製造へ

※ このページには広告・PRが含まれています

英国のエネルギー移行企業EnergyPathways社は、豪Hazer Group社と共同で、低炭素水素製造施設「MESH」プロジェクトから副産物として高純度合成黒鉛を生産する技術・商業性調査を開始したと発表した。10月22日、energy-pedia newsが報じた。黒鉛は英国を含む多くの国で、ネットゼロ目標達成に不可欠な「クリティカルミネラル(重要鉱物)」に指定されており、同プロジェクトは英国初の電池用合成黒鉛生産拠点となる可能性がある。

MESH施設はイングランド北西部バロー・イン・ファーネスに建設予定で、Hazer社とKBR社が提携開発したメタン熱分解技術を採用する。この技術は天然ガスから低炭素水素と高純度合成黒鉛を同時生成し、CO2排出をゼロに抑える。施設の生産能力は年間約2万トンの低炭素水素(90MW相当)と、最大6万トンの合成黒鉛(初期純度95%、最大99.9%超まで精製可能)を見込む。電池用合成黒鉛の市場価格は最近1トン当たり1万ドル超に達しており、パンデミック前と比べ120%以上高い水準だという。世界的に電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システムの需要拡大を背景に、供給逼迫と価格上昇が続いている。

黒鉛はリチウムイオン電池の負極材として不可欠であり、現在、世界供給量の80%以上を中国が占める。近年、中国は黒鉛加工技術や知的財産の輸出規制を強化しており、米国は中国産黒鉛に対し93.5%の関税を計画、欧州でも同様の措置が検討されている。こうしたサプライチェーンリスクを受け、各国は黒鉛調達の多角化・国産化を急いでいる。英国政府も黒鉛を重要鉱物に正式認定し、国内生産を戦略的優先課題と位置づけた。9月26日には、エネルギー安全保障・ネットゼロ担当国務大臣エド・ミリバンド氏が、MESHプロジェクト(水素・黒鉛生産施設)を2008年計画法に基づく「国家的に重要な開発事業」として扱うべきとの見解を示している。

EnergyPathways社は7月、Hazer社と戦略提携および覚書を締結し、英国内でHazer社の水素・黒鉛生産技術を独占展開する権利を獲得した。またHazer社は三井物産との戦略的パートナーシップを通じ、電池・負極材・先端材料市場の開拓を進めており、EnergyPathways社はこのネットワークを通じて英国・EU・世界市場への販路を確保する見通しだ。同社CEOのベン・クラブ氏は「MESHは英国のエネルギー移行を主導し、手頃な価格の低炭素エネルギーソリューションを提供する。英国で独占的にHazer技術を展開できることで、MESHは高品質な電池用黒鉛の主要供給者となり、英国のエネルギー安全保障と重要鉱物サプライチェーンの強化に貢献できる」と述べた。中国依存からの脱却と国産化が急務となる中、MESHプロジェクトは英国のクリーンエネルギーと重要鉱物戦略の両面で中核的役割を担うことが期待される。

【参照記事】UK: EnergyPathways secures a first-mover advantage in UK battery graphite with Hazer Partnership

The following two tabs change content below.

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

HEDGE GUIDE 編集部 ESG・インパクト投資チームは、ESGやインパクト投資に関する最新の動向や先進的な事例、海外のニュース、より良い社会をつくる新しい投資の哲学や考え方などを発信しています。/未来がもっと楽しみになる金融メディア「HEDGE GUIDE」