環境データの民主化に挑む – Ambientが描く持続可能なモニタリングの未来

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参照:Ambient

目次

  1. Ambientの概要
  2. Ambientエコシステムの全体像
  3. ユースケースと展望

Ambientの概要

「Ambient」は分散型環境モニタリングネットワークプロトコルです。物理型インフラストラクチャであるDePINとReFiを掛け合わせたプロジェクトになっています。

私たちの生活に欠かせない環境データの収集と活用。これまで専門機関や大企業だけが担ってきたこの重要な役割を、誰もが参加できる形に変革しようとするプロジェクトが注目を集めています。それが、世界最大の分散型環境モニタリングネットワーク「Ambient」です。2024年5月、同プロジェクトはBorderless Capitalを中心とする投資家グループから200万ドルもの資金調達に成功し、大きな注目を集めました。

この資金調達には、Solana Ventures、Parami Investors、Sonic Boom Ventures、Primal Capitalなど、web3業界を代表する投資家たちが参加しています。彼らがAmbientに注目する理由は、環境モニタリングという伝統的な分野に、ブロックチェーン技術と市民参加型のアプローチを組み合わせた革新的なビジョンにあります。従来の環境データ収集は、高価な専用機器と専門的な知識を必要とし、そのデータの活用も一部の機関に限られていました。Ambientは、この状況を根本から覆そうとしています。

現在、Ambientのネットワークは世界20か国以上に広がり、8,192台のオンラインセンサーが稼働しています。これらのセンサーから生み出されるデータストリームは110億を超え、その数は日々増加し続けています。

ネットワークは屋外、屋内、ウェアラブル、商品の4つのカテゴリーに分類されるセンサーで構成され、それぞれが異なる環境パラメータを計測します。例えば、屋外センサーは大気中のPM2.5やPM10、二酸化窒素、オゾンなどの濃度を測定し、屋内センサーは室内の二酸化炭素濃度や揮発性有機化合物(VOC)などを監視します。これらのデータは、私たちの健康と直結する重要な指標となります。

実際、世界保健機関(WHO)の報告によると、大気汚染により世界中で年間700万人以上の早期死亡者が出ているとされ、環境モニタリングの重要性は年々高まっています。特に都市部では、工場や自動車からの排出ガス、建設現場からの粉塵など、様々な環境負荷要因が存在し、それらを正確に把握し、適切な対策を講じることが求められています。

Ambientが採用するDePINモデルは、Solanaブロックチェーン上で展開される独自のトークンシステムを通じて、環境データの収集に貢献するコミュニティメンバーに報酬が提供されます。このインセンティブ設計により、ネットワークの持続的な成長と、データ品質の維持を両立させることが可能となります。

さらに、収集されたデータはAir Quality REST APIを通じて広く公開され、1回のリクエストで最大10,000回の呼び出しを処理できる高い拡張性を備えています。このデータは15分ごとに更新され、過去3ヶ月分の履歴データも提供されるため、環境の変化を時系列で分析することも可能です。これにより、都市計画や環境政策の立案、さらには個人の健康管理まで、幅広い分野での活用が期待されています。

このように、Ambientは環境データの収集・活用を、専門家だけのものから、私たち一人一人が参加し恩恵を受けられるものへと変革しようとしています。

Ambientエコシステムの全体像

それでは、Ambientのエコシステムと技術的な実装について、より詳しく見ていきましょう。Ambientの特徴は、多様なセンサーと市民参加型のデータ収集を組み合わせた、重層的なネットワーク構造にあります。センサーは4つのカテゴリーに分類され、それぞれが異なる役割を担っています。

まず、カテゴリーAと呼ばれる屋外センサーは、都市の大気環境を監視する中核的な存在です。温度、湿度といった基本的な指標から、PM2.5、PM10などの微小粒子状物質、さらにはO3(オゾン)、NO2(二酸化窒素)、CO(一酸化炭素)といった大気汚染物質まで、幅広いパラメータを測定します。現在、2,774台のカテゴリーAセンサーが世界中で稼働中です。

