ポストコロナはブロックチェーンでどう変わるのか。BG2C特別オンライン会議が開催

日本経済新聞社と金融庁の共催するブロックチェーンをテーマにした国際会議「BG2C FIN/SUM BB」が、8月24日~25日にかけて開催されます。開催に先がけて、6月26日に特別オンラインセッションが実施されました。テーマは「ブロックチェーン技術がコロナ感染症に伴う社会問題解決にどう活用されるのか」。

本記事では、世界各国の有識者によって議論されたポストコロナ時代におけるブロックチェーンの役割について、セッションレポートをお届けします。

なお、当日の様子は下記よりアーカイブ配信されています。
英語:https://vimeo.com/430632626
日本語:https://vimeo.com/430632648

目次

  1. COVID-19で露呈した中央集権的ガバナンスの限界
  2. IdentityとIdentifierを分けて考える
  3. 完全な分散型アーキテクチャの設計と懸念
  4. 市場は既に十分に分散化されている
  5. マネーの役割とデジタル通貨
  6. 未来のマネー
  7. まとめ、著者の考察

COVID-19で露呈した中央集権的ガバナンスの限界

本セッションのスピーカー陣

まず冒頭で、モデレーターを務めるCoinDesk最高コンテンツ責任者のマイケル・ケーシー氏より、COVID-19によって新たなガバナンスの必要性が浮き彫りになった点が提言されました。

氏は、「現在の社会における我々は運命共同体であり、他者への依存度が高く連続性が重要であることが明らかになった」といいます。その上で、中央集権的なガバナンスは非常時に機能しないことも明確になったと述べました。

一方で、コロナ禍で機能した組織として地方自治体を取り上げています。地方自治体は小さな組織であることが多く、ボトムアップ的に柔軟な動きを取ることが可能です。その点で、今回の非常時にうまく機能したといえるでしょう。

政府を含むこれまでのサプライチェーンでは効率性を重視してきたため、COVID-19のような非常時に耐えることができませんでした。つまり、今後の社会には、状況に応じて柔軟に対応できる新たなガバナンスシステムが必要になるのです。

マイケル氏は、ガバナンスシステムには「分散性」が必要だと述べ、「柔軟なシステムを構築するためにはブロックチェーンが欠かせない」と説明しました。また、分散性を実現するためのキーワードとして「包摂」と「排除」という言葉を用い、アルゴリズムが特定の集団のために存在してはならないとも述べています。

IdentityとIdentifierを分けて考える

本セッションにおける1つ目の大きなテーマは「アイデンティティ」です。モデレーターのマイケル氏は、分散型ガバナンスを構築する際の重要な要素として、アイデンティティを取り上げました。

このテーマに対して、Global Commission on Internet Governance(世界のインターネットガバナンスを協議する委員会)のコミッショナーを務めるピンダー氏は、次のように述べています。

「我々は、自身のパーソナリティを失わずに、プライバシーを保護した状態で情報を共有できるようにならなければならない。人間が人間であることを感じることが重要だ。そのためには、「Identity(パーソナリティ)」と「Identifier(識別子)」を分けて考える必要がある」。

また、コロナ禍で重要な接触追跡アプリについても触れました。ピンダー氏はこのトピックに対して、「誰が我々を監視するのか、政府なのか民間企業なのか。それを選ぶ権利は我々が持たなくてはならない」と述べています。そして、いずれの選択肢にせよ「データを管理する基盤技術はブロックチェーンである必要がある」と加えました。

ブロックチェーンは、透明性を保ちながらデータを個人に帰属させることができる点が特徴です。接触追跡アプリを構築するには、うってつけの基盤技術だといえるでしょう。

続いて、フランス経済産業省傘下にある情報通信系の高等教育機関Institut Mines Telecomで教授を務めるホアキン氏が、アイデンティティの文脈からプライバシーについても言及しました。

「アイデンティティに関する現在の議論は、ほとんどが「プライバシーvs有用性」の構造になっている」と氏は述べます。つまり2つの重要な要素がトレードオフの関係性になっているというのです。

