ニュージーランド政府は10月12日、2050年までの気候変動目標を見直し、農業由来のバイオジェニックメタンの削減目標を現行の「2017年比24~47%削減」から「14~24%削減」へと大幅に緩和すると発表した。世界有数の畜産国として知られる同国が、農業部門の経済的影響に配慮した現実的な目標設定に舵を切った形だ。一方で、二酸化炭素など長寿命温室効果ガスについては2050年までの実質排出ゼロ目標を維持する。
今回の決定は、気候変動対応法で義務付けられている5年ごとの目標見直しプロセスの一環として行われた。政府は気候変動委員会が2024年11月に提出した助言と、同年12月に発表されたメタンの科学的知見に関する独立レビューの結果を検討し、最新の科学的知見と農業部門への影響のバランスを考慮した上で判断を下した。畜産業が主要産業である同国では、羊や牛などの家畜から排出されるメタンが温室効果ガス全体の相当な割合を占めており、削減目標の設定が経済と環境保護の両立を図る上での重要な課題となっていた。
ニュージーランドは温室効果ガスを「短寿命」と「長寿命」に分けて管理する独自の「分離ガス方式」を採用している。メタンは大気中での滞留期間が約12年と短く、数百年以上残留する二酸化炭素とは温暖化への影響メカニズムが異なることから、それぞれに別個の削減目標を設定することで、より科学的で現実的な気候変動対策を目指している。なお、2030年までの中間目標である「2017年比10%削減」については変更せず現行通り維持し、2040年には再度目標の妥当性を検証して必要に応じた見直しを行うことも明らかにした。
新目標の実施には気候変動対応法の改正が必要となるため、政府は2025年末までの改正法案成立を目指す。第4次排出削減予算の策定と第1~3次予算の見直しについては、当初予定していた年内の決定を2027年12月31日まで先送りすることも決定した。政府は今回の変更が国内目標に限定されることを強調し、パリ協定などに基づく国際的な削減目標には影響しないとしている。また、先般発表された2025年の排出量取引制度(ETS)の設定にも影響はなく、2026年のETS設定プロセスで新目標を反映させる予定だ。11月21日までには、国際航空・海運からの排出を目標に含めるかどうかの決定も含め、気候変動委員会の助言に対する正式な回答を行う方針となっている。
【参照記事】Government resets 2050 biogenic methane target

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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