次に、カテゴリーBの屋内センサーは、オフィスや商業施設、住宅など、室内環境の監視を担当します。Kaiterra Sensedge MiniやTerrabee IN5といった機器が、CO2濃度やTVOC(総揮発性有機化合物)を測定し、室内の空気質を総合的に評価します。5,066台の屋内センサーが、快適で健康的な室内環境の実現に貢献しています。

さらに、カテゴリーCセンサーは、より専門的な環境モニタリングニーズに対応し、カテゴリーDは新しく導入されたAmbiGo!アプリを通じたデータ収集を行います。このAmbiGo!は、Ambientエコシステムの重要な特徴の一つです。ユーザーは場所のチェックインや環境評価を行うことで報酬を獲得でき、すでに624,358件以上のチェックインが記録されています。

細かいセンサーの説明をしましたが、簡単に言えば物理的に設置できる複数のセンサーとユーザー個人がダウンロードできるアプリによってデータを収集しているという形です。

これらのセンサーネットワークを支えるのが、綿密に設計されたトークノミクスです。Ambientは2025年第1四半期に、最大供給量10億トークンのユーティリティトークンを発行する予定です。このトークンの配分は、マイニング報酬とプログラムに40%、コアチームに20%、投資家に15%、Ambientネットワーク財団に10%、レガシーネットワークとエコシステムエアドロップに10%、公開販売に5%と、バランスの取れた設計となっています。

特徴的な点は、マイニング報酬の配布方式です。初年度は2億トークンから始まり、10年間かけて段階的に減少していく設計となっています。これにより、ネットワークの初期成長を促進しつつ、長期的な持続可能性も確保しています。また、報酬の分配においては、各センサーの性能や信頼性、データの質を考慮した評価システムが導入されており、高品質なデータ提供者により多くの報酬が分配される仕組みとなっています。

収集されたデータの活用においても、Ambientは革新的なアプローチを取っています。Air Quality REST APIを通じて提供されるデータは、企業や研究機関が簡単に利用できる形式で提供され、環境分析や都市計画、さらには新しいアプリケーション開発にも活用可能です。データの収益化モデルでは、当初は法定通貨での取引から始まり、将来的にはプロトコル収益の100%がAmbientトークンの市場での購入に使用される設計となっています。

このように、Ambientは技術的な革新性と経済的なインセンティブを巧みに組み合わせることで、持続可能な環境モニタリングネットワークの構築を目指しています。

ユースケースと展望

Ambientはすでにいくつかの注目すべき導入事例を生み出しています。その代表例が、ラスベガスのベストウエスタン マッカラン インでの導入プロジェクトです。

全客室と公共スペースに110台のKaiterra Sensedge Miniセンサーを設置し、温度、湿度、粒子状物質(PM2.5、PM10)、揮発性有機化合物(TVOC)、二酸化炭素(CO2)などの重要な室内指標を追跡しています。米国の室内空気質に関する消費者意識調査によると、消費者の77%が、ホテルの室内空気質の証明が宿泊の決定に影響すると回答しており、このプロジェクトは宿泊施設における環境品質の重要性を示す好例となっています。

また、ロサンゼルスの象徴的な商業施設、ジャパニーズビレッジプラザ(JVP)では、30の小売店舗にセンサーを導入し、1日5,000人以上が訪れる施設内の環境品質を継続的にモニタリングしています。このプロジェクトでは、IoTおよびWeb3対応デバイスの大手導入企業であるParamiと協力し、空気質データの分析や付加価値サービスの開発を進めています。

今後のAmbientの展望は、単なる環境データの収集にとどまりません。収集されたデータは、都市計画や環境政策の立案、商業施設の環境改善、さらには個人の健康管理まで、幅広い分野での活用が期待されています。特に、環境データの透明性向上は、企業のESG対応や環境規制の遵守において重要な役割を果たすことが予想されています。

世界的な環境意識の高まりと、より正確で信頼できる環境データへの需要は、今後ますます増加することが予想されます。その中で、Ambientは環境データの民主化と持続可能な未来の実現に向けた重要な役割を担っていくことでしょう。

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mitsui

web3 Researcher / web3に関する情報(プロジェクト・ニュース・単語の解説やリサーチからの学びや考察)を発信しています。 @koheimitsui_/ Substack / 公式サイト