国連主導のネットゼロ・アセットオーナー・アライアンス(NZAOA)は11月、運用会社に対し、受託者責任の一環として気候変動リスクを重視するよう求める報告書を発表した。現在88の加盟機関が運用資産総額(AUM)9.5兆ドルを代表するNZAOAは、気候変動を倫理的選好ではなく金融システム全体に影響を及ぼすシステミックリスクと位置づけ、アセットマネジャーに投資判断プロセスへの気候リスク統合を要請している。機関投資家による運用会社へのエンゲージメント強化は、ポートフォリオ全体の脱炭素化を加速させる重要な手段となる。
10月発表の第4次進捗報告書によると、加盟機関の81機関(AUM9.4兆ドル、全体の98.9%)が2025年までのパリ協定整合的な削減目標を設定済みで、平均年間6%の絶対排出削減を達成している。79機関がサブポートフォリオ目標を設定し、債券・株式・不動産・インフラで平均26%削減を目指す。目標カバー範囲は総AUMの48%(4.3兆ドル)に拡大し、2023年には気候ソリューションへ1750億ドルを投資した。しかしLegal & GeneralのWendy Walford氏は、実体経済の移行ペースは不十分で世界の排出量は増加し続けていると指摘する。
年金基金や保険会社などのアセットオーナーは、長期投資ゆえに気候変動の物理的リスクと移行リスク双方に直面する。NZAOAは受託者責任の観点から、運用委託先のアセットマネジャーに気候リスクの投資プロセス統合と、投資先企業への脱炭素化促進を求めている。2023年には34のNZAOA加盟機関が運用会社にネットゼロコミットを要求し、2022年の20機関から増加した。ただし、大手運用会社の気候関連株主提案への賛成率は依然低水準で、エスカレーション戦略の明確化が課題だ。
今後、運用会社の選定・評価でネットゼロ目標、脱炭素化計画、エンゲージメント実績、議決権行使方針が重視され、気候対応が不十分な運用会社は契約解除リスクに直面する。NZAOAは政府にもカーボンプライシング等の政策実施を求めており、金融セクターから実体経済への働きかけを強化する姿勢を示している。投資家は企業評価においてアセットオーナーとアセットマネジャー双方の気候戦略の整合性をより注視する必要がある。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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