グリーンファイナンス研究所(GFI)と世界自然保護基金(WWF)が8月に発表した報告書「Business Investment in Nature: Supporting UK Economic Resilience and Growth」によると、英国経済は自然環境の劣化により2030年までに国内総生産(GDP)の4.7%が失われる可能性があることが明らかになった。この損失規模は、政府の成長戦略「Plan for Change」で見込まれる経済効果を上回ると警告している。
報告書の作成にはオックスフォード大学、レディング大学、国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)、国立経済社会研究所が協力した。保険数理士協会は、気候変動により世界経済が2070年から2090年の間にGDPの最大50%を失う可能性があると警告しており、実際の損失はさらに深刻になる恐れがある。英国は自然史博物館の生物多様性完全性指標によれば世界で最も自然が劣化した国の一つで、元来の自然環境の約半分しか残されていない。
具体的な経済損失として、水不足により今後5年間で住宅プロジェクトの遅延コストが最大250億ポンド(約5兆円)発生し、火力発電所は水利用制限により年間2,000万~4億5,000万ポンドの追加システムコストに直面すると試算されている。2024年の洪水による保険金請求額は過去最高の5億8,500万ポンドに達し、農作物損失は26~38%に上った。土壌劣化による年間損失は9億~14億ポンドに達している。さらに2022年の肥料価格高騰(250~400%上昇)は食品インフレを引き起こし、2023年には英国の酪農場の約5%が廃業に追い込まれた。
この危機に対応するため、GFIとWWFは政府主導による「ネイチャー・ポジティブ移行経路(NPPs)」の策定を提言している。これは各産業部門ごとに環境目標とビジネスモデルを整合させる国家計画で、すでに28の企業・業界団体が支持声明に署名した。民間投資も活発化しており、自然への影響を軽減する技術やビジネスモデルを開発する英国企業は2024年に28億ポンドを調達し、アグリテック分野への投資は1億3,000万ポンドに達した。スティーブ・リード環境相は「英国は世界で最も自然が劣化した国の一つだ。自然の衰退を逆転させる決意であり、今秋に自然と環境のための新計画を発表する」と述べた。
【参照URL】Business Investment in Nature: Supporting UK Economic Resilience and Growth

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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