国際資本市場協会(ICMA)は11月6日、気候トランジションボンド・ガイドライン(CTBG)を発行した。東京で開催されたICMAの年次総会で発表されたこの新ガイドラインは、グリーンボンド原則(GBP)、ソーシャルボンド原則(SBP)、サステナビリティボンド・ガイドライン(SBG)、サステナビリティ・リンク・ボンド原則(SLBP)に続く独立した枠組みとして位置づけられる。気候トランジションボンド(CTB)を独立したラベルとして確立することで、鉄鋼・セメント・運輸など従来グリーンボンドでは資金調達が困難だった高排出セクターの脱炭素化プロジェクトへの資金供給を促進する。市場規模6兆ドル超のサステナブルボンド市場において、移行資金の透明性と信頼性を高める狙いがある。
ICMAが支援するグリーン・ソーシャル・サステナビリティ・サステナビリティ・リンク・ボンド原則の執行委員会が発表した気候トランジションボンド・ガイドラインは、測定可能な排出削減を実現するプロジェクトや脱炭素化を支援する活動を対象とした調達資金使途型債券の新たな分類を提供する。このガイドラインでは「気候トランジション・プロジェクト」を明確に定義し、グリーンボンド原則の対象範囲を超えて、産業の脱炭素化、再生可能エネルギーの統合、インフラの適応などを含む。特に、鉄鋼・セメント・運輸などの高排出セクターを対象とし、従来グリーンファイナンスでは十分にカバーされてこなかった領域に焦点を当てる。また、気候移行をテーマとしたサステナビリティ・リンク・ボンドの発行体に対して、信頼性とパリ協定の目標との整合性を担保するため、強化された開示を推奨している。
ガイドラインと併せて更新された気候トランジション・ファイナンス・ハンドブック(CTFH)は、移行計画と評価に関する詳細なガイダンスを提供する。新たに追加された附属書では、移行計画の枠組み、ツール、方法論が詳述され、発行体の信頼性を評価するための指標を示している。この更新は、科学に基づいた統一基準をサステナビリティ・リンク商品に適用するICMAの長年の取り組みを発展させたものだ。投資家にとって、独立したCTBラベルの追加は、比較可能性を高め、グリーンウォッシングのリスクを軽減する。また、信頼性の高い移行資産の投資対象範囲を拡大し、短期的なサステナビリティ施策と長期的な構造変革との明確な差別化を可能にする。発行体にとっては、グリーンボンド基準を完全には満たさないものの、ネットゼロ目標達成に不可欠なプロジェクトへの資本市場アクセスを提供する道筋となる。
今回の発表は、ISSBの開示基準統一やTCFD後継の気候関連開示の国際的整合化といった、サステナビリティ情報開示の標準化が進む中で行われた。投資家は財務情報とESG情報の統合的な評価を求めており、移行戦略の透明性に対する要求も高まっている。ICMAのガイドラインは、移行計画の科学的根拠、進捗追跡、透明な開示を求めることで、機関投資家と規制当局が重視する要素に対応する。日本でも、SSBJが2025年3月末にISSB基準と整合的なサステナビリティ開示基準の確定を目指しており、東京証券取引所プライム市場上場企業への適用が見込まれる中、移行資金への信頼性ある枠組みの整備は、企業の資金調達戦略と投資家のポートフォリオ構築の両面で重要性を増している。
【参照URL】ICMA “Climate Transition Bond Guidelines”
【参照記事】ESG News “Executive Committee of the Principles, Backed by ICMA, Issues Climate Transition Bond Guidelines”
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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