欧州委員会は7月30日、中小企業(SME)向けの自主的なサステナビリティ報告基準に関する勧告を採択した。この基準は、上場していない中小企業や零細企業が、金融機関や大企業からの情報開示要求に効率的に対応できるよう支援することを目的としている。
新基準は、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)が開発した「VSME(Voluntary Standard for SMEs)」に基づいており、基本モジュールと包括モジュールの2段階構成となっている。零細企業は基本モジュールの一部のみを使用でき、中小企業は最低限として基本モジュール全体の適用が求められる。EFRAGは、企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の策定主体でもあり、VSMEはESRSを補完する形で非上場中小企業向けに設計された簡易報告フォーマットと位置づけられる。
この勧告の背景には、2022年に採択されたCSRDによる「トリクルダウン効果」がある。大企業がサプライチェーン全体の情報開示を求められることで、報告義務のない中小企業にも間接的に負担が生じていた。欧州委員会によると、多くの企業が持続可能性に関するリスク管理やデューデリジェンスのため、取引先の中小企業に個別の情報提供を求めているという。
中小企業にとっては、標準化された報告枠組みを持つことにより、重複する情報要求や独自フォーマットへの対応コストを削減できるだけでなく、投資家や金融機関からの信用力を向上させる効果も期待されている。特に、サステナビリティ関連リスクへの対応能力が可視化されることで、ESG評価やグリーンファイナンスの利用可能性が広がる可能性がある。
欧州委員会は2025年2月に提案した規制簡素化パッケージにおいて、サステナビリティ報告義務の対象を従業員1000人超の大企業に限定し、それ以下の規模の企業には自主基準の適用を提案している。今回の勧告は、この立法プロセスが完了するまでの暫定的な解決策として位置づけられる。
勧告では、大企業や金融機関に対して、中小企業への情報要求をVSME基準の範囲内に可能な限り制限するよう求めている。また、加盟国には、中小企業への啓発活動や、デジタル化支援などの実施を推奨している。欧州委員会は、電子インボイスを活用したデータの自動抽出など、中小企業の報告負担を軽減するデジタルソリューションの開発も進めている。
この基準は自主的なものであり、第三者保証は不要で自己宣言で十分とされている。EU域外の中小企業も利用可能で、将来的には欧州単一アクセスポイント(ESAP)を通じて情報を公開し、投資家へのアクセスを向上させることも期待されている。
【参照URL】on a voluntary sustainability reporting standard for small and medium-sized undertakings
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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