英ロールス・ロイスは10月27日、世界初となる純メタノール燃料で動作する高速船舶エンジンの試験に成功したと発表した。同社はドイツのフリードリヒスハーフェンにある試験施設で、注入システム専門のウッドワード・ロランジュ、技術研究センターのWTZロスラウとともに、研究プロジェクト「meOHmare」を通じて開発を進めてきた。この性能クラスで純メタノールのみで動作する高速エンジンの実用化は世界でも例がなく、海運業界の脱炭素化に向けた重要な一歩となる。
メタノールはディーゼル燃料と異なり自然発火しないため、全く新しい燃焼プロセス、過給システム、エンジン制御システムの設計が必要となった。ロールス・ロイスのメタノールエンジン開発責任者であるヨハネス・ケッヒ博士は「試験施設のインフラも含めて根本から再設計を行った。初期テストではエンジンが順調に動作しており、現在は微調整の段階にある」と述べている。同プロジェクトはドイツ連邦経済エネルギー省の資金提供を受けており、2025年末までにグリーンメタノールを使用したCO2ニュートラルな船舶エンジンの包括的なコンセプトを完成させることを目標としている。
グリーンメタノールは海運業界で最も有望な代替燃料の一つとされている。再生可能エネルギー由来の電力を使ったパワー・ツー・Xプロセスで製造されれば、運用時にCO2ニュートラルとなる。他の持続可能な燃料と比較して貯蔵が容易で生分解性があり、汚染物質の排出も大幅に少ない。国際海事機関(IMO)は2050年までに海運業界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を掲げており、メタノール燃料への転換はこの目標達成に向けた現実的な選択肢として注目されている。欧州ではすでにメタノール燃料供給インフラの整備が進んでおり、マースク社などの大手海運会社もメタノール駆動船の導入を表明している。
ロールス・ロイスのグローバル海洋事業担当上級副社長デニス・クルトゥルスは「グリーンメタノールは未来志向の燃料であり、その技術が完成した。特にフェリー、ヨット、供給船の運航事業者にとって、カーボンフットプリントを削減する魅力的なソリューションとなる」と強調した。同社は単一燃料のメタノールエンジンに加え、メタノールとディーゼルの両方を使用できるデュアル燃料コンセプトも開発しており、グリーンメタノールが広く利用可能になるまでの橋渡し技術として位置づけている。海運業界の完全な脱炭素化には燃料供給網の整備も不可欠であり、今後は技術面だけでなく、メタノール燃料の普及に向けた枠組み作りが課題となる。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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