暗号資産市場の新たなトレンド、ガバナンストークンやファントークンの発行が加熱 − 6月後半の重要ニュース(6/15~6/30)

今回は、6月後半(6月15日〜6月30日)の暗号資産・ブロックチェーン業界の重要ニュースについて、田上智裕氏(@tomohiro_tagami)が解説したコラムを公開します。

目次

  1. CompoundがガバナンストークンCOMPを配布
  2. FCバルセロナがFTOで資金調達
  3. 中国BSNが「オラクル問題」と「インターオペラビリティ問題」を解消へ
  4. Ripple発の送金システム「PayID」が始動
  5. 世界経済フォーラムでブロックチェーン企業が選出
  6. 暗号資産デビットカード発行企業に業務停止命令
  7. まとめ・著者の考

6月後半(6月15日〜6月30日)の暗号資産・ブロックチェーン業界は、CompoundのガバナンストークンCOMPの配布によって新たなトレンドが生まれました。また、業界の成熟と共にFTOの盛り上がりやPayIDといったプロトコルの整備も進んでいます。本記事では、6月後半の重要ニュースを解説と共におさらいしていきます。

CompoundがガバナンストークンCOMPを配布

人気DeFiサービスCompoundが、独自トークンCOMPの配布をスタートしました。COMPの配布による資金調達(ICO)はなく、ガバナンストークンとしての役割を持ちます。

COMPは、Compoundを利用する度に付与され、保有者はプロジェクトのロードマップにおける意思決定に対して投票できる権利を有することになります。これがガバナンストークンの特徴です。他には、MakerDAOのMKRなどがあげられます。

ガバナンストークンは本来、プロジェクトの意思決定に介入するための権利として機能します。しかしながら、COMPは配布開始後に価格が暴騰し、DeFi市場全体に混乱を招くほどの事態に発展しました。

理由としては、ガバナンストークンに期待される以上の価値がついてしまい、明らかな投機需要が発生していたためです。2017年前後に弾けたICOバブルを彷彿とさせます。

相当の知識を持ち合わせていない場合、しばらくはDeFi市場から身を引いた方が安全かもしれません。

【参照記事】The Agricultural Revolution of DeFi is underway
【参照記事】Compoundが $COMP トークンを発行しコミュニティメンバーによるガバナンスを実現

FCバルセロナがFTOで資金調達

人気サッカーチームFCバルセロナが、独自のファントークンを発行することによる資金調達「FTO(Fan Token Offering)」を実施しました。発行されたファントークンは「BAR」と名付けられ、2時間で130万ドルを完売しています。

ファントークンによる資金調達は、ICOと同様にイーサリアムのERC-20を使って実施されることが多くなっています。ICOとの大きな違いはありませんが、ファントークン専用の取引所も存在するなど、FTOの環境が少しずつ整備されているといえるでしょう。

発行された独自のファントークンは、先述したガバナンストークンに類似する役割を果たします。購入者は、チームの方針に意見できたりVIP席で試合観戦ができたりするのです。株式会社における株主優待や、クラウドファンディングに似た性質を持っているといえるのではないでしょうか。

【参照記事】サッカーチーム「FCバルセロナ」のファントークン、2時間で完売
【参照記事】From today, Barça fans can get the first Fan Tokens to take part in Club surveys

中国BSNが「オラクル問題」と「インターオペラビリティ問題」を解消へ

中国の国家運営ブロックチェーンプラットフォーム「BSN(Blockchain Service Network)」が、ChainlinkおよびCosmosとの提携を発表しました。

BSNは、習近平国家主席自らが旗を振るブロックチェーンプロジェクトの一環として、開発が進んでいるクロスチェーンプラットフォームです。クロスチェーンとは、異なるブロックチェーンを統合することを意味し、BSNではイーサリアムやイオスといった主要なパブリックチェーンが対象になる予定です。

