目次
eAgronomとは?
「eAgronom」は、持続可能な取り組みをする農家に新しい報酬を与えることを目的としたプロジェクトです。
この報酬は大きく2種類存在します。
- カーボンクレジットの生成による売却益
- 提携銀行による低金利ローン
1つずつ解説します。
①カーボンクレジットの生成による売却益
eAgronomでは、カーボンファーミング(Carbon Farming)と呼ばれる手法で二酸化炭素を削減しています。
カーボンファーミングは、大気中のCO2を土壌に取り込んで、農地の土壌の質を向上させCO2の排出削減を目指す農法です。要するに炭素を土壌に閉じ込めたまま土壌改良を目指すという手法です。これによって土壌が良くなり生産効率が向上すると同時に、カーボンクレジットの売買によって新しい収益源を手にすることが可能となります。
eAgronomはこれらの一連のプロセスを「カーボンプログラム」として用意しており、農家はそのプログラムに応募することで一気通貫したサポートが受けられます。プログラムに応募すると農家が保有している土地や栽培している農作物を元に炭素ポテンシャルの評価が受けられ、最適な計画の提案がなされます。それを承認すると実際にカーボンファーミングの取り組みがスタートし、Verraの認証を通してカーボンクレジットが発行されます。そして、クレジット発行後も、South Poleと呼ばれるプロジェクトとの提携により、販売まで保証されています。販売時期は自由に選択でき、事前決済も可能です。
②提携銀行による低金利ローン
eAgronomの専門家が独自に農地を検証し、その結果を「Sustainable Farmer Certificate(SFC)」という形で発行します。SFCを保有する農家はeAgronomが提携している銀行で低金利でローンを組むことが可能となります。このSFCの発行は定期的な検証が必要となるため、年間で1ヘクタール当たり0.5ユーロ(min250ユーロ)の費用がかかります。尚、後述しますがeAgronomは農家むけのソフトウェアも提供しており、その利用者は料金が半額となります。
農家は不安定な事業だと見なされることも多く、借入の条件が厳しくなることも多いです。そういった企業に対して低金利のローンを提供するインセンティブを用意することで、サステナブルな行動を促進します。
設立背景と変遷
eAgronomが特徴的な点は、元々農家向けのソフトウェアを提供しており、その延長線上で持続可能な農家向けのカーボンプログラムや低金利ローンの提供を始めました。なので、設立は2016年でありながら、すでに100万ヘクタール以上、2,000以上の農家を支援しています。ReFi市場はweb3ネイティブで誕生したプロジェクトが多い中、すでに事業としてうまくいっていた企業がその顧客向けのプラスアルファとしてブロックチェーンの採用を始めたという形です。
以下では、その設立背景や変遷を解説します。ファウンダーは27歳(2023年現在)のロビン・サルークス氏で、eAgronomはエストニアで生まれたスタートアップです。
サルークス氏は家が農家で、幼い頃からお手伝いをしていたそうです。また、買い与えてもらったPCにのめり込み、高校時代には友人と一緒に最初の会社を設立しました。そこで作ったプロジェクトが非常に評価されたことで更にビジネスに興味が湧き、大学でITを勉強しつつ、それまで目指していたサッカー選手の夢を諦め、ビジネスの世界に注力することを決めたそうです。
eAgronom設立のきっかけはやはり家庭が農家であった原体験です。「父親の畑を整理したい」という想いから始まり、父親が効率化したいと思っていたことをソフトウェアを通じてIT化できるツールを開発しました。このツールがヒットし、なんと約半年でエストニアの農家の60%が利用するまでに成長しました。それ以降、エストニア以外の欧州にも進出し、幅広く活用されるツールに成長しています。このツールは現在も運営されており、農家は自身のCO2排出量が見える化できたり、農家の土地の一覧化、タスクの管理などができます。ツール上で他のメンバーにタスクの割り当てをしたり、コミュニケーションも取ることも可能です。また、様々な管理データを一括管理できるので、政府への報告レポートも簡単に作成できるようになります。
このツールの開発と運営で企業は成長し、現在はカーボンプログラムの提供をするまでに至りました。
展望と考察
eAgronomは2022年の2月にシリーズAで740万ドルを調達し、累計資金調達金額を1,200万ドルとしました。調達した資金を活用し農業ベースのカーボンクレジットの売買プラットフォームの構築を目指すと宣言しています。
また、カーボンクレジット市場において更なる農家支援のために「Solid World」と呼ばれるDAOも立ち上げました。Solid Worldはカーボンクレジットの事前購入を可能にする特徴を持つ、ブロックチェーンを活用したカーボンクレジットのマーケットプレイスです。このSolid Worldを立ち上げることで農家が発行するカーボンクレジットの事前決済も可能にし、更なるインセンティブ向上に努めています。
カーボンクレジットの事前購入券を売買できる「Solid World」は、カーボンオフセット市場の急拡大のきっかけとなる!?
やはりeAgronom最大の強みは「2016年から積み上げてきた既存顧客(農家)」と「すでにPMFに達しているプロダクト」の存在です。
今年(2023年)の3月、法人向けSaaSで世界的な影響力を持つSalesForceが自社サービス内にNFT発行機能を追加したことを発表しました。SalesForceは世界的にすでに顧客を持っており、信頼も獲得しています。その一機能でNFT発行機能を出すことは、web3ネイティブな会社が同じサービスを提供する場合とは異なります。顧客の獲得スピードもそうですし、顧客に対しての解像度の違いが存在しており、現場に即した形でのweb3の活用を提案することができます。
eAgronomはまさにSalesForceと同じです。既存顧客も存在しますし、既存顧客への解像度も高いはずです。web3のプロジェクトは理解が難しく、仕組みとしては存在していても、事業者が利用するハードルが高い場合が多々あります。eAgronomは農家が本当に困っていること、リテラシー、そこで働く人たちのライフサイクル、これらを加味した上でのプロダクトの開発が可能です。
このスタートラインの違いは非常に大きな差になり得ると感じます。ReFiプロジェクトでこのような形で参入している事例はあまり多くないので、今後の成長が非常に楽しみです。
mitsui
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