2025年株主総会シーズン、対面開催が世界的に増加 米国では州間での企業移転が3年ぶり高水準に

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議決権行使助言会社のグラスルイスは8月26日、2025年の株主総会シーズンにおける世界的なガバナンス動向に関する報告書を発表した。世界全体で対面形式での株主総会開催が前年比8.3%増加した一方、米国企業の州間移転(リインコーポレーション)が28社と3年ぶりの高水準に達したことが明らかになった。

報告書によると、株主総会の開催形式には地域差が顕著に表れた。英国、フランス、スウェーデン、スイス、中国、香港、台湾、韓国、日本などの主要市場では、ほぼすべての年次株主総会が対面またはハイブリッド形式で開催され、投資家が物理的に参加できる環境が整備された。一方、北米、ブラジル、ドイツ、イタリア、ノルウェー、マレーシア、タイ、フィリピンでは、オンラインのみの参加や事前の議決権行使に限定される「バーチャル株主総会」が依然として一般的だった。

米国では企業の州間移転が活発化し、28社が本社所在地の変更を提案した。これは2024年の17社、2023年の20社を上回る水準となった。移転先として最も人気が高かったのはネバダ州で、デラウェア州からの移転が目立った。特に支配株主や大株主を持つ企業で移転提案が多く見られた。また、スーパーマジョリティ(特別多数決)要件の撤廃提案が大幅に増加し、取締役会の階層化廃止、臨時株主総会招集権、書面による株主決議など、ガバナンス改善に向けた提案も前年より増加した。

アジア太平洋地域では重要なガバナンス改革が進展した。香港証券取引所は2024年12月に実施した規則改正により、独立非業務執行取締役(INED)の兼任上場企業数を6社まで、在任期間を9年までとする厳格な上限を設定した。すべての企業に取締役会のスキルマトリックスの開示が義務付けられ、独立した議長がいない取締役会には筆頭独立取締役の任命が推奨されている。韓国では商法改正により、取締役の注意義務の対象が「会社」から「会社および株主」に拡大され、支配株主の影響力が強い市場において少数株主の権利主張を支援する法的枠組みが整備された。さらに韓国では2027年1月から大企業に対してハイブリッド株主総会の開催が義務化される。

欧州では、EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)の実施に伴い、サステナビリティ監査人の任命に関する議案が増加した。加盟国によって実施状況は異なるものの、ブルーチップ企業では適正意見以外の監査報告は発行されず、報告プロセスは順調に進んだ。ドイツでは機関投資家がバーチャル株主総会への懸念を表明し、シーメンスAGなど複数の大手企業でバーチャル開催を継続するための定款変更議案が否決された。イタリアでは対面参加可能な株主総会が50%増加したものの、依然として70%以上が株主が物理的にも仮想的にも参加できない「クローズドドア」形式で開催された。

今回の動向は、パンデミック後の株主総会運営において、株主の参加機会確保とガバナンス強化に向けた取り組みが世界的に進展している一方、地域によって異なるアプローチが採用されていることを示している。特に米国での企業移転の活発化は、各州が競争力のある上場環境を提供しようとする動きを反映しており、今後の企業統治のあり方に影響を与える可能性がある。

【参照記事】Proxy Season Global Briefing Part 1: Shareholder Rights & Governance Trends

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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