欧州委員会は9月9日、「2025年戦略的先見報告書」を発表し、2040年以降のEUの長期戦略として「レジリエンス2.0」を提唱した。報告書は、気候変動の加速や国際秩序の変化に加え、EU特有の4つの課題として「経済競争力と戦略的自律性の同時追求」「EU価値観に基づく技術イノベーション」「社会的レジリエンスの確保」「民主主義の防衛」を挙げ、これらへの統合的対応を求めている。
この戦略は、拡大するESG投資市場にも大きな影響を与える見通しだ。世界のサステナブル投資額は30.3兆ドルに達し、日本でも2022年には4.3兆ドルと前回調査から約1.5倍に増加。しかし同時に、グリーンウォッシング懸念から「量」から「質」への転換が進んでいる。EUはCSRD(企業サステナビリティ報告指令)により2024年から域外企業も含めた開示義務化を開始、ISSB基準との整合性も確保し、投資家が信頼できる情報基盤を構築している。
報告書が示す8つの行動分野は、サステナブル金融の新たな投資機会を示唆している。特に「技術と研究の活用」では、高インパクト技術への倫理的ガバナンス形成をEUが主導する方針を明確化。クライメイト・テックやデジタル技術は脱炭素・循環型経済の推進力となる一方、AIやデータセンターのエネルギー消費増という新たな環境負荷も課題として浮上している。
日本市場への影響も大きい。金融庁は2024年3月に「インパクト投資に関する基本的指針」を公表し、財務リターンと社会・環境インパクトの両立を目指す投資が本格化。国内インパクト投資残高は2023年度に前年比約2倍に拡大し、投資家の関心は「リスク回避」から「インパクト創出」へとシフトしている。三菱地所などの大手企業も、マテリアリティ改定を通じて社会価値と株主価値の両立を経営戦略の中核に据えている。
今回の報告書が示す「レジリエンス2.0」は、単なる危機対応を超えた長期的な市場ルール形成の指針となる。ESG投資は米国での反対運動など短期的な逆風もあるが、規制強化と開示基準の統一により、より信頼性の高い投資判断が可能になりつつある。
【参照記事】2025 Strategic Foresight Report

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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