中国では、ブロックチェーンを国家戦略として位置づけており、BSNを通して民間の開発を政府が支援する意向をみせています。そんなBNSの課題であった「オラクル問題」と「インターオペラビリティ問題」を解決すべく、今回新たにChainlinkおよびCosmosとの提携を発表しました。

オラクルとは、ブロックチェーン外にあるデータを、信憑性を維持した状態でブロックチェーンに取り込むことを意味します。ブロックチェーンに記録するデータそのものが誤っていた場合、ブロックチェーンが意味を成さなくなってしまいます。このオラクル問題に取り組むのがChainlinkです。

一方のインターオペラビリティは、異なるブロックチェーンで管理されるアセットに相互互換性を持たせることを意味します。現状、ビットコインのブロックチェーンで管理されるBTCは、イーサリアムのブロックチェーンで直接的に扱うことができません。これでは、BSNの目指すクロスチェーンが実現できないのです。このインターオペラビリティ問題に取り組むのがCosmosです。

ChainlinkとCosmosは、着実に開発が進んでいる数少ないブロックチェーンプロジェクトです。この2つに対してアンテナを張っていた中国政府は、やはり優れた人材が揃っているのだと思われます。

【参照記事】中国の国家ブロックチェーン構想:ChainlinkとCosmosが参画した理由
【参照記事】中国の国家ブロックチェーンサービス、Chainlinkのオラクルに導入──過去最高値付近の仮想通貨の現在

Ripple発の送金システム「PayID」が始動

国際送金ネットワークを提供するRippleが、Open Payments Coalitionと共同で開発した送金規格「PayID」を発表しました。異なる送金サービス間でも、手軽に送金できる仕組みを提供していきます。

Open Payments Coalitionは、世界中の暗号資産・ブロックチェーン関連企業および非営利団体が参画する組織です。創設メンバーには、BraveやBitGo、Huobiなどを含む計40以上もの団体が名を連ねています。

インターネットには様々な共通規格(プロトコル)が整備されています。例えば、メールの送受信時に使う「SMTP」や「POP」などがあげられます。こういったプロトコルが整備されていることで、我々はシームレスにインターネットを使用することができているのです。Gmailから送られたメールがOutlookでは受信できない、といった状態は非常に不便だといえるでしょう。

しかしながら、送金シーンではこのプロトコルが統一されていません。そのため、異なるプロトコルを採用しているサービス間の送金においては、複雑な手順を踏まなければならないのです。

今回発表されたPayIDはこの問題を解決すべく、統一された共通規格の開発を実現しようとしています。具体的には、下図のように銀行口座や支店、口座番号などから生成される一意の送金IDを使用します。利用者は、このIDのみで送金ができるようになるのです。

暗号資産やクレジットカード、キャッシュレスアプリなど全てのサービス間における送金を共通IDに統一

PayIDは、Rippleのグローバル決済ネットワーク「RippleNet」にも統合され、相互互換性を持つことになります。従って、RippleNetの利用企業はすぐにでもPayIDを使用することができるようになるでしょう。

Rippleは、情報の移動と同じくらい簡単に、お金が移動する世界の実現を目指しています。今回のPayIDの取り組みはRipple単独ではないものの、ビジョンに即した非常に良いものといえるのではないでしょうか。

【参照記事】Ripple社が主導となりOpen Payment連合を立ち上げ、グローバルな支払いを簡素化するPayIDのローンチを発表
【参照記事】Ripple, Brave and Huobi Join Instant Global Payments Network PayID

世界経済フォーラムでブロックチェーン企業が選出

世界経済フォーラム(WEF)における先端技術部門「Technology Pioneers」で、今年はブロックチェーン関連企業が6社選出されました。

選出されたブロックチェーン関連企業は以下の通りです。

  • MakerDAO:ステーブルコインを発行
  • Lightning Labs:Lightning Networkの開発
  • Elliptic:ブロックチェーン上のトランザクションを分析
  • Chainlink:オラクル問題に取り組む
  • Ripio:ブロックチェーンを使った次世代決済システムを開発
  • Veridium Labs:環境問題をブロックチェーンで解決

