DNV報告書:代替燃料船の急増も燃料供給が追いつかず、海運業界の脱炭素化に新たな課題

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ノルウェー船級協会(DNV)は9月11日、「Maritime Forecast to 2050」第9版を発表し、海運業界の脱炭素化が新たな転換期を迎えていることを明らかにした。代替燃料対応船の運航隻数が2028年までにほぼ倍増する見込みである一方、実際の低GHG(温室効果ガス)燃料の供給が大幅に不足している現状が浮き彫りとなった。

報告書によると、2030年までに代替燃料船隊は年間5,000万トン相当の低GHG燃料を燃焼できる能力を持つようになる。これは国際海事機関(IMO)の2030年排出量目標達成に必要な推定量の2倍に相当する。しかし現在、低GHG燃料の実際の消費量はわずか100万トンにとどまっており、船隊の準備状況と燃料供給の間に大きなギャップが存在している。

DNVマリタイムのクヌート・オルベック=ニルセンCEOは「海上エネルギー転換の次の段階への舞台は整った」と述べた上で、「IMOのネット・ゼロ・フレームワークには不完全な部分があり、徴収された資金がどのように使われるのかについて、より明確な説明が早急に必要だ」と指摘。船主は10月のIMO会合を待って戦略的優先順位を調整するだろうと予測している。

報告書は、船隊準備態勢と燃料供給能力のギャップを埋めるための複数の解決策を提示している。バイオディーゼルやバイオLNGなどの低GHG燃料向けの既存インフラ活用、新造船へのエネルギー効率向上対策の導入、船上炭素回収(OCC)技術の活用などが含まれる。特にOCCについては、20の主要港にCO2積み出しインフラを整備すれば、年間最大7,500万トンのCO2を回収し、IMOの2030年基本目標達成に必要な2,500万トンの低GHG燃料需要を相殺できる可能性があるという。

また、風力補助推進システム(WAPS)にも注目が集まっている。DNVの検証によると、WAPSは好条件下で1海里あたりのエネルギー消費を約30%削減できる可能性があり、特定の船舶では燃料使用量を5~20%削減できると見込まれる。2025年は海上風力エネルギーにとって画期的な年になる可能性があるとしている。

現在、代替燃料対応船は1,794隻が運航中で、さらに1544隻が発注中となっている。低GHG燃料(バイオディーゼルを除く)の世界供給量は2030年までに年間7,000万トンから1億トンになると予測されるが、海運業界の需要はそのごく一部に過ぎないと予想される。

海運業界の脱炭素化は、技術的進歩は遂げているものの、各ソリューションがまだサイロ化されて運用されている状況にある。今後は船隊戦略への統合、インフラによる支援、規制枠組みでの認識が必要となり、業界全体での協調的な取り組みが求められている。

【参照記事】DNV: Fleet readiness surges ahead of fuel supply – green transition at a tipping point
【参照URL】Report Maritime Forecast to 2050

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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