世界貿易機関(WTO)の漁業補助金協定が9月15日に正式に発効した。同協定は、海洋魚類資源の枯渇につながる有害な補助金への年間数十億ドル規模の政府支出を抑制することを加盟国に義務付けるもので、WTOとして初めて環境持続可能性を中核に据えた多国間協定となる。発効にはWTO加盟国の3分の2以上の批准が必要だったが、ブラジル、ケニア、ベトナム、トンガが新たに批准書を寄託したことで、必要な批准国数を超えた。
同協定は、違法・無報告・無規制(IUU)漁業への補助金、乱獲された資源に対する漁業補助金、公海での無規制漁業への補助金を禁止する内容となっている。国連食糧農業機関(FAO)によると、2021年時点で世界の魚類資源の35.5%が乱獲状態にあり、1974年の10%から大幅に増加している。また、海洋漁業への補助金は世界全体で年間約350億ドルに達し、そのうち約220億ドルが海洋資源の枯渇に寄与する有害な補助金とされている。これらの補助金が過剰な漁獲能力を生み出し、資源の持続可能な利用を妨げている現状がある。
WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は特別総会で、「この協定は、貿易を人々と地球の両方に役立てることができることを示している」と述べ、世界中の漁業コミュニティの生計を保護するための加盟国の取り組みに謝意を表明した。また、「国際貿易システムが深刻な課題に直面している時期に、漁業補助金協定は、WTO加盟国が協力と共同責任の精神で協力し、地球規模の課題に対する解決策を提供できることを示す力強いシグナルを送っている」と強調した。協定は2022年6月の第12回WTO閣僚会議で全会一致で採択されていたが、発効までに2年以上を要した。
協定の実施を支援するため、WTOは「WTO魚類基金」を設立し、開発途上国や後発開発途上国(LDC)に対して技術支援と能力構築を提供する体制を整えた。すでに17の加盟国が同基金に1,800万ドル以上の拠出を約束しており、6月には協定を批准した適格国に対してプロジェクト補助金の第1回募集を開始している。また、協定の実施を監督するため「漁業補助金委員会」が設立され、加盟国の漁業慣行と補助金に関する定期的な対話を維持し、政府の慣行の透明性を高める役割を担う。日本を含む主要漁業国の多くも批准手続きを進めており、2026年3月に予定される第14回閣僚会議までに全加盟国の批准を目指している。
海洋資源の持続可能な利用は、食料安全保障と数億人の生計に直結する地球規模の課題であり、今回の協定発効は多国間主義による環境保護の重要な一歩となる。各国が協調して有害な補助金を削減することで、将来世代のための海洋資源の保全と、漁業に依存するコミュニティの持続可能な発展の両立が期待される。
【参照記事】WTO Agreement on Fisheries Subsidies enters into force

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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