氏は、「プライバシーと有用性の両面を同時に実現するためには、“完全な”分散型アーキテクチャが必要だ」と述べました。準分散型のアーキテクチャの場合、プライバシーが完全には確保されないといいます。

ホアキン氏、Identifierの管理には“完全な”分散型アーキテクチャが不可欠であると述べた

完全な分散型アーキテクチャの設計と懸念

では、完全な分散型アーキテクチャを構築するにはどのような設計が必要になるのでしょうか。

慶應義塾大学大学院で特任准教授を務めるクロサカ氏は、「情報を取得する際に、個人を尊重する意志をもっと持つべきだ」と述べました。クロサカ氏は、「全ての社会システムにおいて、個人が中心にあるべき。全ての社会システムでは、それぞれの個人がお互いに信頼できる状態が重要になる。そのためには、分散型アーキテクチャによる責任の分散化・共有をできることが不可欠」と意見します。

モデレーターのマイケル氏は、プライバシーと有用性を同時に実現するための方法として、「結局は我々の振る舞いが重要になる」と述べました。さらに、社会システムにおけるブロックチェーンを使ったインセンティブ設計が鍵になると補足しています。

エンタープライズブロックチェーンの開発に取り組むR3で最高技術責任者(CTO)を務めるリチャード氏は、マーケット全体のオペレーションを改善する必要があると述べました。

特に先進国では、多くのステークホルダーを抱える構造上、大きな変革を起こすことが困難な場合が珍しくありません。しかしながら、COVID-19をきっかけに社会は大きな変革に迫られています。

氏は、ブロックチェーンを「産業レベルの大変革を起こすことができる技術」と説明し、半年前では不可能だと考えられていたことでも今なら実現できると強調しました。

コロンビア大学ロースクールの教授を務めるカタリーナ氏は、分散型アーキテクチャに対する懸念を述べています。氏は、ブロックチェーンにおける権力の集中化を危惧し、「コーディングができる人が社会の規範を決めてしまう恐れがある」と提唱を鳴らしました。

この懸念を払拭するには、「相互運用性が欠かせない要素であり、多くの人々が関わることが重要である」と説明しています。

市場は既に十分に分散化されている

モデレーターのマイケル氏は、「コードは法律ではない。包摂的でなければ例え完全な分散型にみえても、究極的には特定の権力者のためのシステムになってしまう」と言及しました。それでは、どのようにして権力を分散させつつ、多くのステークホルダーをまとめあげるのでしょうか。

ジョージタウン大学で研究教授として活動する傍らBlockchain Governance Initiative Network(BGIN:ビギン)の暫定共同チェアも務める松尾氏は、「ブロックチェーン(ビットコイン)は分散システムを維持するインセンティブネットワークである」と述べました。

分散型のアーキテクチャを構築するには、専門家の多様性が必要だと説明し、だからこそボトムアップ型のアプローチが重要になるといいます。そして、ブロックチェーンがこれを実現するのに最適なシステムだと説明しました。

R3のCTOを務めるリチャード氏は、自戒の念も込めて次のように話しました。「ブロックチェーンに関わる我々のような人間は、既存のサプライチェーンが非効率だからといって、仲介者を排除しようとしすぎていた」。

分散型アーキテクチャの構築は、目標ではなくプロセスです。氏は、「既存市場をみても、既に十分に分散されているものが数多く存在する。これは、我々が分散型を押し付けたのではなく市場が自ら分散型を選んだ証拠だ。私の仕事は、既に分散型にある市場をさらに効率良くすることであり、市場そのものを分散型にすることではない」と話しました。

これは、あらゆる先端テクノロジーにおける永遠の課題だといえるでしょう。プロセス自体が目標になってしまうと、本来の課題を見失ってしまうのです。

リチャード氏、終始ブロックチェーン開発者ならではの鋭い意見が目立った

マネーの役割とデジタル通貨

ブロックチェーンは、新たなガバナンスシステムだといえます。モデレーターのマイケル氏は、現在のガバナンスシステムについて次のように述べました。「COVID-19によって、政府は必要な物資を本当に必要な人に対して迅速に届けられないことが明確になった。金融を含む様々な規制は自由に整備できるが、本当に必要な行動は取れない」。