同部門は2000年より設立され、これまでにGoogleやTwitter、Airbnb、Rippleといった企業が選出されてきました。今年は全体で100社選出されましたが、年々ブロックチェーン関連企業が増えている傾向にあります。

なお、選出された企業はWEFコミュニティに参画し、2年間カンファレンスに参加する権利を得ることができます。またディスカッションの場では、各分野の最先端事例や知見を共有する役目が求められるといいます。

【参照記事】技術のパイオニアに仮想通貨・ブロックチェーン企業を選出 今年はMakerDAOやChainlinkなど6社=世界経済フォーラム
【参照記事】MakerDAO, Lightning Labs are in World Economic Forum’s list of tech pioneers for 2020

暗号資産デビットカード発行企業に業務停止命令

約2,300億円の不正会計疑惑の渦中にある、独ワイヤーカードの子会社であるWirecard Card Solutions(WCS)が、イギリスの金融庁から業務停止命令を受けました。

WCSは、暗号資産デビットカードを提供する企業であり、Crypto.comやTenXといった著名プロジェクトを顧客に抱えています。両者はいずれも、今回の停止命令に伴いサービスの提供を断念せざるを得ない状況に陥りました。

なお、業務停止命令は6月30日に解除され、サービスの提供を再開すべく準備を進めているといいます。

【参照記事】Crypto.com, TenX crypto debit cards frozen following Wirecard scandal
【参照記事】独ワイヤカード子会社、業務再開へ 英FCAが業務停止命令を解除

取引所への新規上場をスムーズにするRosettaが公開

最後に少しレベルの高いトピックですが、Coinbaseの発表したブロックチェーン統合ツール「Rosetta」についても紹介します。

現状、暗号資産取引所は各通貨を上場させる際に、それぞれに対して異なる開発を迫られています。イーサリアムのERC-20を使ったトークンだけであればこの問題は発生しませんが、BTCやETH、XRPといった通貨は、全て異なる仕様になっているのです。日本の取引所で新規通貨の上場が活発ではないのも、この問題が理由の1つとしてあげられるでしょう。

今回、世界最大の取引所Coinbaseが発表したRosettaは、この問題を解決するために開発されました。Rosettaは、ミドルウェアのAPIとして機能します。Rosettaを使うことで、取引所は異なる仕様の通貨・トークンでも、これまでのように複雑な対応を個別に行う必要がなくなるのです。

Coinbaseには非常に多くの通貨・トークンが上場しており、以前よりRosettaのような機能は存在していたと思われます。つまり今回、このRosettaを外部へ公開することになったわけですが、この取り組みはエコシステムの拡大に直結する非常に大きな対応だといえるでしょう。

【参照記事】Introducing Rosetta: Build once. Integrate your blockchain everywhere.
【参照記事】Coinbase announces Rosetta toolkit for blockchain integration

まとめ・著者の考察

6月後半は、CompoundのガバナンストークンCOMPの暴騰やバルセロナによるFTO、中国BSNのChainlinkおよびCosmosとの提携など、非常に大きなニュースが複数ありました。これだけの取り組みが短期間に次々と出てくるのは、暗号資産・ブロックチェーン業界ならではだと改めて感じます。

一方で、WEFでのブロックチェーン関連企業の表彰や、CoinbaseのRosetta公開などの動きからは、業界が少しずつ成熟してきている様子も伺わせます。引き続き、成長著しいDeFi市場を中心に、取引所や政府系プロジェクトからも目が離せません。

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田上智裕

田上智裕

株式会社techtec 代表取締役。リクルートホールディングスでの全社ブロックチェーンR&Dを経験後、2018年に株式会社techtecを創業。「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営。メディアでの執筆や海外での講演などを中心に、ブロックチェーン業界の発展にコミットしている。