目次
- オレンジ・ボンドとは
- オレンジ・ボンドが注目される背景
- オレンジ・ボンド原則と発行事例
3-1.オレンジ・ボンド原則
3-2.発行事例 Women’s Livelihood Bond - オレンジ・ボンドの課題
- まとめ
1 オレンジ・ボンドとは
オレンジ・ボンドは、ジェンダー平等とエンパワーメントを推進するために設計された金融商品です。女性や性的マイノリティに属する人々が主導する事業やエンパワーメントを支援するプロジェクトへの資金提供を目的としており、伝統的な投資手法では資金調達が困難だったプロジェクトに対して、よりアクセスしやすい資金源を提供することを目的としています。
SDGsの一つである「5.ジェンダー平等を実現しよう」の色がオレンジであることが名称の由来です。
(※参照:IIX「Orange Bond Initiative™: Connecting Back Streets to Wall Streets through Gender Equality」、UN WOMEN「Press release: IIX and UN Women partner to empower millions of women through innovative finance」)
2 オレンジ・ボンドが注目される背景
ジェンダー平等が世界的な課題として認識される中、2019年、国連女性機関(UN Women)とインパクト・インベストメント・エクスチェンジ(IIX)が共同でオレンジ・ボンドの概念を推進し始めました。IIXは、持続可能な開発と社会的インパクトを目指す投資のプラットフォームであり、「オレンジ・ボンド・イニシアティブ」を通じて、ジェンダー平等に焦点を当てた新しい金融モデルを提供しています。
オレンジ・ボンド・イニシアティブ
オレンジ・ボンド・イニシアティブは、オレンジ・ボンドの導入と拡大を目指すための包括的なプログラムです。女性に対する経済的支援を強化し、持続可能な開発目標(SDGs)に貢献することを目的としています。主な役割として、以下が挙げられます。
- 資金調達の枠組みの提供:オレンジ・ボンドを通じて、女性主導のプロジェクトや女性の支援につながる事業への資金提供を促進
- パフォーマンス評価と透明性の確保:投資の効果を評価し、投資家に対する透明性を確保するための基準と指標を設定
- エコシステムの構築:政府、企業、NGOなど多様なステークホルダーと連携し、女性のエンパワーメントを支援するためのエコシステムを構築
- 知識とリソースの提供:女性起業家や女性主導のプロジェクトに対するトレーニング、技術支援、ネットワーキングの機会を提供。
オレンジ・ボンドは、ジェンダーギャップを縮小し、女性が経済的に自立するための手段として提唱されています。
グローバル・サウスを中心としたジェンダー平等の投資促進
2030年のSDGs達成を目指すうえで、グローバル・サウスを中心にジェンダー平等実現への投資促進が課題だと、同イニシアティブは指摘します。2030年までに1億人の女性やジェンダーマイノリティの人々を支援すべく100億ドルを動員するという使命のもと、オレンジ・ボンドの普及に取り組んでいます。
ジェンダー平等を実現する上での金融市場の課題として、同イニシアティブは以下の3点を指摘しています。
- 従来、ジェンダー支援を主目的とした金融の枠組みがなく、ソーシャル・ボンドやサステナビリティ・ボンドにおける使途の一つとされており、ジェンダー関連の資金調達割合が相対的に少なかったこと
- 投資等重要な意思決定がグローバル・ノースを中心に行われ、グローバル・サウスの抱える多面的なジェンダー課題の解決に十分な資金が投資されてこなかったこと
- グリーンウォッシングのリスクやサステナビリティ投資に関するデータの透明性確保に課題があったこと
(※参照:IIX「Orange Bond Initiative™: Connecting Back Streets to Wall Streets through Gender Equality」、「Orange Bond Initiative™」)
3 オレンジ・ボンド原則と発行事例
ジェンダー課題の解決に向けた投資を促進させるため、2022年10月、IIXが「オレンジ・ボンド原則」をまとめました。オレンジ・ボンドの発行実務や投資判断、資金調達の意思決定に関する原則を設けることで、より透明性の高い資金調達を促すことが期待されています。