コロンビア大学の教授を務めるカタリーナ氏は、政府の問題点について次のように述べています。「米国政府は、全国民に対して手が届かないことがわかった。なぜなら、銀行口座を持たない人もいるから。そこで期待されるのがデジタル決済システムであり、全国民がFRB(米国の中央銀行制度)に口座を持つことが望ましい」。

米国や日本のような先進国においても、銀行口座を持たない人は数多く存在しています。この点については、日本銀行副総裁の雨宮氏も言及してきました。

米国では、民主的なドル制度の研究が進んでおり、2019年の秋にはニューヨーク州でデジタルドルに関する法案が提出されています。州単位でデジタル口座を住民に向けて開設し、自治体に関する支払いの際にはこのシステムを使用する、といった取り組みです。

これについてカタリーナ氏は、「このデジタルドルは貨幣やマネーと呼んではいけない」と話しました。また、「既存ドルとの優位性についても様々な議論が巻き起こりそうだ」と言及しています。

GCIGのコミッショナーを務めるピンダー氏は、マネーの役割について、昨今の香港における歴史的な変革を目の当たりにしている立場から次のように述べました。「私は現在、香港に滞在している。ここにいると、「マネー」と「マネーの機能」は分けて考える必要があることを痛感する」。

続けて氏は、「5000以上も存在する暗号資産によって、金融の細分化が起きている」と言及し、「経済活動でまず必要なのは、その経済圏における価値交換をどのように合意させていくかということ」と補足しました。これこそが、マネーの本質だといいます。

今後、CBDCなどのデジタル通貨が誕生した場合、議論にはグローバルな視点も必要になるため、マネーの機能はより広範に及ぶことが予想されます。

未来のマネー

SBI R3 Japanの代表取締役を務める藤本氏は、マネーの役割という文脈で、日本円について「日本政府は世界最大の債務を抱えている。なぜ日本円が安定しているのかわからない」と述べました。

CBDCは社会コストを下げつつ、ポータブルである点が特徴です。氏は、「ブロックチェーンを使うことで簡単に複数の通貨を繋ぐことができる」と述べています。

三井住友銀行の山崎氏は、日本とアフリカにおける中古車貿易を例に出し、次のように述べました。「中古車貿易では、既にビットコイン決済が主流になっている。なぜなら、米ドルを持っていないから」。アフリカのバイヤーがビットコインで支払い、日本の輸出企業は受け取ったビットコインを円に換金しているという。

「未来における銀行の役割が何かは現時点ではわからないが、価値の移転・交換をする機能については、他の方法に変わる可能性が高いだろう」と氏は述べています。

最後にモデレーターのマイケル氏が、「本セッションは、デジタルシチズンの役割を尊重できる政府またはガバナンスモデルを作りたい、という夢の話だったように思う。包括性と個人の役割が重要であるというメタ的なテーマになったが、非常に示唆に富む内容だったのではないか」と、締め括りました。

冒頭で紹介したメインイベント「BG2C FIN/SUM BB」は、8月24日~25日にかけて東京日本橋で開催されます。現時点では、実会場とオンラインの両方で実施される予定です。

まとめ、著者の考察

本セッションは、世界各国で活躍するスピーカー陣によって展開されたため、前提として「デジタル」と「グローバル」が共通認識になっていると感じました。COVID-19によって生活様式が劇的に変わる中、これまで当たり前のように成立していた政府やマネーについても、大きな変革の時が近づいているのかもしれません。

Web3.0の前提となるのは、ガバナンスとマネーの「デジタル化」および「分散化」です。個人的には、R3のリチャード氏が述べたように、ブロックチェーンによる分散性は適材適所であるなという意見に同意です。

ガバナンスとマネーが今後どのようにデジタル化および必要に応じて分散化されていくのか、引き続き注目していきましょう。

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田上智裕

田上智裕

株式会社techtec 代表取締役。リクルートホールディングスでの全社ブロックチェーンR&Dを経験後、2018年に株式会社techtecを創業。「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営。メディアでの執筆や海外での講演などを中心に、ブロックチェーン業界の発展にコミットしている。