欧州連合(EU)の欧州委員会は10月29日、保険・再保険会社の健全性規制であるソルベンシーII指令の委任規則を改正すると発表した。EUの保険セクターが運用する約10兆ユーロ資産を活用し、企業への長期資金供給や戦略分野への投資を促進する。新規則は2027年1月30日に施行される。
今回の改正は、2025年2月に成立したソルベンシーII指令の改正指令(EU指令2025/2)を補完するもので、保険会社の資本規制の詳細を定める。改正の主眼は、保険会社による実体経済への長期投資の障壁を取り除くことにある。具体的には、株式や証券化商品に対する過度に保守的な資本要件を調整し、公的資金と並行した民間投資を促す。これにより、欧州委員会が推進する「貯蓄・投資連合」構想を後押しする狙いだ。
改正の核心となるのが、長期株式投資への優遇措置の簡素化である。保険会社が5年以上保有する株式には22%のリスクファクター(資本要件)が適用され、ストレス時でも強制売却の必要がないことを証明すれば優遇を受けられる。さらに、公的保証や補助金を伴う「立法プログラム」を通じた株式投資には、監督当局の事前承認を条件に、より有利な扱いが認められる。例えば、プログラムによって信用リスクが20%削減される場合、リスクファクターは17.6%(22%から4.4%ポイント減)まで引き下げられる。この仕組みは、グリーン移行、イノベーション、安全保障・防衛といったEUの戦略的優先分野への民間資金の流入を促進する設計となっている。証券化商品への投資規制も緩和され、「シンプル・透明・標準化された証券化(STS)」の優良トランシェは、カバードボンドと同等の扱いを受ける。これにより、銀行のリスク移転が促進され、中小企業を含むEU企業や家計への融資拡大が期待される。
規制の比例性も強化される。事業規模が小さく複雑性の低い保険会社は「小規模・非複雑事業体(SNCU)」に自動分類され、ガバナンス、報告、開示などの要件が軽減される。その他の事業者も、監督当局の承認を得れば簡素化措置を利用できる。また、報告義務の合理化により、ソルベンシー・財務状況報告書(SFCR)は保険契約者向けと市場参加者向けに分割され、前者は5ページ以内に制限される。自然災害リスクについては、洪水、暴風、地震などの最新データと気候変動トレンドを反映した標準算式パラメータが更新され、気候関連リスクへの耐性が強化される。
今回の改正により、保険会社の投資余力は大幅に拡大する見込みだ。欧州保険・年金監督機構(EIOPA)と各国監督当局は、保険会社の投資戦略、配当金分配、変動報酬を定期的に監視し、追加資本が実体経済に向けられることを確認する。EIOPAは2028年12月31日までに、欧州委員会、欧州議会、理事会に対して最初の報告書を提出する。この枠組みが、EU企業の成長と雇用創出にどこまで貢献するかが注目される。
【参照記事】Questions and answers on the Solvency II delegated regulation
 
		HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
 
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