3-1 オレンジ・ボンド原則
原則1 ジェンダーに配慮した資本配分
調達資金がジェンダー平等を推進するために使用されること。
例えば、女性、少女、ジェンダーマイノリティに属する人々(LGBTQI+コミュニティや、その他の性差別に直面している人々)への利益を重視した製品やサービス、ジェンダーの多様性・包摂型を考慮するプロジェクトや企業、また上級役職の3割を女性やジェンダーマイノリティに属する人々が担っている会社や組織に対する投資が挙げられます。
原則2 ジェンダー視点を取り入れたリーダーシップ
発行体が社内の意思決定にジェンダー視点を取り入れていること。
例えば、取締役や投資委員会などのリーダーシップチームや、オレンジ・ボンドに従事するチームの30%以上が、女性・ジェンダーマイノリティの人々で構成されていること、また投資対象となる地域と同じ民族の女性・ジェンダーマイノリティの人々がチームに含まれていることが挙げられます。
原則3 投資プロセスにおける透明性
投資プロセスとインパクト評価の透明性を高めること。
例えば、資金使途や想定されるインパクトに関する情報を事前に投資家に提供すること、資金の使用状況のモニタリング方法やインパクト測定方法を明確にすること、そしてジェンダー別指標を用いてジェンダー平等へのインパクトを評価し報告することが挙げられます。
(※参照:IIX「Orange Bond Principles」)
3-2 発行事例 Women’s Livelihood Bond
2017年以来、IIXは「Women’s Livelihood Bond」(WLB)と銘打ったオレンジ・ボンドを定期的に発行しています。2023年の6回目の起債を含めて、合計で約228億ドルが動員され、7カ国260万人の人々に影響を与えたと報告されています。
第6回債は、グローバル・サウスにおける88万人の女性や少女のエンパワーメントに資することを目的に発行されました。
第6回債の発行条件
- 債券名称|Women’s Livelihood Bond™ 6
- 発行額|100万米ドル
- 発行日|2023年12月
- 償還予定日|2027年12月
- 外部評価機関|Tameo Impact Fund Solutions SA
- レビューフォーム完了日|2023年11月13日
(※参照:IIX「Orange Bond Principles External Review Form」)
4 オレンジ・ボンドの課題
オレンジ・ボンドはまだ枠組みができて日が浅く、発行市場が確立されているとは言い切れない点が課題といえます。IIXは定期的に起債を行っているものの、その他の企業や団体によるオレンジ・ボンドの発行事例はまだ多く見られず、市場統計データも限定的です。
日本においては、2021年に国際協力機構(JICA)が「ジェンダーボンド」を発行した事例があります。ですが、本債券が「ソーシャル・ボンド」の枠組みに準拠した債券との位置づけとなっているように、従来ジェンダー課題解決に向けた資金調達はソーシャルボンドの枠組みを通して行われてきました。
2024年6月時点では、ジェンダー課題の解決に向けた投資について、ソーシャル・ボンドの枠組みに沿って行うべきか、オレンジ・ボンドという新たな枠組みのもと進めるべきか、明確な方向性は出されていません。
しかし、グローバル・サウスにおけるジェンダー課題解決に取り組むプロジェクトなど、従来十分な資金調達が行われてこなかったプロジェクトへの投資を促進するにあたり、資金使途をジェンダー課題に限定し、オレンジ・ボンド原則のようにジェンダー視点での多様性と包摂性を考慮した金融枠組みは、重要な役割を果たすでしょう。
(※参照:JICA「ジェンダーボンド(2021年9月発行)」)
5 まとめ
オレンジ・ボンドは、ジェンダーに関する課題への投資に資金使途を限定した債券です。ジェンダー課題はソーシャルボンドの使途の一部でもありますが、グローバル・サウスを中心にジェンダー課題解決のための投資を加速させる目的で、IIXが枠組みを設けました。
IIXによる定期的な債券発行が続く一方で、市場の拡大には投資家・発行体のさらなる増加が期待されます。
伊藤 圭佑
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